レビュー

赤信号みんなで渡ればこわくない。1980年代に流行語となったこのフレーズをご存知の方は、多いのではないか。

本書を読んで、要約者はこのフレーズを思い出したが、言い回しの軽やかさに反した内容の重みが改めて感じられた。「仲間と一緒だと、恐ろしいこともしかねない」。読後は、このフレーズの意味するところをそんなふうに思ってしまう。
本書はフランスの社会心理学者ル・ボンにより、1895年に著された歴史ある書籍だ。そのため、時代精神の反映を逃れない箇所もあるが、今読んでも納得する部分の多い名著である。
また、本書は独裁者アドルフ・ヒトラーの愛読書としても有名である。本書で言及されている、群衆を率いる弁士さながらに、ヒトラーは演説を通して人々の心に訴えかけた。彼は群衆の心理を理解し、そのうえで群衆を思い通りに動かし、負の歴史を作ったのだ。
単独の個人であるときには考えられないような過激な判断を、群衆はやすやすと導いてしまうこともある。悪用するとどこまでも恐ろしい本ではあるが、重要な本だということは間違いないだろう。個人が集団に属した際に、どのような精神状態におかれるのかを知ることは読者の役に立つはずだ。ぜひ本書を通じて、いかに群衆が凡庸な判断を下してしまいやすいかを理解し、自分や他人の行動がはたして冷静なものなのかを注意するよりどころとしてほしい。

本書の要点

・一定の状況にある人間の集団において、集団に属する個人の感情や観念は同一の方向を向き、非常にはっきりした性質を示す。個人がそのような集団精神をもつと、個人の感じ方、考え方、行動の仕方が、集団に属する前と後でまったく異なることになる。
・群衆は暗示にかかりやすく、感情は単純に誇張されて伝染する。また、不思議かつ伝説的なものに大きく心を動かされる傾向がある。
・群衆の指導者は、簡潔な断言と反復と感染という手段を用いて群衆を操る。



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