昨2024シーズンの明治安田J2リーグで5位ながらもJ1昇格プレーオフを勝ち抜き、2004年創設から21年目で初のJ1リーグを戦っているファジアーノ岡山。2025シーズン、開幕戦の京都サンガ戦(2-0)から第3節のガンバ大阪戦(2-0)、第4節の清水エスパルス戦(1-1)に至るまで、全ての試合が「満員札止め」となっている。
岡山のホームスタジアム「JFE晴れの国スタジアム」の収容人数は2万人。岡山市の人口が約70万人であること考えればちょうどいいサイズと思われるが、J1昇格フィーバーは想定以上だったようで、現地ではチケット争奪戦が繰り広げられている模様だ。
そんな岡山が新スタジアム建設に前のめりになっている。その詳細と是非について、他のJ1クラブの例も挙げながら、様々な視点から検証したい。
岡山県議会では岡山がJ2で戦っていた15年前に応援団が結成され、50人の議員が所属している。一方、岡山県の伊原木隆太知事はスタジアムの新設について「県民の盛り上がりを注視し判断する」というスタンスを取り、明言を避けている。
岡山は新スタジアムについて、2万5,000人規模を求めている。さらに「クラブライセンス制度」に絡むホームスタジアム基準では、「収容人数1万5,000人以上(J1ライセンスの場合)」「観客席の3分の1(33%)以上に屋根」が求められている。
JFE晴れの国スタジアムの屋根は観客席の3割もカバー出来ておらず、しかも陸上トラック付きだ。それが岡山フロントとサポーターによる県への新スタ建設要望の根拠となっている。
しかしここで一度立ち止まって考えてみたい。岡山がJ1に居続け、満員が続く保証はどこにもない。
仮に岡山のフロントが2003年に竣工された現在のスタジアムを取り壊し、その場所にスタジアムを新設させる腹積もりだとすれば「図々しいにもほどがある」と言わざるを得ない。当然、陸連側(日本陸上競技連盟および岡山陸上競技協会)も「たまたまマグレでJ1に上がれたクセに生意気な…」と首を縦に振ることはないだろう。岡山県サッカー協会がどれほど行政に対し力を持っているのかは分からないが、自治体に対し、それほど陸連は力を持っている。
また、スタジアム名に「晴れの国」と付いているように、岡山市の晴天率は約75.8%(年間276日/大阪管区気象台HP参照)である。リーグ戦19試合、これにルヴァン杯で決勝に進出したと仮定してプラス6試合、さらに天皇杯をホームで開催されるケースを2試合と仮定し、合計年間27試合のホームゲームがあるとして計算すれば、ホーム戦が雨天の中で開催される可能性は24.2%となる。
4分の1にも満たない雨天日での試合のために、屋根を付ける必要が果たしてあるのだろうか。岡山に責はないのだが、Jリーグが一方的かつ画一的に作ったスタジアム規定が、新スタ建設の機運が高まっているJクラブの本拠地自治体が二の足を踏む要因となっている。
これにはワケがある。清水サポーターにとっては既に広く知られている話だが、バックスタンド南側の屋根をあえて削ることで、メインスタンドからは富士山と駿河湾を望む美しい風景を望むことが出来るのだ。
アクセスの悪さを指摘する声もあるが、日本平そのものが文部科学大臣が文化財保護法に基づき「名勝」に指定されている。名勝指定されている土地に建つサッカー専用スタジアムスタジアムは、世界的に見ても貴重だろう。シーズンシートを買っているような熱心なサポーターは、試合の度にJR清水駅からバスで約20分揺られる不便を強いられるが、アウェイのサポーターにとっては、スタジアムへの来訪がすでに「観光」となるのだ。
静岡市の晴天率は約69.3%(年間253日/気象庁HP参照)。上記と同じ計算式で求めると、ホームゲームで雨が降る確率は30.7%となる。しかも日本平の芝はJリーグのベストピッチ賞を9度受賞し「日本最高のピッチ」との呼び声も高い。それは取りも直さず、屋根が少なく、十分な日照があることが大きな要因だろう。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスは「悪法もまた法なり」と語ったとされるが、Jリーグが作ったスタジアム基準こそ、この言葉にピッタリだ。ソクラテスはその言葉に従って毒を飲み自決したが、Jリーグが各クラブに求めていることは“毒”を自ら食らわせることに近いようにも思えてくる。
