障害者の雇用安定を図るための取り組みについて定めている、「障害者雇用促進法」。2024年4月には「法定雇用率の引き上げ」や「雇用率の対象となる障害者の拡大」といった大きな改正が行われました。

一方で、人事・採用担当者の中には、「障害者雇用のノウハウがなく何から始めたらよいのかわからない」「現場の受け入れ態勢が整わず障害者がすぐに退職してしまった」などとお悩みの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、障害者雇用促進法の2024年以降の改正ポイントを解説するとともに、障害者雇用において企業が行うべき対応についてご紹介します。

障害者雇用促進法とは?

障害者雇用促進法とは、障害者の職業自立を促進するための措置を通じて、障害者の雇用の安定を図ることを目的とした法律のこと。正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、障害者雇用に取り組む意義や企業の義務を定めています。まずは基本的な知識として、企業が行うべき措置と、対象となる企業について見ていきましょう。
(参考:厚生労働省『障害者雇用促進法の概要』)

企業が行うべき5つの措置

障害者雇用促進法では、企業に5つの措置を義務付けています。以下は、その概要です。

上記に加え、対象事業主には、障害者の雇用の促進と継続を図るために、「障害者雇用推進者」を選任することが努力義務となっています。
(参考:厚生労働省『事業主の方へ/障害者雇用のルール』、内閣府『令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました』)

対象となる企業

2024年10月時点で法定雇用率以上の障害者を雇用する義務があるのは、民間企業の場合常時雇用している労働者数が「40人以上」の企業です。

障害者雇用促進法第43条第1項により、従業員が一定数以上の規模の企業には「障害者雇用率(法定雇用率)」以上の障害者を雇う義務があります。2024年4月に改正された法定雇用率は2.5%のため、常時雇用している労働者数が40人以上の場合に障害者を1人以上雇用しなければならないという計算になるからです。

雇用する必要のある障害者の人数=常用雇用で働いている労働者の数×法定雇用率(※)
※2024年4月1日より2.5%。小数点以下は切り捨て

ただし、法定雇用率は今後も引き上げられることが決定しています。また、雇用義務の対象となる企業の範囲も拡大することが決定しているため、今後に向けて注意が必要です。
(参考:厚生労働省『事業主の方へ/障害者雇用のルール/障害者雇用率制度』)

2024年の改正内容とポイント

障害者雇用促進法の前身は1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」で、名称変更をはじめ、対象者の拡張や法定雇用率の段階的な引き上げなどの改正を経て現在に至ります。2024年4月には、以下の4つの項目が改正されました。

1. 民間企業の法定雇用率が2.5%に引き上げられる
2. 週10時間以上20時間未満で働く障害者も雇用率の対象になる
3. 障害者雇用調整金・報奨金の支給方法が見直される
4. 障害者雇用助成金が拡充・新設される

それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。

①民間企業の法定雇用率が2.5%に引き上げられる

民間企業の法定雇用率は、これまでの「2.3%」から「2.5%」に引き上げられました。これにより、対象企業も常用労働者数が「43.5人」以上から「40人」以上となり、対象企業には、1人以上の障害者を雇用する義務が発生します。

②週10時間以上20時間未満で働く障害者も雇用率の対象になる

旧法において雇用率計算の対象となるのは、労働時間が「週30時間以上」もしくは「週20時間以上30時間未満」の障害者のみでした。しかし、今回の法改正で「週10時間以上20時間未満」で働く精神障害者および、重度の身体・知的障害者も雇用率の計算対象となりました。

雇用率を計算する際は、障害者の労働時間や障害の種類、程度によって算定方法が異なります。具体的な算定方法については、後ほど詳しく解説します。

③障害者雇用調整金・報奨金の支給方法が見直される

障害者雇用では、事業主が一定数を超えて障害者を雇用する場合、超過人数に応じて障害者雇用調整金・報奨金が支給されます。今回の改正では、障害者雇用調整金・報奨金の支給方法が見直されました。

具体的には、2024年度の実績に基づき、2025年度の支給から、一定数を超えた場合に調整(減額)されることが決定しています。

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
③障害者雇用調整金・報奨金の支給方法が見直される

(出典:パーソルダイバース株式会社『【2024年版】障害者雇用市場の傾向と対策~法改正・法定雇用率引上げ、採用拡大に向けておさえるべきポイント~』)

④障害者雇用助成金が拡充・新設される

今回の改正では、障害者雇用に関する既存の助成金の拡充だけでなく、新たな助成金の創設も行われました。詳しくは下記の図や無料ダウンロード資料、厚生労働省の資料などをご確認ください。

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
④障害者雇用助成金が拡充・新設される

(出典:パーソルダイバース株式会社『【2024年版】障害者雇用市場の傾向と対策~法改正・法定雇用率引上げ、採用拡大に向けておさえるべきポイント~』)

