J2リーグ、いわきFCを運営する「いわきスポーツクラブ」の大倉智社長が、新ホームスタジアム「IWAKI STADIUM LABO」(いわきスタジアムラボ=仮称)の建設計画を3月28日に発表した。
現在のホーム「ハワイアンズスタジアムいわき(いわきグリーンフィールド)」はサッカー専用スタジアムだが、収容人数は5,066人で、昨2024シーズンのホーム戦平均入場者数は4,290人。
ここでは、民設民営でしかも多目的施設を併設したいわきFCの新スタジアム構想について、また、同クラブの現在地についてまとめてみよう。
スタジアムの収容人数は1万人前後を想定し、メインスタンド側には5階建てのビル、ピッチ側にはバルコニー席、そしてビル内には子どもたちが遊ぶことができるような多目的施設を併設し、試合がない日も人が集う試みだという。明言こそされていないが、津波の際の防潮堤の役割を果たしているようにも見える。
またその外観は、規模こそ比べるべくもないものの、「ボンボネーラ(チョコレート箱)」の異名を取るアルゼンチンのボカ・ジュニアーズの本拠地エスタディオ・アルベルト・J・アルマンドのようで、日本のサッカースタジアムの常識を覆す斬新なデザインだ。
福島県いわき市の小名浜港近くの候補地は、アクアマリンふくしま、小名浜マリンブリッジも近く、現在は駐車場などとして使われている。小名浜港は国際的な物流拠点として県の産業を支えている上、観光物産施設「いわき・ら・ら・ミュウ」などを中心に観光地としても名高い。今夏には常磐道と小名浜港を結ぶ小名浜道路が開通する予定だ。
課題があるとすれば、アクセス面で最寄りのJR常磐線の泉駅から約4キロという点で、この件には大倉社長も「乗り越えなければいけない壁」と話している。
かつて、泉駅と小名浜駅を結ぶ路線として福島臨海鉄道が存在していたが、1972年には旅客営業を廃止し貨物専業鉄道となった。
当時のいわきFCはまだ福島県社会人2部リーグ。そんなクラブが「Jリーグを目指す」と高らかに宣言し、元オランダ代表FWでサンフレッチェ広島でも活躍したピーター・ハウストラ氏を監督に、シニアアドバイザーとして元日本代表MF金田喜稔氏を迎えた上で、大倉氏が「いわき市を東北一の都市にする」と言い放った時には、いわき市民のみならず多くの福島県民は「何言ってんだ」と感じたはずだ。
まだ「復興」など程遠い状態で、特にいわき市の北の相双地区は全町避難を強いられた住民も多く、その多くがいわき市に住まいを移したことで地価や家賃、物価の高騰という事態を生んだ。爆発事故を起こした福島第一原発の廃炉作業もまだ手付かずの状態で、サッカーのトレーニングセンター「Jヴィレッジ」も原発事故対応の拠点とされた。再び芝が張られ「Jヴィレッジスタジアム」として再オープンしたのは2017年のことだ。「正直なところ、サッカーどころではない」というのが当時の市民感情だった。
しかし、いわきFCは5年連続昇格で2020年にJFLにまで到達。その間、2017年の天皇杯にはJ3福島ユナイテッドを破り福島県代表として出場すると、2回戦でJ1北海道コンサドーレ札幌を破るジャイアントキリングを演出した。
クラブは「Jリーグ百年構想クラブ」にも承認され、いわき市に双葉郡6町2村(双葉町、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、浪江町、川内村、葛尾村)をホームタウンに加え、J3リーグライセンスを取得。徐々に市民権を得るようになり、2022シーズンからJ3に参戦すると、1年目の優勝かつJ2昇格という離れ業を演じJ2に昇格する。
2023シーズンから参戦するJ2では、初年度は残留ラインぎりぎりの18位、昨2024シーズンは9位と、やや足踏みしている印象だが、昨シーズンの平均観客数は4,249人を記録した。イス席は5,212席、他の1,188人は芝生席であることでやや手狭だったことは否めない。
