2月28日に行われたトランプ米大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領との首脳会談は途中から友好ムードが一変。ロシアへの対応を巡り非難の応酬となり、ウクライナのレアアース(希土類鉱物)の利用をアメリカに認める安全保障の意味合いを含む取引は決裂しました。それによりウクライナ戦争の終結は潰(つい)えたかに見え、国際金融市場は再び地政学リスクを意識した安全資産買いに傾きました。
ただ、外為市場は複雑な値動きです。米トランプ政権がカナダとメキシコに対する関税引き上げを予定通り実施するとの思惑は、安全通貨買いを後押し。ドルに買いが入ったものの、円買いに押され弱含む展開に。また、ゼレンスキー氏が欧州連合(EU)各国に支援を訴え、融資連合が結成されるとユーロやポンドが急激に買い戻されました。米国経済の減速懸念からのドル売りも強まりました。
そんななか、ウクライナは停戦後の復興への期待が後退したにもかかわらず、通貨フリブニャはドルに対し底堅さを増しています。ロシアによる侵攻が始まった直後、急激な下落を防ぐためにウクライナ中銀はフリブニャを1ドル=36.57フリブニャで固定する措置を取りました。2023年10月には、一定の範囲内で市場の動きを反映しつつ必要に応じて介入する管理フロート制へ移行しています。
戦況の悪化に伴いフリブニャの価値は低下し、今年1月には一時42フリブニャ台まで下落。
その一方で、ユーロに対しては比較的大きく値を下げる展開です。仮に今後、ウクライナがアメリカ依存から脱しEUとの結びつきを一層強めるなら、企業や政府の資金の流れが変化し、貿易や財政支援、移民送金の増加がユーロの需要をさらに押し上げるでしょう。その流れが短期的なのか、それとも長期的に続くのか、ゼレンスキー氏の立ち回りはドル指数低下の目安にもなりそうです。
(吉池 威)
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