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
【2024年版】障害者雇市場の傾向と対策
【2024年版】障害者雇市場の傾向と対策法改正や法定雇用率引き上げ、採用拡大に向けておさえるべきポイントなど、図解を用い、わかりやすくまとめました。ぜひお役立てください。⇒資料を無料ダウンロード

障害者雇用促進法の今後の改正予定

障害者雇用促進法は、2025年および2026年にも法改正が行われる予定です。ここでは、それぞれの年に予定されている改正の内容をご紹介します。

2025年の法改正内容

2025年の法改正では、除外率制度における各業種の除外率の引き下げが行われます。「除外率制度」とは、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種について適用される制度です。雇用労働者数を計算する際に除外率に相当する労働者数の控除が認められ、障害者の雇用義務が軽減されます。

2025年4月1日以降は、現在の除外率からそれぞれ10ポイント引き下げられます。引き下げ後の除外率は以下の通りです。なお、現行の除外率が10%以下の業種については、除外率制度の対象外となります。

(参考:厚生労働省『障害者雇用率制度・納付金制度について』『障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について』)

2026年の法改正内容

2026年7月には、民間企業の障害者の法定雇用率が現行の「2.5%」から「2.7%」に引き上げられる予定です。それに伴い、対象となる企業も常時雇用している労働者数が「37.5人以上」の企業へと拡大されます。
(参考:厚生労働省『障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について』)

障害者雇用において企業が対応すべきこと

障害者の雇用は、法令の順守だけでなく、「誰もが職業を通じた社会参加のできる共生社会の実現」や「DE&I(※)」の観点からも取り組むべきことです。また、障害者雇用には「労働力の確保」や「生産性の向上」といったメリットも期待されています。ここでは、障害者雇用を成功させるために、企業が整理することや取り組むべきことについて解説していきます。
※DE&I(ダイバーシティー・エクイティー&インクルージョン):多様性・公平性・包括性を取り入れて、多様な人材が互いに認め合い、自らの能力を最大限発揮できること

実雇用率の確認

まずは自社の実雇用率を確認し、障害者雇用の現状を把握しましょう。

障害者雇用率の算定対象となるのは、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳を持つ人に限定され、これらを所持していない障害者は算定対象外となります。具体的には、下記の表のピンク色の部分に該当する人が算定対象です。

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
障害者雇用促進法における障害者の範囲と障害者雇用率の算定対象

対象者を確認したら、自社の障害者実雇用率を計算しましょう。基本的な算定方法は以下の通りです。

事業所(支店等)が複数ある場合でも、企業全体で計算します。

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
障害者の実雇用率

ただし、以下の図の通り、「重度の身体障害者・知的障害者はダブルカウントする」「今回の法改正により週10時間以上20時間未満で働く精神障害者および重度の身体・知的障害者も0.5人として計算対象に含む」など、障害の程度や週の労働時間によってカウント方法が異なる点に注意しましょう。

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
雇用率制度における算定方法

(出典:パーソルダイバース株式会社『【2024年版】障害者雇用市場の傾向と対策~法改正・法定雇用率引上げ、採用拡大に向けておさえるべきポイント~』)

実雇用率を算定したら、実雇用率が法定雇用率を上回っているかを確認しましょう。法定雇用率を満たしていない場合、積極的な採用活動を行う必要があります。

以下のフォーマットは、「労働者数」や「障害の種別ごとの人数」を入力するだけで、「自社の実雇用率」や「現在の法定雇用率を満たしているか」を把握できるシートです(業種ごとの除外率については加味されていません)。2024年4月の改正内容にも対応していますので、ダウンロードしてご活用ください。

【図解】2024年から2026年の障害者雇用促進法の改正内容と企業対応例 ~募集・選考・入社後のフォローなど早わかり~
障害者実雇用率計算フォーマット(Excel版)知っておきたい自社の障害者雇用率を試算できる計算シートです。今後、法定雇用率が変わっても活用できますので、ぜひお役立てください。⇒資料を無料ダウンロード

採用計画の立案

雇用すべき障害者数と実際の雇用数のギャップを把握したら、以下の項目を軸として、採用計画を立てましょう。

●雇用目的
●採用人数
●対象事業・業務
●人的リソース
●コスト
●選考プロセス
●採用チャネル
●外部サービス利用

対象事業・業務については、障害者に携わってほしい業務を「既存のものから選ぶ」のか、あるいは「新しく創る」のかを検討します。業務ごとに「必要な経験や職務能力」「難易度」「想定される負荷」を明確にしておくことも大切です。

計画時には、以下のような取り組みも参考にしてみてください。

【採用計画時の取り組み事例】

●計画の立案に人事・採用担当だけでなく、各部署の責任者も参画する
●業務を「定型業務」「可能なら行いたい業務」「後回しになりがちな業務」の観点で分類し、障害者の特性に合った作業を選定する
●入社後のサポート役として1人以上のリソースを確保する
●文字のみ/音声のみでコミュニケーションが行えるツールを導入する
●フレックスタイム制や時差出勤などの制度導入を検討する

