J1のクラブ数を減らし、より上位のリーグを形成することでリーグ全体のレベルアップや経営規模の拡大を目指すJリーグプレミアリーグ構想。2010年、第4代Jリーグチェアマン大東和美氏の時代に浮上し、度々話題になっては消えてきた。


現在、議論がストップしているようにも見えるが、完全に“消えた”わけではないことは、2022年に就任した現在の第6代チェアマン野々村芳和氏の「本気で競争しないといけない時期に来ている」というコメントから明らかだ。

Jリーグで仮にプレミアリーグ構想に基づいて上位リーグが創設された場合、その参加クラブの選定は極めてセンシティブであり、単純な成績だけでなく多面的な評価が必要である。

ここでは、実際にプレミアリーグ構想が実行された際、考慮されるであろう選定基準とクラブ選考基準のモデル案を、数値化して示していきたい。クラブ数は「10」と仮定する。

関連記事:Jリーグプレミアリーグ構想は、どのように推し進めていくべきか

Jリーグプレミアリーグ構想、参戦10クラブ予想まとめ

過去の成績:直近5シーズンのJ1平均順位

まず想定される選定基準は、クラブの過去数年の成績だ。ここでは直近5シーズンのJ1成績をポイント化して評価してみよう。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場歴やタイトル獲得歴なども、加点対象とする。

2020~2024シーズンJ1平均順位トップ10

  • 川崎フロンターレ:平均順位4.0
  • 横浜F・マリノス:4.6
  • 鹿島アントラーズ:4.6
  • ヴィッセル神戸:6.4
  • サンフレッチェ広島:5.4
  • 浦和レッズ:8.4
  • FC東京:7.8
  • 名古屋グランパス:6.6
  • セレッソ大阪:8.0
  • ガンバ大阪:10.0
  • これに、2020~2024シーズンの天皇杯優勝クラブ(神戸、川崎2回、ヴァンフォーレ甲府、浦和)、ルヴァン杯優勝クラブ(名古屋2回、アビスパ福岡、広島、FC東京)も考慮する。

    平均順位上位10クラブで落ち着きそうではあるが、今2025シーズン横浜FMは最下位に沈み、名古屋とFC東京も下位で喘いでいる。仮に横浜FMが初のJ2降格となれば、創設以来Jリーグを引っ張ってきた名門クラブがまさかの落選という可能性が出てくるだろう。ACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)準々決勝進出は評価材料だが、事態は予断を許さない状況だ。

    逆に、ACLE準優勝という好結果を得た川崎は大きなポイントを得たことになり、カップ戦タイトルも複数獲得していることから、プレミアリーグ参戦「確定」と言ってもいいだろう。

    Jリーグプレミアリーグ構想、参戦10クラブ予想まとめ

    財務健全性、スタジアム、集客力、育成充実度

    大企業が主要スポンサーのクラブ

    クラブ経営の健全性という観点では、財務健全性や収入規模、クラブライセンス制度の遵守状況が求められるが、こればかりは大企業がスポンサーに付いているクラブが有利となるだろう。


    • ヴィッセル神戸:楽天グループ株式会社
    • 浦和レッズ:ポラス株式会社
    • 名古屋グランパス:トヨタ自動車株式会社
    • ガンバ大阪:パナソニックグループ

    スタジアム基準の遵守と観客動員

    スタジアム基準の遵守と観客動員の面では、先に示した平均順位上位10クラブ全てがJ1クラブライセンスをクリアしたスタジアムをホームとしている。新スタジアム建設を実現させた下記クラブは収容率でも高い数値を示している。

    • ガンバ大阪:パナソニックスタジアム吹田(収容人数:約39,694人)
    • セレッソ大阪:ヨドコウ桜スタジアム(収容人数:約24,481人)
    • サンフレッチェ広島:エディオンピースウイング広島(収容人数:約28,500人)
    その他下記のような数値を考慮する。

    クラブ人気:ファンクラブ会員数ランキング(2024シーズン)

    • 浦和レッズ:推定ファン数約150万人
    • 横浜F・マリノス:推定ファン数約80万人
    • 鹿島アントラーズ:推定ファン数約120万人

    クラブ人気:観客動員数ランキング(2024シーズン)

    • 浦和レッズ:総観客数712,852人(平均観客数約37,519人)
    • FC東京:総観客数631,273人(平均観客数約33,225人)
    • 名古屋グランパス:総観客数525,358人(平均観客数約27,650人

    クラブ人気:SNSフォロワー数トップ3

  • ヴィッセル神戸:約13万5,000人
  • 川崎フロンターレ:約11万2,000人
  • 横浜F・マリノス:約10万人
  • 育成力を示すホームグロウン選手の人数(2025シーズン)

