レビュー
本書は、丹羽宇一郎氏と藤井聡太氏の対談をまとめた一冊である。丹羽氏が藤井氏の言葉を引き出す形で、棋士・藤井聡太が歩んできた19年間が明らかにされていく。
丹羽氏は伊藤忠商事の名誉理事を務め、内閣府経済財政諮問会議議員などを歴任してきた経済界の重鎮だ。一方の藤井氏は、2016年10月に史上最年少の14歳2カ月でプロデビューを果たした棋士である。ふたりの年齢差は63歳。2018年に初めて会ってから、友人関係を続けているという。
藤井氏は、いまや日本で最も注目されている棋士といっても過言ではないだろう。プロデビュー直後から29連勝して歴代最多連勝記録を更新、最年少でタイトルを獲得するなど、メディアを連日にぎわせている。
昇段のスピードも凄まじく、将棋雑誌が「藤井聡太4段」と紹介する頃には5段どころかすでに6段に昇段していた、という話に衝撃を受けた人も多いのではないだろうか。本書にも「『藤井聡太二冠』と呼ばれるようになり、日本中から注目されるようになっ」たという記述があるが、本要約の執筆時点では「藤井三冠」となっている。
数々の新記録樹立やそれに対する周りの盛り上がりに反して、藤井氏本人はメディアを通してみるかぎり、何も変わらず、落ち着いた態度でいるように見える。丹羽氏も本書の中で、そんな藤井氏の態度に衝撃を受けたと語っている。藤井氏はいま、何を考え、何を思っているのか。なぜ常に自然体なのか。
本書の要点
・丹羽氏によれば、トップの3条件は「負けず嫌い、反骨心」「忘れる力」「孤独の力」だ。藤井氏にも、それに当てはまる経験があった。
・藤井氏は、納得したうえで取り組むことを大切にしており、学校の先生に「宿題なんてやる必要があるのか」と質問したこともある。こうした姿勢が心の強さの源になっているのではないかと丹羽氏は推測する。
・将棋界ではいま、AIによってこれまでの価値観が塗り替えられようとしている。藤井氏は、AIは絶対的なものではなく、最終的には個人の工夫や考えが問われるだろうという見通しを持っている。
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