レビュー

北はカナダ、南はメキシコと接しているアメリカ。その南の国境地帯にはさまざまな課題が凝縮され、グローバル化の矛盾が噴き出している。

本書は南の国境問題を中心に、アメリカ各地の姿を描き出している。
アメリカとメキシコは、陸続きの国境を隔てただけの地でありながら明確な経済格差がある。豊かな国アメリカで仕事を得て、自らも豊かになりたいという渇望がメキシコ側にいる人びとの心を突き上げ、行動に走らせる。だからこそ国境地帯ではドラッグ、違法越境、売春などが渦巻く。実は、シリコンバレーの近隣や南部の過疎地など、米国内のほかの地域でも同様の問題が起きている。著者は、泥臭い現場に足を運び、市井の人に話を聞き、実情を丹念にルポした。
これらの地域に共通するものは何か。それは、「辺縁」ではないだろうか。本書で取り上げられている場所の多くは豊かさとかけ離れた地であり、大国の辺縁に位置付けられる。そこから矛盾がマグマのように噴き出し、子どもから大人までその渦に巻き込まれていく。
登場するのは、生活を営むために必死に働き、家族を守り、コミュニティに貢献する人びとだ。その多くは決して豊かではなく、日々、苦労と努力を重ねている。
さまざまな経歴を背負うかれらの言葉は重い。だからこそ、報道を通して日本に伝わってくるアメリカの表情とは、全く異なる実像を知ることができる。地を這う取材が結実した、渾身の力作である。

本書の要点

・ドナルド・トランプ氏が大統領になって以降特に、アメリカとメキシコを分かつ3000キロ超の国境は、政治、経済、社会に関わる主要な争点となっている。
・アメリカの経済力は相変わらず強く、世界の力を集める中心地になっている。ゆえにそれに接するメキシコ側の国境地帯の街・ティフアナには、工場だけでなくドラッグ、不法移民も集まってくる。
・世界屈指のハイテクエリア、シリコンバレーの一角に、そのイメージにそぐわない場所がある。国境地帯ではない地方都市でも、グローバル化に翻弄される場所が米国内にはある。



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