JFL第28節(11月11日)で、12位のアトレチコ鈴鹿が、国立競技場での15位のクリアソン新宿に3-0で勝利し、11位に浮上した。鈴鹿は、来年2月で58歳にして来2025シーズンも現役続行しプロ40年目を迎えることが発表された日本サッカー界の生きる伝説、カズこと三浦知良を擁する。
カズは前節(11月3日)のブリオベッカ浦安戦に続き、左膝の負傷でベンチ外だったものの、来季も横浜FCからのレンタルとして鈴鹿でプレーすることになる。

11日の新宿戦では、試合前の明治安田「サッカーの日」マッチ記念セレモニーの花束贈呈にカズが登場すると、敵味方関係なく歓声が上がった。旧国立競技場では日本代表(1990-2000)として、そしてヴェルディ川崎(1990-1998)のエースとして多くの印象に残るゴールを決めてきたカズ。建て替えられたとはいえ“聖地・国立”が最も良く似合う選手であることには変わりない。

カズは、2022シーズン鈴鹿ポイントゲッターズ(当時)に加入し、途中ポルトガル2部のUDオリヴェイレンセ(2023/24)に移籍。自身5か国目の海外挑戦(ブラジル=サントスなど、イタリア=ジェノア、クロアチア=ディナモ・ザグレブ、オーストラリア=シドニーFC)を挟み、今2024シーズンに鈴鹿に戻ってきた。2012年にはフットサル日本代表に選出されるなど、サッカーに欠ける情熱は衰えを知らない。

ここでは波乱万丈な鈴鹿の道のりと、鈴鹿におけるカズの役割について考察する。

アトレチコ鈴鹿でのカズの役割とは。“不祥事クラブ”からの脱却へ

鈴鹿の波乱万丈な道のり

鈴鹿は、2009年「FC鈴鹿ランポーレ」として発足した後、2016年に「鈴鹿アンリミテッドFC」、2020年に「鈴鹿ポイントゲッターズ」、そして2023年「アトレチコ鈴鹿」と、8年で3度もクラブ名を変更した異色のクラブだが、その道のりは波乱万丈なものだった。

クラブ結成から10年に渡り東海リーグから脱せず、JFL参戦は2019シーズンから。その初年度にいきなり女性監督の起用に踏み切り、スペイン人指揮官のミラグロス・マルティネス・ドミンゲス氏(ミラ監督)を抜擢する。女性監督就任はJリーグも含めた日本の全国リーグで初の例となった。

ミラ監督は初年度12位、翌2020シーズンは5位と合格点の成績を残したが、就任3年目の2021シーズン途中、成績不振で退任。
その後を継いだのは、元日本代表MFにして、ギラヴァンツ北九州(2011-12)、東京ヴェルディ(2013-14)、カターレ富山(2016)、鹿児島ユナイテッド(2017-18)を指揮し、Jでの監督経験も豊富なカズの兄である三浦泰年氏だった。

時を同じくして「Jリーグ百年構想クラブ」に認定され、いよいよJリーグ入りへ本格的に動き出そうとする中、不祥事が襲う。

アトレチコ鈴鹿でのカズの役割とは。“不祥事クラブ”からの脱却へ

鈴鹿の不祥事とは

2021シーズン終了後の12月、鈴鹿のクラブ運営会社を退任した元執行役員が、「当時のオーナー西岡保之氏から2020年11月29日のソニー仙台FC戦に臨む監督や選手に、わざと負けるよう指示があった」旨の内容をツイッター(現X)上で告発。加えて、クラブがこの元執行役員に2,500万円を支払ったことを明らかにした(試合は1-0でソニー仙台の勝利)。

日本サッカー史上初といえる八百長事案とあって、日本サッカー協会(JFA)は、没収試合と罰金500万円の処分を下し、さらに、告発した元執行役員がクラブに対し“口止め料”を要求したとして脅迫未遂の容疑で逮捕されるという前代未聞の事件となった。

不祥事はこれで終わらない。クラブ側が選手に持続化給付金詐欺を持ち掛けていたことが明るみとなり、さらには三浦泰年監督によるパワハラ行為が告発され、「Jリーグ百年構想クラブ」の資格が停止される事態となったのである。

本来であれば、これだけの不祥事が続けば“ジ・エンド”となってもおかしくないが、それまで運営を担っていた広告会社の株式会社ノーマークが退き、読売クラブユース出身で元清水エスパルスでもDFとしてプレーし、カズや泰年監督とも旧知の仲でもある斉藤浩史氏が社長を務める自動車部品メーカーの株式会社協同が実質的な新オーナーとなり、クラブ名も「アトレチコ鈴鹿」と変え、再出発を図る。

泰年監督は今シーズン開幕直前に辞任したものの、ヴィッセル神戸(2003-12)で活躍し、女子サッカーの強豪INAC神戸レオネッサ(2022-23)でも監督を務めた元韓国代表MFの朴康造氏を新監督に迎え、鈴鹿は今2024シーズンを締めくくろうとしている。

アトレチコ鈴鹿でのカズの役割とは。“不祥事クラブ”からの脱却へ

カズが鈴鹿にもたらすもの

鈴鹿のチームは今、ピッチ内外で変革期の途上にある。そしてカズは、新宿戦のベンチ入りメンバーの平均年齢が25歳という若いチームを牽引する役割を担っている。

身から出た錆とはいえ、“不祥事クラブ”というレッテルを貼られたことによって、スポンサー集めに苦労していることは想像に難くない。クラブ名やエンブレムを新調したところで、失った信用を取り戻す作業は簡単ではない。


しかし、黎明期のJリーグを知り、セカンドキャリアでも成功した新オーナーの斉藤氏をトップに、カズがチームリーダー兼“宣伝マン”としてプレーする姿を見せることによって、徐々にではあるが、地元の支援も広がりつつある。まだ道半ばではあるものの、カズが鈴鹿にもたらすものは小さくないのだ。

カズは試合後、報道陣に対応し「下(降格)も気にしなければならないが、このクラブの目標はあくまで、クラブライセンスを取り、J3に昇格すること」と語った。その目標に到達するため、ピッチ内外を問わずチームに尽くし、有形無形の財産を鈴鹿にもたらす存在として、カズは必要不可欠なのだ。
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