必要に応じて、外部サービスを利用した雇用確保も検討しましょう。

障害者雇用領域に関するご相談は⁠パーソルダイバース株式会社までお問合せください。

雇用の準備

次に、障害者雇用のための準備を行います。募集においては、障害者が特性や能力を発揮できるよう、「業務内容」や「職務遂行に必要なスキル」とともに、「就業場所」「給与」「雇用形態」「就業時間」などについても明示しましょう。

受け入れ態勢の土壌を整えるために、社内コンセンサスの形成に努めることも重要です。障害者雇用に取り組む意義を従業員に説明するとともに、現場の従業員が抱える不安を丁寧にリスニングします。不安の払拭を試みるとともに、障害と必要な配慮に関する情報を共有すると、採用後のトラブルを防ぎやすくなるでしょう。

【雇用準備時の取り組み事例】

●備品の配置を見直す
●オフィスのフロアマップや業務マニュアルを作成する
●面談方法や業務指導方法など、雇用管理上必要な知識を学ぶ機会を設ける
●障害者雇用についての全社的な説明を行う

募集・選考・入社後のフォロー

雇用の準備を行うとともに、採用活動も開始しましょう。ハローワークへの求人申し込みや障害者就職面接会などへの参加、あるいは支援機関や教育機関との連携を通して、母集団を形成し、選考へと進みます。選考を行う前には、面接時の確認項目や障害上の配慮を明確にしましょう。

【選考時の取り組み事例】

●体調が悪くなりがちな時間を避けて試験時間を設定する
●当日のタイムテーブルや試験の流れ、質問事項などを事前に周知する
●問題用紙の点訳・音訳、拡大文字、音声ソフトの使用など、必要な配慮を行う
●受付から試験会場への移動距離を極力短くする
●筆記試験において必要以上の机間巡視を行わない
●他の従業員の行き来のない個室で面接を行う

入社後は以下の観点で雇用管理を行い、障害者が安心・安定して働けるようにすることが大切です。

●配属先での人間関係
●職場環境
●健康面・モチベーション
●評価・処遇
●教育・訓練

上記を踏まえ、雇用管理者や担当者は積極的なコミュニケーションを図りましょう。「遅刻・残業や業務ミスが増えるなど、体調面や仕事面で変化はないか」と日々の状態を観察するとともに、「対人面での悩みはないか」などと面談で当事者の声を確認します。共有された不安や訴えに対処することは、離職防止につながります。

また、個々がより能力を発揮して活躍できるよう、継続的な職域開発や、業務の遂行方法・分担の見直しなどを行うこともポイントです。

必要に応じて、支援機関とも連携しましょう。

【入社後の取り組み事例】

●既存従業員向けに「声かけの際は自分の名前を名乗ってから話す」「複数の作業を同時に依頼しない」「優先順位を伝える」などのルールを定める
●耳栓やついたての使用を許可するなど、作業に集中しやすい環境をつくる
●月に1回面談日を設定する
●本人の希望する業務について、短期間のOJT経験や交流研修、出向などを通して、挑戦の機会を設ける
●資格取得に向けて必要な支援を行う
●評価軸を複数設定する

これらのステップでは、「障害者差別の禁止」「合理的配慮の提供義務」に留意することも大切です。合理的配慮の内容や程度は、障害の内容や個々の状態、職場環境によって異なります。当事者と事業主、関係者で話し合い、相互理解の上で実現できるよう努めましょう。

障害者雇用における支援・助成金の把握

「障害者雇用の経験やノウハウが蓄積されていない」「雇用に際し一時的な経済的負担が発生する」などの理由により、不安を感じる企業および担当者の方もいるのではないでしょうか。

以下に、主な支援制度や助成金についてまとめました。

●中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)
●在宅就業障害者支援制度
●障害者雇用相談援助事業
●障害者雇用に関する税制優遇制度
●障害者介助等助成金
●職場適応援助者助成金
●トライアル雇用助成金 など

また、自治体にはハローワークや地域障害者職業センターなど、相談・支援機関も存在します。障害者雇用推進のためにも、積極的な活用を検討しましょう。
(参考:厚生労働省『障害者雇用に係る税制上の優遇措置/障害者雇用に関する各種相談・支援機関』『障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~』)

まとめ

障害者雇用促進法は障害者の雇用の安定と共生社会の実現を目指し、2025年と2026年にも改正されることが決定しています。2026年には法定雇用率がさらに引き上げられますが、雇用率の達成のみに注力してしまっては、障害者雇用の目的は達成できないといえるでしょう。

障害者雇用成功のためには、単なる採用にとどまらず、障害者が継続して働けるような現場の理解や体制構築が重要です。障害者雇用を通して職場環境を改善することで、障害の有無を問わず、さまざまな人が活躍できる企業になります。

まずは自社における障害者の実雇用率を把握することから始め、今回ご紹介した取り組みに着手してみてはいかがでしょうか。

■関連記事:【最新版】障害者雇用促進法の2020年改正を図解!企業が取るべき対応とは?

(企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、制作協力/株式会社mojiwows

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