そんな東南アジアが熱狂する今大会には、国籍を変えて第2の故郷で代表選手となることを選んだ日系帰化選手たちが出場する。ここでは、かつて日の丸を背負い、U-17日本代表としてU-17W杯に出場し、現在はシンガポール代表として戦うMF仲村京雅(28歳)にインタビューを行い、帰化を決意するまでの経緯やシンガポールサッカーの現状、そして代表戦への想いを聞いた。

シンガポールでプレーするに至った経緯
ー仲村選手はジェフユナイテッド市原・千葉の下部組織(U-18)を経て、2015年にトップチームに昇格していますが、そこからシンガポールでプレーするに至った経緯について教えていただけますか?仲村:ジェフとは3年契約だったのですが、1試合も出場できずにY.S.C.C.横浜やFC琉球にローン移籍を繰り返し、結局ジェフでは契約満了になってしまいました。それから、Y.S横浜に完全移籍して1年プレーした後、シンガポールに移籍しました。Y.S横浜では最初のシーズンこそ試合に出られましたが、2年目に監督が代わって出場機会が激減。その頃、22、23歳で、ちょうど大卒選手たちが入ってくるタイミングだったので、自分も何か環境を変えないとサッカー選手のキャリアが終わってしまうと感じていて、そんなときにアルビレックス新潟シンガポール(以下アルビS)からオファーがあり、即決しました。
自分が描いていたサクセスストーリーとしては、ヨーロッパに移籍して活躍し、日本代表に選ばれるというのがありました。でも、それは叶わず、それでも何とか環境を変えたくて…。海外でプロ選手としてサッカーをしながら英語も学べるということで、新しい環境に飛び込みました。是永社長から「お前のために10番を空けてあるから来いよ」と言われたことも胸に刺さりました。
ーY.S横浜時代はJ3の試合にもかなり出場していますが、それまでに経験してきた日本サッカーとシンガポールサッカーにはどんな違いがありましたか?
仲村:まず環境面が全然違いました。シンガポールには天然芝がなくて人工芝ばかり。
プレー面に関しては、シンガポールやマレー系の人たちは結構身体能力が高くて…。セパタクロー(足を使ったバレーボールのような東南アジアで行われているスポーツ)の経験者なんかもいるんですが、リカバリーでフットボールテニスをしていると、オーバーヘッドを決めたその脚で着地できるチームメイトもいて、アスリートとしての可能性を感じましたね。

アルビSが「ヒール役だった感は否めない」
ー仲村選手が在籍した2019シーズン当時のアルビレックス新潟シンガポール(アルビS)には、他にどんな選手たちがいましたか?仲村:正直チームは過渡期にありました。僕の移籍前まではリーグ3連覇(2016-2018)をしていたのですが、育成重視で高卒選手をたくさん獲得して育てて売るという方針に変わっていました。その1年目だったので、プロ経験のない選手がほとんど。U-23のチームでしたが、大半はU-19。アマチュアや学生気分が抜けない選手も多くて、僕がミーティングを開いて若い選手たちの意識を変えていこうとしても、なかなか響きませんでした。この雰囲気に流されちゃだめだと気を引き締めながらプレーしていたので、逆に自分自身にフォーカスすることができ、8ゴール9アシストの結果を残したことで、他のクラブに移籍するチャンスを掴みました。
ーシンガポールリーグでは2024シーズンに髙萩洋次郎選手、過去には李忠成選手といった元日本代表選手もプレーしていましたが、現地での日本人選手の評価は?
仲村:日本人選手に対する評価はすごく高いです。日本人は良くも悪くも扱いやすいと思うので、いきなりチームに来ても戦術にフィットしやすいし、監督が言うことに真摯に取り組む姿勢も持っているので、ほとんどのチームに1人は日本人選手がいるというのが現在のシンガポールリーグの状況。全体的に親日の人が多いので、日本代表にもリスペクトがありますし、日本という国に関心を持っている人が多い印象ですね。
ーアルビSは2019年の方針転換を経て、2023年からは完全ローカルクラブへと生まれ変わりましたが、クラブ設立からは長い間、日本人選手だけのチームでした。2015-2018シーズンには多くのタイトルを獲得して、特に2016年は国内4冠に輝くなど黄金期を築いていますが、アルビSというクラブは現地でどのような存在として捉えられてきたのでしょうか?
仲村:ローカルクラブとなった今では、もうないんですが、当時は目の敵というかヒール役だった感は否めませんね。プレーしていたときはそんなに感じていませんでしたが、関係者や組織の上の人たちの話では、どうにかしてアルビSを優勝させないでやろうと画策していたようで…。タイトルを獲得しまくったことで、いきなりレギュレーションが変更されてオーバーエイジ制限をかけられたり、優勝するごとに枷を加えられているという感じでした。