現在、宮本恒靖日本サッカー協会会長や野々村芳和Jリーグチェアマンが、ホームスタジアム新設を計画している自治体を訪問し“陳情行脚”を続けているが、サッカーなど興味のない一般市民からは冷めた目で見られている。一民間企業に過ぎないサッカークラブのために、ウン百億円にも上る血税を投入せよという要求なのだから当然と言えば当然の話だ。
いわきFCのこの挑戦と、先立って民設民営でしかも多目的施設を併設した「長崎スタジアムシティ(2024年10月開業)」を完成させたV・ファーレン長崎の例は、今後のJリーグのスタンダードとなる可能性があり、なるべきだと感じさせる。いつまでもスタジアム建設を自治体に頼っているようでは、未来永劫“税リーグ”から脱却することなどできないだろう。
大倉社長が語るところの「いわきを東北一にする」という宣言について、人口や都市規模の面で仙台市や盛岡市はおろか、同県の郡山市にも肩を並べることはおそらく不可能だろう。しかしながら、「スパリゾートハワイアンズ」を筆頭に、マリンスポーツや水族館、グルメも楽しめるリゾート地でもあるいわき市に、さらなる賑わいを創出するという意味では「東北一」という言葉に嘘はなかったと感じ入る一大プロジェクトであり、関心に値する。
今後、小名浜港近辺がどう生まれ変わり、復興のシンボルとなっていくのか、注目していきたい。
現在のホーム「ハワイアンズスタジアムいわき(いわきグリーンフィールド)」はサッカー専用スタジアムだが、収容人数は5,066人で、昨2024シーズンのホーム戦平均入場者数は4,290人。
J1クラブライセンスを持ついわきFCだが、同スタジアムはJ2ライセンスの基準を満たしておらず例外規定が適用されている。規定では6月までに新スタジアムの整備計画をリーグ側に提出し、2027年6月までに着工する必要がある。
ここでは、民設民営でしかも多目的施設を併設したいわきFCの新スタジアム構想について、また、同クラブの現在地についてまとめてみよう。

小名浜港近く、常識を覆す斬新なデザイン
いわきFCは今後、地権者である福島県との間で新スタジアム建設の調整を進めるとのこと。総工費は未定だが、基本的には民設民営の形が取られるようだ。スタジアムの収容人数は1万人前後を想定し、メインスタンド側には5階建てのビル、ピッチ側にはバルコニー席、そしてビル内には子どもたちが遊ぶことができるような多目的施設を併設し、試合がない日も人が集う試みだという。明言こそされていないが、津波の際の防潮堤の役割を果たしているようにも見える。
またその外観は、規模こそ比べるべくもないものの、「ボンボネーラ(チョコレート箱)」の異名を取るアルゼンチンのボカ・ジュニアーズの本拠地エスタディオ・アルベルト・J・アルマンドのようで、日本のサッカースタジアムの常識を覆す斬新なデザインだ。
福島県いわき市の小名浜港近くの候補地は、アクアマリンふくしま、小名浜マリンブリッジも近く、現在は駐車場などとして使われている。小名浜港は国際的な物流拠点として県の産業を支えている上、観光物産施設「いわき・ら・ら・ミュウ」などを中心に観光地としても名高い。今夏には常磐道と小名浜港を結ぶ小名浜道路が開通する予定だ。
課題があるとすれば、アクセス面で最寄りのJR常磐線の泉駅から約4キロという点で、この件には大倉社長も「乗り越えなければいけない壁」と話している。
かつて、泉駅と小名浜駅を結ぶ路線として福島臨海鉄道が存在していたが、1972年には旅客営業を廃止し貨物専業鉄道となった。
しかし、花火大会など小名浜で開催されるイベントにあわせてJR東日本による旅客向け臨時列車が運行されている。これを機に試合日に臨時列車が運行される可能性もあるだろう。

いわきFC、復興からJリーグ参戦まで