2014年、当時のJリーグチェアマン村井満氏が清水の新スタジアム建設を進めるために訪れたのは、清水駅から日本平に向かう途中にあるオーナー企業の鈴与の本社ではなく、静岡市役所の田辺信宏元市長だった。この事実だけでも、各自治体やサッカーに興味のない納税者から“税リーグ”と揶揄される原因を作ってしまっている。
各地でJのサポーターが新スタ建設を夢見て、自治体にプレッシャーを掛けているが、J2水戸ホーリーホックを擁する水戸市の高橋靖市長は「自分の金でやって」と突き放した。確かに創立以来J2に居続け、昇格争いに絡んだこともないクラブのために約200億円といわれる建設費を掛けて新スタジアムを建設することは、為政者として「市民の理解を得られない」と一蹴することは当然だろう。
勢いに任せてサッカー専用スタジアム「ミクニワールドスタジアム北九州」を建設したにも関わらず、竣工のタイミングでJ3に降格し、2017年の開場以来9シーズン中7シーズンでJ3を戦うギラヴァンツ北九州のホームゲームのスタンドは、既に閑古鳥が鳴いている。
2024年2月開場の「金沢ゴーゴーカレースタジアム」で行われたJ3ツエーゲン金沢の今シーズンホーム開幕戦(対高知ユナイテッド/1-2)も、2015年改修の「長野Uスタジアム」で行われたJ3長野パルセイロの開幕戦(対ザスパ群馬/3-2)も、観客動員は5,000人に届かなかった。
それでも税金から捻出されるスタジアム維持費は年数億円かかる。その分、他に回すべき住民サービスが削られていることを、新スタ推進“信者”たちは肝に銘じておくべきだろう。
岡山のホームスタジアム「JFE晴れの国スタジアム」の収容人数は2万人。岡山市の人口が約70万人であること考えればちょうどいいサイズと思われるが、J1昇格フィーバーは想定以上だったようで、現地ではチケット争奪戦が繰り広げられている模様だ。
そんな岡山が新スタジアム建設に前のめりになっている。その詳細と是非について、他のJ1クラブの例も挙げながら、様々な視点から検証したい。

岡山の新スタ建設要望
3月11日にファジアーノ岡山の森井悠社長が、岡山県議会の議員団による激励会の中で「岡山に住んでいる人が見たくても見られない状況が続いている上、アウェイのサポーターを収容し切れていない」と、スタジアム規模が不足している現状を訴えた。岡山県議会では岡山がJ2で戦っていた15年前に応援団が結成され、50人の議員が所属している。一方、岡山県の伊原木隆太知事はスタジアムの新設について「県民の盛り上がりを注視し判断する」というスタンスを取り、明言を避けている。
岡山は新スタジアムについて、2万5,000人規模を求めている。さらに「クラブライセンス制度」に絡むホームスタジアム基準では、「収容人数1万5,000人以上(J1ライセンスの場合)」「観客席の3分の1(33%)以上に屋根」が求められている。
JFE晴れの国スタジアムの屋根は観客席の3割もカバー出来ておらず、しかも陸上トラック付きだ。それが岡山フロントとサポーターによる県への新スタ建設要望の根拠となっている。
しかしここで一度立ち止まって考えてみたい。岡山がJ1に居続け、満員が続く保証はどこにもない。
にも関わらず、新スタ建設に前のめりになるのは何故か、本当に屋根付きのサッカー専用スタジアムは必要なのだろうか。

岡山市の晴天率は約75.8%、ホーム雨天開催の可能性は24.2%
JFE晴れの国スタジアムはJR岡山駅から徒歩20分と、申し分ない利便性を誇っている。第一種公認陸上競技場に指定されていることから、陸上の世界大会を開催することも可能だ。仮にサッカー専用スタジアムを別に建設するとなれば、現在のアクセスの良さを捨てざるを得なくなるだろう。仮に岡山のフロントが2003年に竣工された現在のスタジアムを取り壊し、その場所にスタジアムを新設させる腹積もりだとすれば「図々しいにもほどがある」と言わざるを得ない。当然、陸連側(日本陸上競技連盟および岡山陸上競技協会)も「たまたまマグレでJ1に上がれたクセに生意気な…」と首を縦に振ることはないだろう。岡山県サッカー協会がどれほど行政に対し力を持っているのかは分からないが、自治体に対し、それほど陸連は力を持っている。
また、スタジアム名に「晴れの国」と付いているように、岡山市の晴天率は約75.8%(年間276日/大阪管区気象台HP参照)である。リーグ戦19試合、これにルヴァン杯で決勝に進出したと仮定してプラス6試合、さらに天皇杯をホームで開催されるケースを2試合と仮定し、合計年間27試合のホームゲームがあるとして計算すれば、ホーム戦が雨天の中で開催される可能性は24.2%となる。
