レビュー

雇用・労働界には「出羽守(でわのかみ)」が跋扈している。「アメリカでは……」「欧州では……」と、外国を引き合いに出して、日本の現状を憂い、外国出自の仕組みや制度の導入をもくろむ人たちだ。


最近では、ジョブ型雇用に関し、多くの出羽守が現われた。問題は、彼らのいうジョブ型が正確ではないばかりか、そのメリットだけ強調し、デメリットへの言及がなかったことである。
企業経営において、ジョブ型を入れると解雇がしやすくなるのは間違いない。ジョブ型では「人」ではなく「ジョブ(仕事)」に報酬を支払うため、あるジョブがなくなった場合は、そのジョブに就いていた人も「さよなら」となりやすい。対して、メンバーシップ型を採用する日本企業では、ジョブではなく人に報酬を払っている。そのため、ある仕事がなくなっても別の仕事を任せることができ、解雇する必要がない。
そう考えると、ジョブ型は働く側に解雇という困難を押し付けやすい仕組みといえるが、果たして日本人はそこまで理解しているのか。大きな疑問である。
本書は、そうした出羽守に痛棒を食らわせる内容だ。ジョブ型雇用をはじめ、人的資本経営、ワークライフバランス、自律分散型組織といった、経営や働き方に関する流行り言葉(バズワード)の本質を見抜き、取り出し、あるべき姿を提示する。
著者はリクルート出身で、リンクアンドモチベーション創設者の小笹芳央氏だ。昨今の流行り言葉に何か変だなと思っている人はもちろん、流行に踊らされない組織変革を志す人には、またとない一冊となるだろう。

本書の要点

・人的資本経営を考える際、経営戦略と人事戦略の連動が大きな鍵を握る。具体的には、人的資本の指標と財務成果との繋がりを整理した「人的資本インパクトパス」をつくる必要がある。
・日本版のジョブ型雇用は、仕事(ジョブ)ではなく、役割やポストで規定された「役割型」や「ポスト型」であり、本当のジョブ型とは似て非なる。
・自律分散型組織が効力を発揮できるのは20~30人の組織に限られる。それ以上になると、結節点としてのマネジャーの存在を前提としたピラミッド型組織のほうが、意思決定や活動のスピードは上がる。



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