事実上の日本一決定戦である一方で、まだここでは負けられない。

2023年4月12日~16日にかけて開催された第2回スケートボード日本OPEN、パーク種目は男女によって置かれた状況が異なっていた。

それゆえに適切な語句を並べるならこんな言葉になるのはないだろうか。
それは世界から見た日本の立ち位置が関係している。

世界から見た日本

これはすでに多くの人がご存知だと思うが、現在女子パークは日本のお家芸といえるほど、世界を舞台にしても圧倒的な強さを誇っている。世界ランカーの人数も突出しており、もしかしたら世界ランクトップ10に入ることよりも、3人の日本代表枠に入ることの方が難しいのでは!? ともいっても決して大袈裟な表現ではない。

対して男子パークは東京五輪で唯一メダルを取れなかった種目であることからもわかるように、まだまだ世界の厚い壁に阻まれているのが現状だ。となると、パリ五輪に向けた最後の国内選考という位置付けの今大会では、双方で出場選手に変化が生まれてくるのも、ごく自然なことと言えるだろう。

すでに多数の世界ランカーを擁している女子の場合、トップ選手は出場を回避しているため、事実上の「日本一決定戦」は、当然男子になる。今回平野歩夢は欠場となったものの、それ以外は現状考えうる最高のメンバーが集まった。

となると、見どころは今回も永原悠路と笹岡建介の争いになるのか、それとも彼らを破る新星が現れるのか!? に絞られてくるだろう。結果からいえば永原悠路が見事に2連覇を達成したので、下馬評通りに本来の実力を発揮し、勝つべくして勝ったと思うかもしれない。
だがその内容は決して満足いくものではなかっただろう。

勝つには勝ったが……

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永原悠路による左のアールから右のバンクへの特大トランスファー

まずは優勝した永原悠路である。
これは勝利が決定した瞬間のヒーローインタビューで本人も話していたことが、「消化不良だった」との言葉は偽らざる本音だろう。
そのひとつに、ここ最近の彼のラン構成に組み込まれているキックフリップバックサイドリップスライドがメイクできなかったことがある。

前回の全日本選手権では2本目にフルメイクのランを披露し、3本目にこのトリックに挑戦したのだが失敗、その後のドバイの世界選手権ではランの最後にメイクはしたものの、今度はフルメイクができなかった。となると、今回の彼の頭の中は、ランに組み込んでフルメイクするという青写真を描いていたに違いない。

さらに欲をいえば、最近初めて成功したというキックフリップ540も、彼はパリに向けて出す準備を進めているのではないだろうかと推測してしまう。
そう考えれば、17歳とまだまだ若い彼は伸び代だらけだろう。
今や日本のエースと言える地位にまで上り詰めた彼には、今後世界との差を縮めるフロントマンとして日本を引っ張っていってほしいと思っている。

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
勝利決定直後のインタビューで優勝はしたけど消化不良だったと話す永原悠路

TOP3で唯一のフルメイク

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
2位の猪又湊哉のステイルフィッシュ540。このグラブで540をする人は少ないため本人もこだわりだと話す

そして2位に輝いたのが、弱冠13歳の猪又湊哉。彼はトップ3の中で唯一のフルメイクとなったが、それでも70点の大台には届かなかった。
トリックにしてもバリアルフリップインディやステイルフィッシュ540など十分にオリジナリティも難易度も伴っていたように思う。ただパークスタイルの場合はシンプルにスピードの速さやエアートリックの高さが評価に繋がる。よりテクニカルな方向にシフトすることで、スピードが落ちたり、エアーが低くなってしまっては意味がないのだ。

彼の場合は年齢もあって身体が出来上がっていないため、基礎体力で永原より劣る部分があるのは仕方のないことだろう。たとえフルメイクでなくとも、永原は他の人が跳ばない特大のフロントサイドエアートランスファーを披露しているので、そういったところが加点につながったのではないかと思う。


ただ彼はこのまま順調に成長を重ねていけば、現状の永原の牙城を崩す最右翼は彼と言えるのではないだろうか。そんな内容のランだった。

課題は勝負をかけるべきところで乗るメンタル

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高さとスタイルがあって満足しているトリックと話したバックサイドトゥイークエアー

続いて今回は3位に甘んじてしまった笹岡建介。出場者唯一の20代であり、最年長となった彼は長きに渡り日本パークシーンを牽引してきた第一人者。まだ24歳ではあるのだが、彼の次の年長者が19歳だったことを考えると、日本のティーンエイジャーがいかに層が厚いかということと共に、彼がどれだけ長い間トップに君臨し続けてきたのかがお分かりいただけるだろう。
豊富な経験からくる、魅せ方を熟知した滑りは、シンプルなトリックでもカッコ良く見せれる「スタイル」が詰まっているのだ。

ただ東京五輪は出場が有力視されていたものの直前で出場を逃すなど、ここ一番でなかなかチャンスを掴みきれないことがあったのも事実。そして今回も場の空気に飲まれてしまったのか、フルメイクできないまま終わってしまった。 これは囲み取材時に本人も話していたことなのだが、勝負をかけるべきところでしっかりと乗れる強靭なメンタルが、彼にとっては一番の課題なのかもしれない。実力は十分、でもあと一歩が足りない。そこを埋めることができれば、彼が再び王者に返り咲いてもなんの不思議もないだろう。

男子パークの未来は明るい!?

