移籍によって欠けたポジションについても、同じタイプの選手を獲得するのか、昨季は控えだった選手を登用するか、強化担当や監督によって考え方は異なるだろう。中には、いずれとも異なる「他ポジションからのコンバート」で戦力を整えるケースもある。
時としてサッカー選手としてのキャリアにも影響してくるコンバート。それが明らかとなったのは、昨季センターフォワードからボランチにコンバートされ、2024Jリーグアウォーズでベストイレブンにまで選出された鹿島アントラーズMF知念慶の例だろう。
ここではコンバートにフォーカスし、それがチームに与える好影響や、選手のキャリアにも関わるケースを挙げ、その効用に触れていきたい。

清水エスパルスでのコンバート
2月1日、キャンプの総仕上げとして行われた清水エスパルス対ジュビロ磐田のトレーニングマッチ。公式戦ではない上に、試合自体、雷雨の影響により後半途中で中止となってしまったが、静岡ダービーらしく、立ち上がりからインテンシティーが高い一戦となった(終了時点2-0で清水の勝利)。その試合、清水のスターティングメンバーの右サイドバック(SB)には、大卒2年目のDF高木践の名前があった。阪南大学高校、阪南大では一貫してセンターバック(CB)としてプレーし、大学選抜にも選出されていた高木は、身長173センチでプロに入るとサイズ不足な面があり、2シーズン(2023シーズンは特別指定選手)合計でカップ戦も含めて18試合の出場にとどまっていた。
清水では不動の左SB山原玲音のバックアッパーとしてプレーすることはあった高木だが、この一戦で右SBとして先発したということは、彼が今後、本格的にこのポジションでプレーしていくことを意味しているのだろう。
昨季右SBとして清水のJ1昇格に大きく貢献したDF原輝綺が名古屋グランパスに移籍し、その穴埋め補強がなかったことでサポーターをやきもきさせていたが、高木は粗削りながらも積極的なオーバーラップや正確なクロスを披露し、サガン鳥栖から期限付き移籍してきたMF中原輝とのコンビネーションも良く、新味を見せた。
清水におけるCBからSBへのコンバートといえば、ユース育ちのDF立田悠悟が入団2年目の2018シーズン、右SBとして開幕スタメンを勝ち取り、翌週の第2節ヴィッセル神戸戦でプロ初ゴールまで決めてみせた。その活躍ぶりによって日本代表入りも果たしている。
清水のJ2降格もあって、立田は2023シーズンに柏レイソルに移籍したものの、PKに繋がるミスが多く、サポーターからの信頼が得られぬまま昨季限りで退団。今季は初のJ1に挑むファジアーノ岡山に移籍し、捲土重来を期している。岡山からもその経験とポリバレントさが期待されている。

アビスパ福岡の総シャッフル
また今季、コンバートというより“総シャッフル”といっても過言ではないレギュラー争いを繰り広げているのが、金明輝新監督を迎えたアビスパ福岡だ。金監督は、下部組織育ちで主にトップ下が定位置だったMF北島祐二のボランチへのコンバートに踏み切った。金監督がサガン鳥栖U-18の監督だった際、対戦相手として北島を見ていたことで、「彼はボールをたくさん触れるポジションで生きる選手。攻撃に転じた時のアイデアがある」と評した。
プロ8年目を迎える北島も、シーズンを通してレギュラーポジションを掴んだ経験がないことで、このチャンスを逃すまいと、昨季のレギュラーだったMF松岡大起、MF重見柾斗に加え、V・ファーレン長崎から加入したMF秋野央樹らの中に割って入ろうと、必死に取り組んでいる。
さらに、ウイングバックやサイドハーフもこなせるFW岩崎悠人をシャドーストライカーあるいはセンターフォワードに。シャドーストライカーだったMF金森健志をトップ下に。ウイングバックやサイドバックが本職だったDF湯澤聖人やDF小田逸稀をサイドハーフに。
高いレベルでのポジション争いが現在進行形で行われており、トップ下が鹿島アントラーズから移籍してきたMF名古新太郎になるか、東京ヴェルディから来たMF見木友哉になるかも含めて、開幕スタメンの名前はおろか、フォーメーションすら予測できない。
前任の長谷部茂利前監督が、どちらかといえば選手の特性を見極めた起用をするタイプだったことを考えると、チームビルディングが180度変わった印象。

コンバートの成功例
昨季、鹿島でセンターフォワードからボランチにコンバートされて成功した前述の知念は、川崎フロンターレ(2017-2022)ではなかなか層の厚いFW陣に割って入ることができず、レンタル移籍先の大分トリニータ(2020)でも結果を残せず、選手として頭打ちの状態にあった。ランコ・ポポヴィッチ元監督(2024)は負傷欠場したMF柴崎岳の代役に知念を抜擢。もう1人のボランチが現在ブンデスリーガのマインツでレギュラーを張っているMF佐野海舟だったという幸運もあったが、フィジカルを生かしたデュエル勝利数はJ1リーグ最多の138回を数えた。
ポポヴィッチ監督は2024シーズン途中に成績不振で鹿島を解任されたが、知念が持つポテンシャルを見抜き、コンバートを告げられた本人も驚くような起用法によって、思わぬ形でキャリアのピークを迎えた。もちろん本人の努力もあるが、思い切ったコンバートに踏み切った同監督の慧眼には恐れ入ったというしかない。
また、元日本代表主将の長谷部誠氏(現フランクフルトU-21コーチ兼日本代表コーチ)は浦和レッズ時代(2002-2007)はトップ下だったが、ヴォルフスブルク(2008-2013)、ニュルンベルク(2013-2014)、アイントラハト・フランクフルト(2014-2024)と移籍する度に徐々にポジションを後ろに下げていき、最終的にはリベロ(3バック中央)として活躍。40歳まで欧州で現役を続けた(ちなみにヴォルフスブルク時代の2011年9月17日のホッフェンハイム戦では味方GKが退場となり、交代枠を使い切っていたため後半35分からGKを務めたこともある)。
プロ野球でコンバートというとややネガティブなイメージがあるが、サッカーにおけるコンバートは自身の隠れた能力を呼び覚ます絶好の機会とも言える。現在、能力を発揮できずに燻っている選手も、きっかけ次第で「第2の知念」になれるチャンスがあるのだ。
選手が複数ポジションをこなせることが当たり前となった現在だが、サポーターを驚かせるようなコンバートがあるのか、シーズンを通して注目していきたい。