ACL出場、シンガポール帰化へ
ー翌2020シーズンには国内の強豪であり、現所属先でもあるタンピネス・ローバースに移籍されました。移籍の決め手は何だったのでしょうか?仲村:まず当時のアルビSがU-23のチームだったので、他からオファーをもらえないと、最年長の僕はサッカー人生が終わるという瀬戸際でした。アルビSでは給料面のこともあり、オーバーエイジという選択肢もなかったので、タイでもインドネシアでもベトナムでも、オファーをもらわないと積むという状況。その中で、今のクラブと他に2つのクラブからオファーを受けました。他の2クラブの方が待遇面は良かったんですが、どこだったらACLに出場できるかというのを考えて、最終的にタンピネスを選びました。
ーやはり東南アジアでプレーする日本人選手にとって、ACL出場というのは特別なモチベーションになりますか?
仲村:モチベーションでしかないですね。
初のACLではガンバ大阪と同じグループで、初戦は僕たちも結構やれたのですが、チャンスを決めきれずに0-2で負けて、再戦した2戦目は1-8でボコボコにされました。でも、その時の経験があったから、シンガポールに戻った後も基準を間違えないで済むようになった気がしていて「今僕は抜けてシュートが打てたけど、あの時のガンバ相手だったら打てなかったな」などと考えるようになりました。
ー外国人助っ人としてプレーする中で、シンガポール帰化を決意したのはいつ頃ですか?
仲村:タンピネスに来て2年目だったか、3年目だったかのときに5年契約を提示されて、その時にスタッフから「いっそ帰化しちゃえば?」と言われたんです。向こうからしたら茶化した一言だったのかもしれないですけど、僕にはビビっとくるものがあって、そういえば俺って夢があったよなと思い出しました。
小6のころ、実家の大黒柱に「サッカー選手になる」という夢を紙に書いて今も貼ってあるんですけど、その夢を達成してプロになった年にもう一つの夢として、「2022年カタールW杯出場」と書いて貼ったんです。代表選手になる、W杯に出るという夢をすっかり忘れていたんですが、そのスタッフの言葉で思い出して、シンガポールからW杯に出るというのは現実的には難しいけれど、可能性はゼロじゃない。それならチャレンジしようと決意しました。
心配だったのは家族のことです。でも、妻も娘もシンガポールをすごく好きでいてくれて、「シンガポール国籍を取ってもいい?」と相談したところ、「いいよ、面白いね」という感じだったので、特に帰化に不安はありませんでした。

シンガポール代表として
ー最近ですと、インドネシア代表が自国にルーツを持つヘリテイジ型の帰化選手を大量補強して話題になりましたが、シンガポール協会の帰化戦略に対するスタンスは?仲村:10年ぐらい前は、スタメンの半分が帰化選手という時代もあったそうですが、彼らが引退してパスポートを返却し、自国に帰るパターンが多かったので、あまり協会としても促進してこなかったようです。ただ、他国が帰化戦略で結果を残し始めて、シンガポールも追随しようという流れになりつつあります。シンガポールで5年プレーする選手はなかなかいませんが、長期契約を結んで、そういう選手を増やそうという記事を昨年あたりに協会が出していました。その第1号が僕だったので、クラブも帰化手続きに協力してくれました。
ーシンガポール代表では現在、何人の帰化選手が招集されていますか?
仲村:今は僕一人です。もう一人、韓国出身のソン・ウィヨン(ライオン・シティ・セーラーズFC)という選手が以前に招集されていたんですが、今回は呼ばれていません。ヘリテイジ型だと、シンガポール人の祖父を持つペリー・ン(英2部カーディフ・シティ)という選手がいて、僕と同時期にシンガポール代表の練習にも参加しましたが、まだ国籍が取得できていないので…。でも、帰化選手はこれからも増えると思います。
ーシンガポール代表では、吉田達磨監督(2019-2021)、西ヶ谷隆之監督(2022-2024)、小倉勉監督(2024-)と日本人監督体制が3代続いています。現地での日本人指導者に対する評価はいかがでしょう?
仲村:日本人指導者に対する評価は非常に高いです。やはりアルビSが多くのタイトルを獲得したことで、自分たちもそういうサッカーをやりたいという気持ちがあって日本の経験ある指導者を連れてきているので、リスペクトもあるし信頼もあります。24年から小倉監督が就任して、W杯2次予選では中国、韓国、タイを相手に結果は残せなかったんですが、ファンや協会からも小倉監督のサッカーは高く評価されました。