いわきFCは、東日本大震災直後の2012年に創立された。当初は一般社団法人いわきスポーツクラブが運営する市民クラブだったが、2015年にスポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・株式会社ドームの社長だった安田秀一氏と、同学年で当時湘南ベルマーレの社長だった大倉智氏が「株式会社いわきスポーツクラブ」を設立。いわきFCの運営権の譲渡を受けプロ化させ、大倉氏は湘南社長を退任した上で、同社の社長に就任した。当時のいわきFCはまだ福島県社会人2部リーグ。そんなクラブが「Jリーグを目指す」と高らかに宣言し、元オランダ代表FWでサンフレッチェ広島でも活躍したピーター・ハウストラ氏を監督に、シニアアドバイザーとして元日本代表MF金田喜稔氏を迎えた上で、大倉氏が「いわき市を東北一の都市にする」と言い放った時には、いわき市民のみならず多くの福島県民は「何言ってんだ」と感じたはずだ。
まだ「復興」など程遠い状態で、特にいわき市の北の相双地区は全町避難を強いられた住民も多く、その多くがいわき市に住まいを移したことで地価や家賃、物価の高騰という事態を生んだ。爆発事故を起こした福島第一原発の廃炉作業もまだ手付かずの状態で、サッカーのトレーニングセンター「Jヴィレッジ」も原発事故対応の拠点とされた。再び芝が張られ「Jヴィレッジスタジアム」として再オープンしたのは2017年のことだ。「正直なところ、サッカーどころではない」というのが当時の市民感情だった。
しかし、いわきFCは5年連続昇格で2020年にJFLにまで到達。その間、2017年の天皇杯にはJ3福島ユナイテッドを破り福島県代表として出場すると、2回戦でJ1北海道コンサドーレ札幌を破るジャイアントキリングを演出した。
クラブは「Jリーグ百年構想クラブ」にも承認され、いわき市に双葉郡6町2村(双葉町、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、浪江町、川内村、葛尾村)をホームタウンに加え、J3リーグライセンスを取得。徐々に市民権を得るようになり、2022シーズンからJ3に参戦すると、1年目の優勝かつJ2昇格という離れ業を演じJ2に昇格する。
2023シーズンから参戦するJ2では、初年度は残留ラインぎりぎりの18位、昨2024シーズンは9位と、やや足踏みしている印象だが、昨シーズンの平均観客数は4,249人を記録した。イス席は5,212席、他の1,188人は芝生席であることでやや手狭だったことは否めない。

「いわきを東北一にする」
そんな中、新スタジアムの収容人数をJ1クラブライセンス基準に届かない1万人前後とした点では、大風呂敷を広げることなく、身の丈に合ったサイズにしたことで好感が持てる。周辺にさらなる賑わいを創出できそうなこの計画に対し、クラブライセンスを判断する第三者機関(FIB)が杓子定規的に「(J1基準の)15,000人に届いていないからダメ」という判断を下したならば、逆に批判を浴びる可能性もあるだろう。現在、宮本恒靖日本サッカー協会会長や野々村芳和Jリーグチェアマンが、ホームスタジアム新設を計画している自治体を訪問し“陳情行脚”を続けているが、サッカーなど興味のない一般市民からは冷めた目で見られている。一民間企業に過ぎないサッカークラブのために、ウン百億円にも上る血税を投入せよという要求なのだから当然と言えば当然の話だ。
いわきFCのこの挑戦と、先立って民設民営でしかも多目的施設を併設した「長崎スタジアムシティ(2024年10月開業)」を完成させたV・ファーレン長崎の例は、今後のJリーグのスタンダードとなる可能性があり、なるべきだと感じさせる。いつまでもスタジアム建設を自治体に頼っているようでは、未来永劫“税リーグ”から脱却することなどできないだろう。
大倉社長が語るところの「いわきを東北一にする」という宣言について、人口や都市規模の面で仙台市や盛岡市はおろか、同県の郡山市にも肩を並べることはおそらく不可能だろう。しかしながら、「スパリゾートハワイアンズ」を筆頭に、マリンスポーツや水族館、グルメも楽しめるリゾート地でもあるいわき市に、さらなる賑わいを創出するという意味では「東北一」という言葉に嘘はなかったと感じ入る一大プロジェクトであり、関心に値する。
今後、小名浜港近辺がどう生まれ変わり、復興のシンボルとなっていくのか、注目していきたい。
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