4分の1にも満たない雨天日での試合のために、屋根を付ける必要が果たしてあるのだろうか。岡山に責はないのだが、Jリーグが一方的かつ画一的に作ったスタジアム規定が、新スタ建設の機運が高まっているJクラブの本拠地自治体が二の足を踏む要因となっている。

清水「IAIスタジアム日本平」の例
ここで清水エスパルスの例を挙げよう。1998年のJリーグ創立から一貫して日本平運動公園球技場(現IAIスタジアム日本平)をホームスタジアムとしている清水。1991年竣工時は13,000人収容でゴール裏とバックスタンドの一部は芝生席だったものを、1994年、2003年と2度にわたる大規模改修で、収容人数約2万人にまで増やした。しかし、屋根のカバー率は約26%とJ1ライセンス基準にわずかに届いていない。
これにはワケがある。清水サポーターにとっては既に広く知られている話だが、バックスタンド南側の屋根をあえて削ることで、メインスタンドからは富士山と駿河湾を望む美しい風景を望むことが出来るのだ。
アクセスの悪さを指摘する声もあるが、日本平そのものが文部科学大臣が文化財保護法に基づき「名勝」に指定されている。名勝指定されている土地に建つサッカー専用スタジアムスタジアムは、世界的に見ても貴重だろう。シーズンシートを買っているような熱心なサポーターは、試合の度にJR清水駅からバスで約20分揺られる不便を強いられるが、アウェイのサポーターにとっては、スタジアムへの来訪がすでに「観光」となるのだ。
静岡市の晴天率は約69.3%(年間253日/気象庁HP参照)。上記と同じ計算式で求めると、ホームゲームで雨が降る確率は30.7%となる。しかも日本平の芝はJリーグのベストピッチ賞を9度受賞し「日本最高のピッチ」との呼び声も高い。それは取りも直さず、屋根が少なく、十分な日照があることが大きな要因だろう。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスは「悪法もまた法なり」と語ったとされるが、Jリーグが作ったスタジアム基準こそ、この言葉にピッタリだ。ソクラテスはその言葉に従って毒を飲み自決したが、Jリーグが各クラブに求めていることは“毒”を自ら食らわせることに近いようにも思えてくる。
2014年、当時のJリーグチェアマン村井満氏が清水の新スタジアム建設を進めるために訪れたのは、清水駅から日本平に向かう途中にあるオーナー企業の鈴与の本社ではなく、静岡市役所の田辺信宏元市長だった。この事実だけでも、各自治体やサッカーに興味のない納税者から“税リーグ”と揶揄される原因を作ってしまっている。
各地でJのサポーターが新スタ建設を夢見て、自治体にプレッシャーを掛けているが、J2水戸ホーリーホックを擁する水戸市の高橋靖市長は「自分の金でやって」と突き放した。確かに創立以来J2に居続け、昇格争いに絡んだこともないクラブのために約200億円といわれる建設費を掛けて新スタジアムを建設することは、為政者として「市民の理解を得られない」と一蹴することは当然だろう。

北九州、金沢、長野でも閑古鳥
現在、岡山ではファジアーノがブームを起こしており、チームもその期待に応える健闘を見せている。しかし、その勢いが消え失せ1シーズンのみで降格となれば、新スタ建設の機運はどうなるだろうか。勢いに任せてサッカー専用スタジアム「ミクニワールドスタジアム北九州」を建設したにも関わらず、竣工のタイミングでJ3に降格し、2017年の開場以来9シーズン中7シーズンでJ3を戦うギラヴァンツ北九州のホームゲームのスタンドは、既に閑古鳥が鳴いている。
2024年2月開場の「金沢ゴーゴーカレースタジアム」で行われたJ3ツエーゲン金沢の今シーズンホーム開幕戦(対高知ユナイテッド/1-2)も、2015年改修の「長野Uスタジアム」で行われたJ3長野パルセイロの開幕戦(対ザスパ群馬/3-2)も、観客動員は5,000人に届かなかった。
それでも税金から捻出されるスタジアム維持費は年数億円かかる。その分、他に回すべき住民サービスが削られていることを、新スタ推進“信者”たちは肝に銘じておくべきだろう。
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