昨年9月に開幕し、ウインターブレイクを経て今節より後半戦が再開したWEリーグ。
ここでは、史上最多の観客動員を記録したものの、WEリーグがこれを続けていく上での問題点を指摘し、欧州との比較、さらに集客へのアイデアを示していきたい。

これまでの女子サッカー最多入場者数
これまでのWEリーグ最多入場者数は、2022年5月14日に行われた2021/22シーズンWEリーグ第21節INAC神戸レオネッサ対浦和(国立競技場/0-1)で記録した1万2,330人だ。WEリーグの観客動員数が1万人を超えた試合は、4シーズンの中でこの2試合しかない。ちなみに、WEリーグ以外の公式戦では、昨2024年12月29日に開催されたクラシエカップ決勝・広島対INAC神戸レオネッサ(国立競技場/1-0)の2万1,524人が最多だ。
国内における女子サッカーリーグ最多入場者数は、WEリーグ創設前の2011年8月6日、プレナスなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)第2節アルビレックス新潟レディース対INAC神戸(東北電力ビッグスワンスタジアム/1-2)の2万4,546人。
国内女子サッカーの最多入場者数は、2004年4月24日に開催されたアテネオリンピック2004アジア地区予選を兼ねたAFC女子アジアカップ予選大会の日本女子代表(なでしこジャパン)対北朝鮮(国立競技場/3-0)の3万1,324人となっている。
このうち、2011年の新潟対INAC神戸の一戦は、J1第20節新潟対清水エスパルス戦との“ダブルヘッダー”として開催されたもので、純粋な女子サッカーでの観客動員数とは受け止められないものだ。

史上最多動員数記録の理由
史上最多の動員数を記録した8日の試合はウインターブレイク明けの一戦で、クラシエカップ戦を制した広島とWEリーグ2連覇中の浦和という好カードである上、観客動員1万人を目指し「自由すぎる女王の大祭典」と銘打った一大プロジェクトが奏功した。しかしながらこの動員数2万156人という数字は、様々な無料招待や、先着10,000人への「レジーナ大祭典ハッピ」のプレゼント企画、さらに1万人を達成した暁には抽選で「レジーナ選手直筆サイン入りプレー写真」のプレゼント企画、という大盤振る舞いによって集客した結果だ。
当日は想定を超える多くの観客に対し、入場ゲートを1つしか設けず大行列になった末、試合開始に間に合わなかった観客が続出。混乱を生んだだけではなく、プレゼントされたハッピが試合日の夜にはメルカリで大量に出品される結果を生んだ。
この日の観客が、最も安価な席でも2,000円のチケット代金を支払い、リピーターになってくれるかどうかは、3月15日に開催される次の広島のホームゲーム、セレッソ大阪ヤンマーレディース戦(エディオンピースウイング広島)で明らかとなるだろう。記録を更新したことで「歴史に名を刻んだ!」と胸を張るのは勝手だが、次戦の観客動員数が「ウン千人」では目も当てられない。

WEリーグ、日本女子サッカー界の現状
WEリーグが始まった2021/22シーズン当時は、まだコロナ禍の影響が色濃く残り、集客目標を「1試合平均5,000人」と掲げたものの、1年目の結果は平均1,560人だった。2年目は1年目を下回る平均1,401人と厳しい状況が続いた。3年目の2023/24シーズンになって前年比23%増の平均1,723人と盛り返したものの、「平均5,000人」には程遠いままだ。11クラブで始まり、2023/24シーズンからはセレッソ大阪ヤンマーLが加わって12クラブ(うち8クラブがJリーグクラブの「女子部門」)で争われているWEリーグ。それまで開催されていたプロアマ混合のなでしこリーグから、完全なるプロリーグとして創設され、1部、2部、地域リーグとカテゴリー分けされたアマチュアのなでしこリーグとは違い、降格制度はない。試合はDAZNや公式YouTubeでも配信されている。また、将来的にWEリーグ入りを目指すクラブも全国に点在している。
男子サッカーのようにJ1を頂上としたピラミッド型ではなく、WEリーグだけ独立しているような形になっているのが、日本女子サッカー界の現状である。WEリーグのクラブがなでしこリーグのクラブと相まみえる機会は、男子サッカーの「天皇杯」に当たる「皇后杯」のみだ。
また、WEリーグは「ジェンダー平等」を目指し、リーグの参入基準に役員の一定数を女性にすることを定めている。初代のチェアには、JPモルガンなどの職歴がある実業家の岡島喜久子氏が就任し、2代目チェアには、ジャパネットたかた創業者髙田明氏の長女である髙田春奈氏が就いた。
2024年9月、3代目チェアにはJリーグチェアマンの野々村芳和氏が兼任する形となり、副理事長に日本サッカー協会(JFA)の宮本恒靖会長が就任した。結果、理事9人のうち女性が占める割合が3人となり、スポーツ庁が女子スポーツ団体に向け女性役員割合を40%以上とすることを定めたガバナンスコードに反するとして問題となっている。

