2月10日に東京都内で行われたJリーグ開幕イベントの際、Jリーグチェアマンの野々村芳和氏は、森保一日本代表監督らの要望を受ける形で、今2025シーズンのJリーグについて「ここを変えていこうという2つの観点」を提示した。「コンタクト(接触)の強さと深さの向上」と「アクチュアルプレーイングタイム(APT=実際のプレー時間)の増加」だ。
この2点を目的に、コンタクトプレーの見極めに関する判定基準が見直された。

しかしながら、2月22日、23日にかけて開催されたJ1第2節が終わった時点で、早くも現場は混乱しているようだ。

スペイン在住のサッカージャーナリスト小澤一郎氏が、一時帰国し観戦した京都サンガ対浦和レッズ(22日/サンガスタジアム by KYOCERA/1-1)の感想として、「取るべきファールを流しすぎ」「出るべきカードが全然出ない」「結果選手が痛んで試合が止まりがち」「リスタートや選手交代が遅い」とX上で指摘。今季のJの傾向として「球際許容だけでAPT増加を狙いすぎ」「現状荒めでもファールした者有利」と斬った上で、「厳格なジャッジがないとAPTは減り選手が壊れる」と締めた。

これに対し、『DAZN』で柏レイソル対川崎フロンターレ(22日/三協フロンテア柏スタジアム/1-1)を実況したアナウンサーの桑原学氏も、試合中に審判のジャッジに言及した上で、小澤氏のこのポストを引用する形で「ジャッジリプレイ(2023シーズンまで配信されていた番組『Jリーグジャッジリプレイ』)やりたい気持ちでいっぱい」とポストした。

実況した側が違和感を口にしているのだから、プレーする選手たちはもっとレフェリング傾向の変化に戸惑っているのではないだろうか。ここでは「世界基準」を目指して見直された判定基準による混乱を検証し、結果、Jリーグがどう変化していくかを見ていきたい。

Jリーグの2025シーズン判定基準変更を検証。選手が壊れるまで続けるのか

大迫勇也「本当に大丈夫なのかなJリーグ」

J1リーグ2節終了時点で警告がないチームは、ヴィッセル神戸だけだ。22日に行われた名古屋グランパス戦(豊田スタジアム/2-2)では、名古屋イレブンのファウル覚悟の際どいタックルが主審に流される場面が散見し、FW武藤嘉紀が激昂する場面も見られた。

試合開始早々のゴールをVARで取り消されたものの、2ゴールを記録した元日本代表FW大迫勇也も試合後、判定基準の曖昧さにストレスを感じていたようで、負傷者の増加を危惧しつつ「本当に大丈夫なのかなJリーグ」と痛烈なひと言を放ったことが報じられている。

「あれはプレミア(リーグ)でもファール」と語るほど、名古屋DFの厳しいマークに遭いながらも結果を残した大迫の決定力には脱帽するしかない。1860ミュンヘン(2014)、ケルン(2014-2018)、ヴェルダー・ブレーメン(2018-2021)と長くドイツのブンデスリーガで活躍し、J復帰後も2023シーズンのJ1得点王に輝いた、衰え知らずの34歳の言葉は説得力十分だ。

同様に欧州で長くプレーしたセレッソ大阪のMF香川真司も、開幕前のガンバ大阪との大阪ダービー(14日/パナソニックスタジアム吹田/5-2で勝利)において、コンタクトプレーについて「結構流しているなという印象はあった」と話していることが報じられた。
実際、双方の1点目は主審の木村博之氏が、ファウルを流しアドバンテージを見てプレーを続けさせた好判断から生まれている。

Jリーグの2025シーズン判定基準変更を検証。選手が壊れるまで続けるのか

インテンシティの高さと汚いプレーは別物

野々村チェアマンはプレー強度について「世界を体感してきた選手や森保監督にも、どういったところを変えなければいけないかを聞いてきた」とし、「コンタクトプレー、強度というのは、強さ、深さ。世界のトップレベルでやってきた選手から何度も言われてきた部分」だと語った。“これこそが世界基準”とでも言いたげなコメントだが、そもそも、インテンシティの高さと汚いプレーとは別物だ。

それが可視化されたのが、22日の清水エスパルス対アルビレックス新潟(IAIスタジアム日本平/2-0)である。前半26分、新潟MF秋山裕紀が清水MF乾貴士に対し、スライディングタックルしたシーンだ。

秋山は足裏で乾の脛にアタックしており、乾が踏み込む寸前に軸足を抜いたお陰で大惨事は免れた。主審の高崎航地氏はファールの笛を吹いたものの、イエローカードを出す様子も見せずにプレーを再開させようとした。ところがVAR担当の御厨貴文氏からオンフィールドレビューを求められ、スローモーションで見返した上で秋山にレッドカードを提示した。

これがVARのないJ2、J3だったら「やった者勝ち」となってしまう重大な事象だ。

一方で、新潟DFのタックルを受け倒れ込んだ清水MFマテウス・ブエノのプレーに対してはファールを取らず、逆にブエノのハンドリングを取った。全く一貫性のない判定に、両軍の選手が翻弄された形となった。

Jリーグの2025シーズン判定基準変更を検証。選手が壊れるまで続けるのか

選手の負傷に繋がってしまっては本末転倒

判定基準の変更については、インテンシティの高さが武器の町田ゼルビアの黒田剛監督が歓迎するコメントを残しているという。
しかし、たった2節終了の時点で早くも問題が噴出しているのが現状だ。

また、JリーグのAPTが欧州との比較で短い(Jリーグ52分、イングランド58分、ドイツ57分、スペイン55分)というのであれば、アディショナルタイムで調整すればいいだけの話だ。実際、欧州では7~8分など一般的で、負傷者の搬送などがあれば10分を超えるアディショナルタイムを取ることも日常茶飯事だ。

取るべきファールを取らずに試合を流し、それが選手の負傷に繋がってしまっては本末転倒だろう。プレーヤーズファーストの精神を、Jリーグは忘れてしまったのだろうか。

このままのルール運用が続けば、いずれは大ケガする選手が続出することは必至だ。それは負傷した選手、および負傷させた選手が「世界基準」でないから起きたのかと問われれば、そうではないだろう。

現状、日本代表のほとんどが海外組であることを考えれば、Jリーガーが何人負傷したとしても、来年に控えるW杯北中米大会への影響は少ないだろう。かと言って、周知期間がほとんどなく、野々村チェアマンの思い付きとさえ思えるようなタイミングで実行に移された今回の判定基準の唐突な変更。

欧州クラブのように大人数の選手を抱えることもできないJリーグにあって、シーズン佳境の段階で、選手が足りずにユース選手を起用せざるを得ない状況となるクラブが出てきてもおかしくはないだろう。
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