【注目の人 直撃インタビュー】
中川翔子さん(空色スクール校長)
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春は出会いの季節というが、新しい環境になじめない人も多いはず。不登校の小中学生の数も11年連続で増加し、最新調査では34万人を突破した。
──「卒業式をもう一度」を成し遂げ、今はどんな思いですか。
実現できたことに驚いています。オンライン授業を生徒たちが真剣に取り組んでくれてうれしかったけど、実際に会うのは当日が初めて。「卒業式」をどう受け止めてくれるのか不安でした。でも、生徒の言葉に涙腺が崩壊して。かわいい生徒たちを誇りに思います。
──校長も中学時代は学校に行けず、卒業式にも出られませんでした。
当時は「やっちまった、自分はダメだ、人生終わった」と思ってしまった。桜の季節が来るたびモヤモヤが残っていましたが、私の卒業式への思いも生徒たちが塗り替えてくれた気がします。
■10代は夢を見つけた瞬間に輝き出す
──授業には12~60歳(平均25歳)の31人が参加。うち29人が北は青森、南は鹿児島から駆けつけました。特に印象に残る出来事は?
12歳のココちゃん(仮名)が新たな一歩を踏み出したことです。今まさに学校に行けない日々と向き合って悩み、現実の卒業式にはどうしても行けなかったけど、勇気を出して参加してくれた。憧れだったという、クラスメートに髪をかわいくアレンジしてもらった喜びを素直に語り、「人を助ける仕事をしたい」と宣言。堂々とした姿に心を打たれました。10代は夢を見つけると一気に輝き出す瞬間がある。彼女の「羽化」に立ち会えて胸がいっぱいでした。
──他にも「苦しんでいる人を支えたい」と言う生徒が大勢いました。
つらい経験をし、乗り越えたからこそ人に優しくなれるし、言葉の説得力も増す。シングルマザーの36歳、吉田さんも印象的でした。中2で不登校、出産後に高校に通い直し、留学や転職を経て今は保健室の先生。
──年長の生徒さんは口々に「若い人に多くのことを気付かされた」と話していました。
年齢を制限しなくてよかった。最初は今リアルに悩んでいる10~20代に絞るか迷ったんですが、自然と同級生意識が芽生え、世代を超えて通じ合えた。似た体験を持つ“戦友”のような関係に。皆がひとつになった合唱のハーモニーには感動しました。年長の生徒は若い世代に刺激を受け、若者は苦しみを乗り越えた大人から勇気をもらう。何事も遅いなんてない。大人になっても気持ち次第で心はアップデートできる。彼らが「卒業式をもう一度」の意義を感じさせてくれました。
過去は変えられなくても捉え方は変えられる
──名称も「もう一度」ではなく、当初は「やり直す」だったとか。
「やり直す」はつらい過去に戻り、また同じメンバーでやる感じがして。絶対に嫌ですよね。「もう一度」に変え、新しい人々と新しい思い出をつくる意図が強調できたと思います。全国から380人も応募してくれましたし。「過去は変えられなくても過去の捉え方は変えられる」。イベントを通して伝えたかったメッセージが、多くの人に届いたならうれしいです。
──オンライン授業では、校長も生徒と一緒に「人生グラフ」に取り組んでいました。
自分の過去を振り返り、心の浮き沈みを折れ線グラフにする作業です。過去の傷と向き合い、生徒たちは胸が痛んだと思う。強制ではなかったけど、皆が過去の気持ちを言葉にしてくれて素晴らしかった。私自身もずっと過去を引きずっていたと改めて気づきました。
──全身全霊で生徒の思いを受け止め、自分の気持ちを届ける姿勢がビンビンに伝わりました。
普段はあまり人の話を聞かないほうなんですけどね。10代の頃に何をどう感じていたか、嘘なく伝えたかった。当時はいじめられていることを親に言えなくて。悲しませたくなかったし、それに恥ずかしかった。何で生きているんだろう、消えてしまいたいと追い込まれ、何度か行動に移してしまったこともありました。そのたびに母が見つけてくれたり、たまたま甘えてきた飼い猫のぬくもりで衝動が収まったり。普段は絶対に涙を見せない母が号泣した姿は今も忘れられません。ピンチの時にギリギリで誰かに救われる運命だったなと今では思えます。あの時、死ななくてよかったと心から思えるようになったのは、30歳を過ぎてからです。
──何か、きっかけがあったんですか?
出演していたポケモン番組です。過去に光を求めていたしょこたんという私の中学時代を再現したコントで「学校はしんどいけど、ポケモンにハマって楽しいでござる」と私役の子が言っていて。かなり前衛的ですけど、ハッと気付いたんです。「一生モノの好きなことを全部、この時期に見つけてんじゃん!」って。ゲームやアニメ、歌ったり、絵をかいたり。心を守るために毎日していたことが、今すべて役に立っている。キラキラした青春を謳歌していたら、今の自分はないとようやく思えるようになりました。その頃からです。つらい経験が未来の種まきにもなるって、悩んでいる人たちに伝えたいと勝手に使命感を抱くようになったのは。
──その思いが卒業生を送り出す際に発した「死ぬんじゃねーぞ!!」に込められていたのですね。
自分のライブでも叫んじゃいます。言わないと、もうスッキリしない。
■いじめの加害者が守られる流れはおかしい
──学校に行けない子の数だけ、その子の親もいる。不安を抱える親御さんに伝えたいことは?
やっぱり自分の子が傷つくのは最も悲しいことです。でも、学校に行けないからって終わりじゃない。間違いなく言い切れます。通信制やフリースクールなど選択肢も増えています。伸び伸び息ができる場所はきっと見つかります。諦めずに探してあげてほしい。
──まだまだ、自分を含む大人たちが悩んでいる子に「違う道」を用意できていませんよね。
今の学校を否定する気はないけど、昔ながらのシステムが時代とズレている気がします。多様性の時代に、まだ「みんなと同じ」が尊重される。画一的なことに向かない子たちの受け皿がもっと必要です。10代は自分の道を探す時間。隠れた才能や「これが好き」を見つけるために使ってほしい。中学でも大学のように受けたい授業を選べたらいいのに。あと、日本では、いじめられた側が学校に行けなくなったり、転校する。変ですよね。海外では、いじめた側が転校させられると聞きます。学校側にすれば「どちらも大切な生徒」なんでしょうけど、その結果、加害者が守られる流れはおかしい。問題解決になりません。
──今回のイベントから、内にため込んでいた感情を放出し、共有し合える場の大切さを学びました。これを機に真似する人が増えてもいいですね。
私も今回だけでは終わらせません。卒業生たちも次はボランティアで手伝うと言ってくれています。次の「卒業式」まで、みんな、死ぬんじゃねーぞ!! またね!!
(聞き手=今泉恵孝/日刊ゲンダイ)
▼空色スクール「卒業式をもう一度」 自身も不登校経験を持つ中川さんが3日間限定のフリースクールを開校。不登校や家庭の事情などで卒業式に出られなかったり、出席しても苦い経験があり、「もう一度卒業したい」と願う人々が参加。2度のオンライン授業の後、先月23日に「校長」の中川さんが「卒業証書」を手渡し、新たな区切りを迎えた。
▽中川翔子(なかがわ・しょうこ) 5月5日生まれ。東京都出身。歌手、タレント、女優、声優、イラストレーターなど多方面で活躍しており、近年は自身の不登校経験を踏まえて「いじめ・ひきこもり」のテーマと向き合う。悩める子供たちに執筆した著書「『死ぬんじゃねーぞ!!』 いじめられている君はゼッタイ悪くない」も話題に。