*15:07JST ケアネット Research Memo(7):スペシャリティ医薬品への展開と新規事業の育成により成長を目指す(2)
■ケアネットの今後の見通し

(3) 新規事業
中長期的な視点に立った事業展開として、複数の新規事業の育成に注力している。

a) ヘルスケア領域のスタートアップ企業との協業・連携
2019年3月に「脂肪細胞※」を用いた再生医療製品の開発を進めるセルジェンテックと資本業務提携を締結したほか、ゲノム編集技術を開発するエディジーンに出資した。
また、VR技術を用いたリハビリテーション用医療機器の開発販売を行う(株)mediVRと、VRソリューションの全国展開に関する協業を柱とした業務提携契約を締結している。2020年2月には椎間板組織の再生医療に関する米国のスタートアップ企業、DiscGenicsに出資したことを発表している。DiscGenicsが現在日本で実施している「椎間板細胞治療用注入剤IDCT(Injectable Disc Cell Therapy)の臨床第1/2相試験」の治験患者組み入れに関する支援業務の契約を併せて締結している。

※患者自身の脂肪細胞を抽出して治療タンパク質を分泌する遺伝子を導入・加工した細胞のことで、同細胞を患者に投与して治療を行う。対象疾患としては、酸素欠乏症等による難病(LCAT欠損症、ライソゾーム病)や血友病等の希少疾患となり、遺伝的欠損遺伝子を補う治療法として期待されている。


同社では今後も画期的な医薬品や医療機器等の開発を目指すベンチャー企業などに対して、資本参加するだけでなく臨床開発から上市後のプロモーションに至るまで、様々な支援サービスを行っていく予定で、これらの取り組みは2018年5月に設立したコンソーシアム「SSI(Successful Support for Innovator)」をベースに、プロジェクトのプロセスごとに参加企業がサービスを提供していく格好となる。
同社は臨床開発における治験施設や患者を紹介するリクルーティングサービス、販売前及び販売後のマーケティング支援サービスを提供していく。臨床開発から販売までのプロセスを「SSI」の参加企業で連携して進めることで、従来よりもスピーディかつ効率的なプロジェクトの推進が可能となる。なお、プロジェクトを受託する窓口として同社は子会社(株)ヘルスケア・イニシアチブ(出資比率51%)を2018年11月に新設している。

b) 「遠隔集中治療」分野での協業を本格的に開始
新規分野への展開として「遠隔集中治療」分野に進出すべく、(株)T-ICU、ブイキューブとの業務提携を2018年7月に発表している。T-ICUは専門医による遠隔集中治療支援の普及に取り組んでいるベンチャー企業であり、インフラ部分を提供するブイキューブと合わせて3社共同で、全国に遠隔集中治療ソリューションを展開していく計画となっている。

集中治療とは、救急搬送後の応急処置が行われ容態が一旦安定した患者や、大手術を受けた後の患者など重症患者に対して、呼吸・循環管理、感染症管理等の全身管理を集中治療室で行い、問題が発生した場合に適切な処置を行うことを言う。
幅広い医療知識が必要となるため集中治療専門医が必要となるが、現在、国内では圧倒的に専門医の数が不足している状況にある。集中治療室は全国で約1,100室あり、このうち約300室には5~10人の集中治療専門医が在籍しているが、残りの800室には専門医が在籍しておらず専門医ではない医師でまかなっているのが実情となっている。

こうしたアンバランスな需給を解消するためのソリューションとして、「遠隔集中治療支援システム」の導入を進めていく。患者の容態が急変した際に集中治療専門医が不在でも遠隔地からビデオ通信システム等を介して現場の看護師に適切な処置を指示し、患者の容態悪化を回避することが可能となる。「遠隔集中治療」の普及で先行する米国では既に全体の20%が「遠隔集中治療」の体制を整備しており、医療費の削減、重症患者のICU死亡率低下(11.7%低下)、ICUの平均滞在日数短縮(0.63日減少)といった導入効果が出ている。国内でも医師不足が続くなかで普及する可能性は高いと見られる。


同システムは2019年に完成し、導入施設数は2020年2月時点で14施設と徐々に広がってきている。また、2020年2月にはスカイマーク(株)と協同で飛行機への搭乗前後に体調不良となった旅客のケアを遠隔でサポートする実証実験も開始するなど、遠隔医療システムとして今後普及拡大していく可能性が高い。顧客開拓についてはT-ICUが中心となり、同社はそのサポートと集中治療専門医の紹介サービスを提供していく予定だ。売上高としては、導入施設から得られるシステム利用料(月額基本料+従量課金)と専門医の送客ごとに発生する紹介料となるが、システム利用料に関しては3社の貢献度によって按分していくことになっている。当面の目標としては、地方の中規模から大規模病院を中心に30施設への導入を目指している。医療の地域格差を解消し、また、多くの重症患者の生命を救うことにもつながるソリューションとして、今後の成長期待は大きい。


c) 学術支援サービス充実のため、SC-Laboを設立
学術支援サービスの充実を図るため、各種資材やITツールの販売を行う子会社、SC-Laboを設立している。

なお、同社はこれらの取り組みを踏まえて、2020年6月頃を目途に中期経営計画を発表する予定にしており、その内容が注目される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)





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