    選出育成力を示すホームグロウン選手の人数では、5クラブが2桁人数を選手登録し、育成にも力を入れているクラブであることが分かる。

  • FC東京:15人
  • サンフレッチェ広島:13人
  • 鹿島アントラーズ:13人
  • 柏レイソル:12人
  • 川崎フロンターレ:11人
  • Jリーグプレミアリーグ構想、参戦10クラブ予想まとめ

    Jリーグプレミアリーグ参戦予想10クラブと次点候補

    上記の考慮事項から、成績(過去3年のJ1平均順位とカップ戦・ACL出場実績、成績で加点)、経営規模(3年連続黒字で満点、赤字で減点)、スタジアム収容人数(自前のスタジアムまたは長期使用契約で加点)、直近3年の平均観客動員やSNSフォロワー数(2万人で加点、SNSフォロワー数は10万人以上で加点)、地域連携活動(地域事業との連携)などを加味し、ランク付けした結果が以下だ。

    Jリーグプレミアリーグ参戦予想10クラブ

  • 浦和レッズ:国内随一の営業収益規模と平均入場者数、熱狂的なサポーター力、ACL優勝経験などを評価。
  • 川崎フロンターレ:近年のリーグ戦績、安定した経営、育成力の高さ、ACLエリート準優勝の実績、地域密着活動も評価。
  • 横浜F・マリノス:リーグ優勝経験の豊富さ、ACLエリート4強での実績、都市型クラブとしてのポテンシャルを評価。
  • ヴィッセル神戸:大手企業による強力なバックアップと積極的な投資、ネームバリューのある選手の獲得による注目度、ACL出場実績。
  • 鹿島アントラーズ:Jリーグ最多のリーグ優勝回数を誇る伝統と勝者のメンタリティー、安定したクラブ運営、ACL優勝経験。
  • 名古屋グランパス:トヨタ自動車の支援をバックとした経営安定性、専用スタジアムに近い形態の豊田スタジアムをホームとし、堅実なチーム作り。
  • サンフレッチェ広島:育成組織の評価の高さ、新スタジアム「エディオンピースウイング広島」による観戦環境の向上と収益増への期待、さらに堅実な経営。
  • FC東京:首都クラブとして存在感を放ち続けており、観客動員力と経営規模を併せ持ち、欧州移籍選手や日本代表選手を数多く輩出した実績。
  • ガンバ大阪:過去のリーグ優勝やACL優勝経験、サッカー専用スタジアム「パナソニックスタジアム吹田」における観戦環境の高さ、関西圏での人気。
  • セレッソ大阪:育成組織の評価の高さ、複数の日本代表選手を輩出、サッカー専用スタジアム「ヨドコウ桜スタジアム」の便利なロケーション。
  • 次点候補

    • アルビレックス新潟:動員力はトップクラスだが、成績と資金面で劣る。
    • アビスパ福岡:近年の成績は安定しているが、観客数に課題あり。
    • 清水エスパルス:サッカー王国として地域密着を実現しているが、2シーズンにわたるJ2所属がネック。
    • 湘南ベルマーレ:毎シーズンのように残留争いしており、クラブ規模・資金面でも不利。
    • 柏レイソル:育成・成績面は評価されるが、ホームの三協フロンテア柏スタジアムが事実上J1スタジアム基準を満たしていない(形式的には認められていることになっている)。
    Jリーグプレミアリーグ構想、参戦10クラブ予想まとめ

    「オリジナル10」の3クラブが残らない?

    “トップ10”には、Jリーグ参入は後発ながらも、地道なファン掘り起こしの努力やオーナーに就いた大企業のバックアップを取り付けて成長したクラブの名が並ぶ。

    一方、それに続くクラブはJ1に“落ちる”ことになる。1993年にJリーグが発足した際の「オリジナル10」の中では、清水エスパルス、ジェフユナイテッド市原・千葉、東京ヴェルディがここに該当する。いずれも現在、あるいは近年までJ2を戦っていたクラブだ。

    Jリーグプレミアリーグを創設するならば、参加クラブの選定は成績だけでなく、経営力、スタジアム、ファンの多さなどを含む多面的な審査方式が最も現実的で、公平性の面で最もバランスが取れた方法になるだろうが、どのような数値を示したとしても落選したクラブを中心に反発は必至であり、合意形成は難しい仕事となるだろう。


    この構想を形にするためには、誰かが“汚れ役”を引き受けなければならない。大東氏や村井満氏といった歴代チェアマンが実行に移せなかったこの役を、野々村現チェアマンが買って出ることはあるのか。再び次期チェアマンに先送りすることになるのか。はたまた、この構想自体“廃案”になるのだろうか。Jリーグのファンは注意深く見守る必要があるだろう。
    編集部おすすめ