【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#237


 松村邦洋さんのモノマネに「松ちゃんに『俺そんなに首を動かしてしゃべるか?』って聞いたら、『します』って言うから、そうか、って。松ちゃんがマネする津川雅彦でしゃべるようにしてるのよ。

なんか楽しいじゃない?」と、あえて自分をモノマネに寄せているというエピソードにびっくり。大物俳優なのに壁をつくらず、誰とでもフランクに接する姿に人柄を感じました。


「今はこんなオヤジになっちゃったけど、若い頃はハンサムでさ。ブロマイドの売り上げが1位になるくらい人気があったんだよ。信じられないと思うけどさ」と笑いながら話され、観覧席の年配の方に「間違いありませんよね?」と気軽に声をかけられて、その方がうなずくと「ほらほら、ホントだろう?」と笑いをとりました。


 奥さまの朝丘雪路さんにはメロメロで「日本を代表する親父さん(日本画家の伊東深水)に頼み込んで頼み込んで来ていただいたんだから、そりゃ大切にしてますよ。そばに居てくれるだけで幸せなんだから」と、これまたうれしそうに話しておられました。


 中でも一番熱く語られていたのがおもちゃの話。「グランパパ」という世界中から優良なおもちゃを取り寄せたおもちゃ屋さんを経営していたのですが、おもちゃが好きなのではありません。「子供は誰の子供とかいう問題じゃなく、みんなが日本の宝なんだから、いいおもちゃを与えてあげないといけませんよ。これは大人の義務だと俺は思うけどね。どの親御さんも大切に育ててらっしゃるとは思うけど、(虐待などの)嫌なニュースを見ると本当に心が痛むね。

かけがえのない存在なんだから大切にしてもらいたいね」と涙ぐみながら話しておられたのも印象的でした。


「自然を大切に、当たり前だよ。未来の子供たちから預かってるんだから、俺たちが。子供たちにはいいものを残さなきゃ」と子供たちのために何ができるかということも真剣に話しておられました。


 演技については「俺のことはどう見られても思われてもいいんだけど、映画やドラマの中で俺のやってる役の人がどうするのが全体を見た時にいいのかは考えますね」と、子供たちのことと同様に“目先じゃなく、大局で見ている”方でした。


 役者、映画監督、会社経営といろいろな顔をお持ちでしたが「どれも俺の宝だから一生懸命やらないとバチが当たるね。ひとりじゃできないんだから、そこも忘れちゃだめだな。感謝の気持ちを忘れちゃ人じゃないと俺は思うけどね」と収録の予定時間を超えて、真摯に語ってくださったのを覚えています。


 決して格好をつけて話されているわけでもないのですが、表情やしぐさや間がドラマを見ているようで本当に絵になる方でした。ひょっとすると「津川雅彦」を演じておられたのかもしれません。 


(本多正識/漫才作家)


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