欧州女子サッカーブームと比較
一方で、欧州では女子サッカーブームが起きている。2021/22シーズンUEFA女子チャンピオンズリーグ(UWCL)でのバルセロナ対レアル・マドリードの「エル・クラシコ・フェメニーノ」では、バルセロナのホームスタジアム、カンプノウに9万1,553人が集まり、女子サッカーの観客動員数世界記録を樹立した。他にも、ラ・リーガ女子(スペイン)、イングランド女子スーパーリーグ(WSL)も活況を呈している。女子サッカー界ではこれまで、米国代表や米国女子サッカーリーグ(NWSL)が世界をリードしていたが、ここにきて欧州が追い付き追い越そうとしている。
世界的に注目されるバルサ対レアルを例に挙げれば、これが男子の試合だったらスタジアム内外は殺気立った雰囲気となる。アウェイのサポーターに対しては、最寄りの駅を使わないことや、タクシーでの来場を呼び掛けられ、スタジアム入場までの導線も完全に隔離されているほどだ。
女子サッカーの試合となれば全く雰囲気は異なり、女性や子どもでも恐怖を感じずに観戦できる環境となる。同じクラブの対戦であるにも関わらず、男子か女子かの違いだけで、客層がガラリと変わるのだ。発煙筒が焚かれることもなければ、聞くに堪えないヤジが飛ぶこともない。その事実だけでも、スタジアムに行きたくとも行けなかった女性や子どもが観戦に訪れる動機となる。
日本の場合、Jリーグの会場の雰囲気が殺気立つことは非常に少なく、女性や子どもでも安心して観戦できる環境が既に整っている。それは素晴らしいことなのだが、一方で、あえてWEリーグを観戦にスタジアムを訪れる動機が1つ消えることにも繋がっていると言えよう。
日頃からJリーグのスピード感に慣れてしまっているファンが、プロとはいえ女子サッカーを観戦したとしても物足りなさを感じても致し方ないだろう。

SVリーグや女子プロレスも参考に
2024/25シーズンからはAFC女子チャンピオンズリーグが始まり、昨季のWEリーグ王者の浦和が参戦している。しかし、グループステージはベトナム(ホーチミン)での集中開催で、グループ首位通過した浦和の初戦、オディシャFC(インド)との一戦(トンニャット・スタジアム)では17-0という記録的圧勝を収めるも観客数が168人という有り様では、女子欧州CLのような競争力を帯びたリーグ戦となるまでには相当の時間がかかりそうだ。WEリーグの大半のクラブがJリーグの女子部門であることから、パラダイムシフトは困難を伴うだろうが、まず前提として「Jリーグファン」が「WEリーグファン」となることを諦め、全く別のアプローチから集客する方法を見付けなければならないだろう。
昨2024年に創立されたバレーボールのSVリーグの観客動員数比では、男子を10とすると女子は7~8といったところ。もちろん会場キャパシティーは段違いではあるが、女子は健闘しているといっていいだろう。競技そのものの人気に加え、選手個人への「カッコイイ」「カワイイ」といった人気を動員に生かしている点では参考になるのではないだろうか。
また、スポーツというカテゴリーに加えることに抵抗を感じる人もいるだろうが、プロレスも参考にできる。同じ格闘技であるにも関わらず、これほど男女で客層が違うスポーツ興行はないからだ。
現在、女子プロレスは幾度の壁を乗り越えながら再ブームを巻き起こしている。その中心にいるのが次々とアイドルレスラーを生み、実際、元グラビアアイドルの愛川ゆず季氏をリングデビューさせた女子プロレス団体「スターダム」だ。彼女たちに憧れ、応援する層は主に中高生を含む若い女性である。
試合内容を損なうことなく、選手を“アイドル化”させ、ショーアップする手法は賛否両論を呼ぶだろう。競技性では男子のJリーグに敵わず、メディアへの露出も期待できないのでなれば、SVリーグや女子プロレスを参考に、新たな客層の掘り起こしを図ってみるのも一考に値するのではないだろうか。