レビュー

とめどなく成長と成果を求められ、その期待に応えたいとは思うが、はたしてこの生き方を続けていいのだろうか? こんな意識が芽生えたときに迷わずおすすめしたいのが本書だ。
著者は、成人がどのように成長していくのかを研究する「成人発達理論」を専門とする知性発達学者だ。

成人発達理論は、企業における人材育成・組織開発に取り入れられるようになってきた。一方で、その本質が充分に理解されたとは言い難い。そして「成長疲れ」に陥っている人も多い。本書は、こうした状況をどう改善していくべきかが明らかになり、成長の持つ意味の広がりと深さを味わえる。主軸となるのは、ドイツの思想家ビョンチョル・ハンとドイツの神学者ポール・ティリックの論考だ。両者の論をベースに、現代社会の礎である資本主義を、経済学的・歴史学的・哲学的な観点から分析している。
第1部「成長疲労社会への処方箋」では、新自由主義的社会がもたらす問題から解き放たれるための方法が提示される。第2部「透明化する社会への処方箋」では、あらゆるものが可視化される社会において、私たちが失っている「神秘的なもの」や「他者」に光を当てる。そして第3部「資本主義批判の中での成長への実践」では、資本主義への批判を振り返り、私たちがより良く生きるための処方箋が紹介されている。
人間の成長を取り巻く問題を生み出す社会の構造や文化的な背景とは何なのか。本書を読めば、人生を豊かにする知恵を得られるはずだ。

本書の要点

・ビョンチョル・ハンは、新自由主義的資本主義が進行する社会を「疲労社会(燃え尽き症社会)」と表現する。

人々は、過度な成長・達成(=ハッスル)を求められており、疲弊している。
・私たちに求められるのは、社会に流布する価値観や仕組みを客体化し、自分なりの判断基準を持つポストコンベンショナルな思考だ。
・疲弊せず、より良く生きるためには、超越的なものに触れる時間を持ち、自らが置かれた状況に自覚的になる必要がある。



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