また、清水エスパルスは25日、東京ヴェルディとの開幕戦(16日/国立競技場/1-0)で禁止エリアで大旗を使用した清水サポーター3人に対し、会場運営ルールの違反とし、1人を5試合(アウェイ戦含む)の入場禁止、2人を2試合の入場禁止処分とした。
開幕早々、問題サポーターが続出していることが明らかにされたが、ここではサポーターの違反行為の妥当性を検証するとともに、これらの行為にどう対処するべきかを示していきたい。

中指1本で「無期限入場禁止」は厳しすぎでは?
2016年、J1川崎フロンターレ対大宮アルディージャ戦(9月17日/2-3)後、川崎のサポーターが大宮の選手バスを囲んだトラブルを起こし、該当サポーター5人に5試合の入場禁止処分が科された。2018年には、浦和レッズ対ガンバ大阪戦(3月14日ルヴァン杯/1-4)で浦和サポーターが紙コップをピッチに投げ入れ、約1か月間の入場禁止処分が下された。「世界一安全なスタジアム」を標榜するJリーグは、あらゆる違反行為を徹底的に取り締まる方向性を示しているが、バス囲みやピッチへの物の投げ入れという、選手に危害が及ぶ可能性のある行為については理解できる。
しかし、今回の横浜FMの中指1本で「無期限入場禁止」は、やや厳しすぎやしないかとも感じる。
横浜ダービーで起きたこの出来事、横浜FCを格下と見下す横浜FMのサポーターが、スコアレスドローに終わったことで、不甲斐ないチームを咤する意味もあったのだろうと推察される。一線を超えたことで処分に至った事象であるものの、その「一線」はどこにあるのか、J全クラブの運営担当やJリーグ側も明確に答えられる人はいないのではないだろうか。
横浜FMの運営担当の物差しを適用するならば、低迷しているチームのサポーターが良くやる「社長出てこい!」と叫び試合後に居座る行為などは、まとめて入場禁止にされても良さそうな気もするが、そんなニュースが耳に入ってくることはない。
ちなみに、この居座り行為はJリーグ独特のサポーター文化となっており、海外ではこうした光景が見られることはない。あまりにも不甲斐ない試合であれば、試合終了を待たずにさっさと帰宅し、終了のホイッスルが鳴った頃にはゴール裏が“無人”というケースもある。
またイタリアのセリエAでは、勝利した際にはゴール裏のサポーターとともに祝うことはあるが、サポーターと選手が言葉を交わすことは八百長対策の観点から厳に禁止されている。

変化するサポーターの禁止行為
海外では発煙筒の使用が日常となっているが、厳密に言えばUEFA(欧州サッカー連盟)やFIFA(国際サッカー連盟)のルールではこれを禁止している。FIFAワールドカップ(W杯)の会場ではライターの持ち込みさえも禁じられている。しかしながら、発煙筒を焚いたサポーターが特定され入場禁止になったケースは数えるほどで、2024年のUEFA欧州選手権ドイツ大会でのクロアチア代表対アルバニア代表(6月19日/フォルクスパルクシュタディオン/2-2)で発煙筒を焚いたクロアチアサポーターに対する罰則は、サポーター個人ではなく、クロアチア連盟への2万8000ユーロ(約480万円)の罰金という形が取られた。
Jリーグでも2018年の天皇杯決勝、浦和レッズ対ベガルタ仙台(埼玉スタジアム2002/1-0)の試合前後に、スタジアム周辺で発炎筒を使用したとして、浦和のサポーター3人が書類送検されたが、その罪状は「道交法違反」だった。そのメンバーの1人の年齢が61歳だったことで、他クラブのサポーターから失笑を買った事件でもあったが、サポーターが発煙筒を焚く違法性を担保する法整備がされていないことも明らかにされた一件だった。
創設間もない頃のJリーグでは、発煙筒が黙認されていただけではなく、紙吹雪が舞い、チアホーンも応援グッズとして使用されていた。前者は国立競技場での試合の際、紙吹雪が近くを走る首都高まで飛んでしまい通行止めになったことで禁止され、チアホーンもスタジアム周辺の住民からの騒音被害の訴えがあり、販売自体が禁止されスタジアムから姿を消した。
時とともにサポーターの禁止行為も変化しているが、ピッチ乱入、発煙筒などの危険物持ち込み、差別は言うまでもないが、個人的なジェスチャーにまで罰則を科す根拠はどこにあるのか。仮に中指を立てた相手が自軍の選手ではなく、対戦相手の横浜FCの選手であれば見逃したのか。横浜FMの運営担当やJリーグ側は明確にする義務があるだろう。