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
同じアングルから捉えた2枚の写真。いくら難易度の高い技をやっても、これだけ高さに出てしまうと、点数としては伸びなくなる。

最後に次点で4位となった西川有生の写真を。

彼はわずか10歳ながらこのキックフリップバリアル540など回し系のトリックをいくつもメイクしたことで順位をここまで押し上げることに成功したのだが、パークはただ難しいトリックを乗れば良いというものではないのは先程もお伝えした通り。おなじアングルの永原悠路と比べたら高さの違いは一目瞭然。
それでもこの順位に食い込むということは、いかに難易度の高いトリックを行なっていたのかがわかる。
それが今後身体が大きくなっていき、大人の体力を身につけたらどこまでいってしまうのだろうか。
その頃には、男子パークもきっと世界の覇権争いに加わっていると信じている。

出場メンバーの実績No.1は!?

そして冒頭でもお伝えしたように、世界的にも抜きん出た強さを発揮している日本の女子パーク。四十住さくら、開心那、草木ひなのといった世界ランカーたちが欠場した今大会だが、出場者の中では唯一実績で引けをとらず、来月のX Gamesにも出場が内定している選手がいる。藤井雪凛だ。

彼女は今まで国内外多くの大会で入賞を果たしているが、なぜか全日本選手権だけは縁がない。であれば、ここで負けるわけにはいかない。と思った関係者の方は多いのではないだろうか。

出したい技が出せなかった。

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このボルケーノ越えのキックフリップインディーはメイク。
見せ場はしっかりと作った藤井雪凛

ただ今回も彼女は優勝を手にすることができなかった。結果は3位となんとか強化指定選手の枠を確保することはできたものの、内心は消化不良だったのではないだろうか。その証拠にインタビューでは540やバディバリアルなど、出したかった技があと3つほどあったという。今回はどうしても強化指定選手になるという結果が欲しい大会だったので攻めきれなかったところはあるにしても、出せずじまいに終わったのは、これからの課題として取り組んでいってくれることだろう。

ただ前回の笠間の全日本選手権ではメイクできなかったボルケーノ越えのキックフリップインディーは今回しっかりとメイクしているので、成長の一端は見せてくれた。彼女にはこれからXGamesなどの大舞台が待っているし、その次に行われるパリ五輪予選会場のアルゼンチンは昨年のWORLD SKATE GAMESで優勝した縁起の良い地。
これからの奮起に期待しよう。

バート仕込みの華麗なエアーと
12歳で勝ち取った初の栄冠

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
貝原あさひによるマドンナエアー。ピンと伸びた足が美しい

2位の貝原あさひは、パークスタイルよりもエアートリックの極限を求めることができる設計のバートを本職としているだけあって、指先までビッチリとスタイルの入ったエアーで魅せてくれた。
このピンと足の伸びたマドンナやジャパンエアーなどは、そんな彼女のこだわりを象徴しているといえるだろう。 それらにキックフリップインディーを織り込んで、表彰台をゲットした。

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
長谷川瑞穂のフィンガーフリップ・リーン to テール

そして今大会で見事優勝を果たしたのは12歳の長谷川瑞穂。彼女に関しては点差はそこまで離れていないため圧勝という印象はないかもしれないが、繰り出したトリックの難易度で言えば間違いなくNo.1だったといえる。

今や女子パークでは勝つために必須とさえいわれているキックフリップインディーとバックサイド540はもちろんのこと、トランスファーのフィンガーフリップ・リーン to テールなどのトリックも見事に成功。しかもこれは練習ではなかなかできていなかったのが、本番ではきっちり仕留めるという土壇場での勝負強さも見せてくれた。彼女はまだまだ身体も小さく線も細いため、スピードやエアーの高さはまだまだ成長が見込めるだろう。

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
キックフリップインディーもディープエンドできっちりと仕留めた。

勝った時は思わず「よっしゃー!!」と叫んでいたり、「すっごく嬉しくて夢みたいです」とまだまだ初々しい表情で話してくれた彼女。
近い将来世界を狙えそうな新星が、女子パークにまた現れた。

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク
初々しい笑顔を見せる長谷川瑞穂。まだまだ伸び代も十分。

【リザルト】

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク

男子パーク/
1位 永原悠路 Yuro NAGAHARA  70.67pt
2位 猪又湊哉 Soya INOMATA   69.54pt
3位 笹岡建介 Kensuke SASAOKA 69.35pt

日本一決定戦と負けられない戦い。それぞれが抱えた想いとは!? 第2回スケートボード日本OPEN・パーク

女子パーク/
1位 長谷川瑞穂 Mizuho HASEGAWA 59.38pt
2位 貝原あさひ Asahi KAIHARA    57.57pt
3位 藤井雪凛  Yurin FUJII      56.25pt

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