代表デビュー戦でマン・オブ・ザ・マッチ
ー代表デビュー戦となった11月中旬のミャンマー代表との国際親善試合(3-2勝利)を振り返っていただけますか?U-17日本代表としてU-17W杯に出場して以来、実に10年以上ぶりの代表戦だったかと思いますが?仲村:U-17のときもそうでしたが、今回もかなり緊張しました。前日まではそうでもなくて気楽な感じでぐっすり眠れたんですけど、朝起きた瞬間になぜかすごく緊張してきて、その状態のままシンガポール国歌を聞いて歌ったら急に緊張がなくなりました。
ーこの試合ではマン・オブ・ザ・マッチにも選ばれていますね。
仲村:自分でもいいパフォーマンスができたとは思いますけど、僕自身はゴールを決めていないので、デビュー戦のご褒美で選んでくれたんじゃないかなと個人的には思っています。
ー間もなく東南アジア最強決定戦のASEAN三菱電機カップが開幕(12月8日)しますが、国内での盛り上がりはいかがでしょう?シンガポールは2012年大会を最後に優勝から遠ざかっていますが…。
仲村:シンガポール代表が長く低迷しているので、ファンも疑心暗鬼になっていて、ファン離れが加速しているのが現状です。代表戦もあまり観客が入らず、期待値が下がっている状態。逆に過度なプレッシャーはないので、選手たちが伸び伸びプレーできる部分はあります。この間の親善試合の前に選手たちで集まって、シンガポールサッカーが落ち込んでいる今だからこそ、この大会で結果を残して、サッカー界を盛り上げようと話し合いました。選手たちの団結力は高まっています。

東南アジア最強決定戦での目標は
ーシンガポール代表チームの特徴は?仲村:今回、タイでプレーしている代表チームの顔みたいな選手2人(CBイルファン・ファンディ、FWイクサン・ファンディ)が不在なので、正直チームとしての色が全く見えない状態です。その中で新戦力の僕が、どれだけ色を出せるかというのが大事かなと思っています。クラブでは、ディフェンシブミッドフィルダーやセントラルミッドフィルダーみたいな役割ですけど、代表ではトップ下に入るので、チームの得点力を上げるスパイスになりたいです。
ー小倉監督からは、どんな役割を求められていますか?
仲村:僕自身の強みはゲームのコントロールやロングパスの展開力だと思っているんですが、監督からは「お前の強みはダイナミックさだ」と言われていて、二列目からの飛び出しとかで違いを生み出してほしいと要求されています。使う側も使われる側も両方できなきゃいけないので、頑張りたいと思います。
ーグループステージで対戦するカンボジア代表には、同じく日系帰化選手の水野輝選手(元FC琉球)、小川雄大選手(元FC岐阜)、大瀬貴己選手(元HBO東京)が招集されています。カンボジアは行徳浩二監督が指揮しており、シンガポール代表との一戦では、日本人監督対決と同時に日系帰化選手対決も実現する可能性があります。この試合に特別な感情はありますか?
仲村:日系帰化選手のほかにも数人の帰化選手が呼ばれているようで、相当手強いんじゃないかと思っています。突破を考えるとシンプルにカンボジアには負けられないという気持ちがあったんですけど、そこに日系帰化選手がいるとなると、一層負けたくないという気持ちが芽生えました。水野選手とは同郷で古くからの知り合いでもありますから、ちょっと因縁めいたものも感じます。絶対負けないです。
ーズバリ今大会の目標は? また、グループステージ突破で最大のライバルになりそうなチームはどこですか?
仲村:僕がシンガポール代表の一員として初めて臨む大会なので、自分を試す機会ですし、やるからにはナンバーワンを狙いたい。シンガポール人になって、引退後に何を残せるかだと思っているので、結果もそうだし、自分がチームに遺産を残すためのチャレンジだと思って戦います。最初が肝心なので、とにかくいい結果で終わりたい。グループステージ突破に向けた難関は、アウェイで当たるマレーシア戦かなと思います。

日本代表との対戦を視野に
ーシンガポール代表選手となったことで、近い未来、日本代表との試合も実現するかもしれません。生まれ育った国の相手と戦うことを考えたことはありますか?仲村:実はシンガポール国籍を取ると決めたときに目標を決めていて、それはシンガポール代表として日本代表と対戦し、両国の国家を涙を流しながら歌うということ。よく僕は眠る前に自分の目標を夢想することがあるんですけど、日本代表と戦っている自分の姿を想像することが多いので、そこが大きな目標になっているんだと実感します。
ー最後にシンガポール人フットボーラーとなった仲村選手の今後の展望を聞かせてください。
仲村:僕は目標を立てるのが結構好きで、日本と対戦するとか、ASEAN王者になるとか、アジアカップ予選を勝ち上がって強豪国と戦うとか色々と考えるんですけど、あまり遠いところまでは自分自身の力では変えられないなと意識しています。結局は今をどう生きるかで、それが将来に繋がる。目標を想像はするんですけど、今の自分にフォーカスし、いかに進化できるかに集中して毎日120%努力することで目標に近づいていけるようにしたいです。