一方で、YouTube撮影はOKに
一方で、Jリーグ側が緩めたルールも存在する。Jリーグは2022シーズンに「Jリーグ公式試合における写真・動画のSNSおよびインターネット上での使用ガイドラインについて」というリリースを出し、それまで禁止していた試合会場で撮影した写真や動画のSNS投稿を認め、試合シーンや大型ビジョンを写さないという条件付きながら、YouTube撮影も認めたのだ。これによって、GoPro(アクションカメラ)を片手に観客席を回るサッカー系YouTuberが続出し収益を得ている。このルール運用でも、再生回数に応じた収益を認めた上で「クラブに対して愛の無い投稿は禁止」という非常に曖昧な線引きをしている。
中指を立てる行為は「ファックサイン」と呼ばれる米国由来のものだ。元々は「侮辱」というよりも「挑発」の意味合いが強いジェスチャーで、悪役のプロレスラーが対戦相手や観客に向けて行われることも多い(テレビ中継ではモザイク処理をかけられるのが一般的)。
これが例えば親指であれば、日本や欧米各国であれば「サムズアップ」と呼ばれ、良い意味で使用されるが、中東や中央アジア、アフリカなどでは侮辱的な意味を持つ。また、手の甲を表にした「裏ピースサイン」も英国では「死ね」「くたばれ」と受け取られる。これらの例は一部に過ぎず、あらゆるハンドサインの意味や使ってはいけない国を調べ、片っ端から禁止にしていたらキリがないだろう。

取り組むべきは「差別の撲滅」
Jリーグ側や各クラブはそんな些末な事象よりも、より取り組むべきは「差別の撲滅」ではないか。歴史を紐解けば、Jリーグ史上初の無観客試合となった原因も、2014年3月8日のJ1第2節、浦和対サガン鳥栖戦(埼玉スタジアム2002/0-1)で、浦和サポーターがゴール裏スタンド入り口に掲げた「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」と書かれた差別的な横断幕が原因だった。Jリーグのみならず、欧州では差別を深刻な問題として受け止められており、日本代表MF鎌田大地(クリスタル・パレス)も被害に遭っている。
さらに、レアル・ソシエダに所属する日本代表MF久保建英は、2月23日のレガネス戦(レアレ・アレーナ/3-0)で後半3分にスーパーゴールを決めた直後の後半16分、ゴール前での競り合いで倒れ込むと、レガネスDFレナト・タピアから何やら言葉を掛けられ激昂。タピアのシャツを掴んで引き倒そうとするなど、これまで見せたことのない怒りを見せた。
それはレガネスGKマルコ・ドミトロビッチが仲裁に入るほどで、興奮冷めやらぬとみたイマノル・アルグアシル監督は、後半20分に久保をベンチに下げた。結果、久保は警告を受け、3月2日に行われるバルセロナ戦は累積警告(通算5枚目)で出場停止となってしまった。
現地ジャーナリストが読唇術を用いて分析したところ、タピアが放った言葉は「maldito chino(クソ中国人)」だったことが判明。人種差別として告発したものの、久保の出場停止処分が覆されることはなかった。
選手同士でもこの有り様なのだから、観客からのヤジはもっと酷いものであることは想像に難くない。特にレアル・マドリードのブラジル人FWヴィニシウス・ジュニオールに対する「モンキーチャント(黒人選手に対し、サルの鳴き真似で蔑む行為)」はスペインで社会問題となった。
Jリーグにおいても2010年9月11日のJ1第22節、川崎フロンターレ対横浜F・マリノス戦(等々力陸上競技場/1-3)において、横浜FMサポーターから「ウッウッウッ」といった掛け声が起き、これが川崎FWジュニーニョとMFヴィトール・ジュニオールを標的としたモンキーチャントではないかと物議を醸した。
当時、モンキーチャントへの理解が薄く、確たる証拠もなかったためお咎めなしとされたが、何かと欧州の真似事が好きなJリーグのサポーターが、この行為を“輸入”する可能性も否定できないだろう。
現在、不良サポーターの取り締まりは“木を見て森を見ず”といった状況だ。中指を立てた者を締め出すのも結構だが、さらに重大な事象を見落とすことがないよう、Jリーグ側やJクラブの運営担当は注意深く、サポーターを監視し続けることが求められているのではないだろうか。