ドイツで開催されているUEFA EURO 2024で、優勝候補の本命であるイングランドが苦しんでいる。
フットボールの母国は、大会屈指のタレントをそろえながらもグループCの初戦ではセルビアに苦しめられ、MFジュード・ベリンガムの試合唯一のゴールを守って1-0で逃げ切るのが精一杯。
勝ち点4でグループステージ突破に王手をかけたものの、選手たちの体は重く、なかなか鋭い攻撃を見せられていない。決勝トーナメントに向けてここから徐々に調子が上がるなら問題ないが、そのためには何かきっかけが必要かもしれない。その起爆剤として期待されるのがニューカッスルのFWアントニー・ゴードン(23歳)だ。
ドイツに持ち込んだ自己啓発本
今大会、まだ一度も出場機会のないゴードンだが、彼は焦ることなく虎視眈々とチャンスを待ち続けているだろう。読書家として知られる彼は、自己啓発本を通じて“穏やかな精神”を育んでおり、今大会も3冊の本をドイツに持ち込んでいる。
ニュージーランドの元ラグビー選手であるダン・カーター著の『The Art of Winning(勝利の美学)』、元軍人でトライアスロン選手でもあったデイヴィッド・ゴギンズ著の『Never Finished(不屈)』、そして自己啓発書作家であるトニー・ロビンズ著の『Life Force(生命力)』だ。
3冊目については、元マンチェスター・ユナイテッドのポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドの影響だと『BBC』のインタビューで明かした。
「この前、(マンチェスターUのGK)トム・ヒートンがクラブのチームメイトたちに話していたんだ。ロナウドがその本を読んでいたってね。僕は聞き耳を立てており『ロナウドが読むなら、僕も読んで参考にしよう』と思ったのさ」
思慮深いゴードンはチェスも参考にするという。やりながら学んだというチェスについては「人生の教訓と同じ」と話す。
そして彼は「瞑想」も大事にする。1日の始まりや試合前に、明確なビジョンを描くそうだ。「試合中、疲れてくると判断が鈍る。だから試合前に自分の目的を視覚化しておくのさ」と説明する。
当然、試合中のプレーだけでなく短期的な目標も立てるという。昨夏はU-21イングランド代表としてU-21欧州選手権に出場し、A代表のチームメイトであるコール・パーマーと共に攻撃を牽引し、見事に「優勝と大会最優秀選手」という2つの目標を実現してみせた。その勢いのまま、昨季のプレミアリーグでは11ゴール+10アシストの活躍でニューカッスルのクラブ年間最優秀選手に選ばれた。
ピッチではパッションを放つ
そんなゴードンだが、ピッチという名の“リング”に立てば読書家とは思えないほどのパッションを放つ。ボクシングが盛んなマージーサイドで生まれ育った彼はボクシング愛好家で、見るだけでなく自分でもボクシングをする。子どもの頃にもやっていたそうだが、古巣エバートンでプロ選手になってから再開したという。
「リバプールの少年は、みんな一度はジムに通うのさ」とゴードンは『BBC』に語る。
読書、チェス、そしてボクシングを融合させたフットボール選手、アントニー・ゴードン。U-21世代で欧州を制した男は、初のEURO制覇を目指すイングランド代表の起爆剤になれるのだろうか。
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