江口のりこは何が凄いといって、どんなドラマのどんな役でもピタリとはまってしまうところである。一躍注目を集めた「半沢直樹」の権力欲ギラギラの国土交通大臣、「鎌倉殿の13人」では夜這いしてきた源頼朝に進んで股を開く好色な人妻、映画「愛に乱暴」のチェーンソー片手に壊れていく主婦、舞台では麻薬中毒者と、それぞれまったく違う役柄なのに、江口が演じるとどれも違和感がない。

初めから彼女のためにあった役のように見せてしまうのだ。


 そんな江口だから、いま引っ張りだこである。春のドラマにも3本出演していて、ここでも性格も境遇も真反対の母親を巧みに演じ分けている。


 NHK連続テレビ小説「あんぱん」のヒロインの母親・朝田羽多子は、子どもたちを静かに愛しながら、大黒柱を失った一家をあんぱんを売って支えようとする気丈さを見せる。
一方、TBS系の火10ドラマ「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」の長野礼子は、隣家の専業主婦を羨みながらも見下している、仕事と家事の両立にヘトヘトの2児の母親だ。朝ドラの羽多子は「娘らの学費を貯めちょかんと」と趣深く、火10の礼子は専業主婦を「時流に乗り遅れた絶滅危惧種」と憎まれ口をきいたりする。


 主演の「ソロ活女子のススメ」(テレビ東京系)もシーズン5に突入、自分へのご褒美のバースデー旅でオーストラリアの美食の街メルボルンを訪れ、ミートパイにかぶりつき、イケメンに声を掛けられ、気球で街を空から眺めたりと、ひとりの時間を存分に楽しむ。ソロ活をしているのは出版社で働く五月女恵なのだが、江口は“普通の女子”を普通に演じて、いつの間にか五月女が江口に見えてしまう。


「江口はとても個性的な俳優ですが、実は江口色というものはない。だからどんな色にも、つまりどんな役にも染まれるんでしょう。バラエティー番組に出ても面白いでしょ。あれも、バラエティーでウケるキャラを巧みに演じているんです。

ただ、トークでもドラマでも、決して自分から真ん中に立とうとはしない。そのへんの距離感が絶妙で、自分の見せ方がわかっているんですよ」(ドラマ制作会社プロデューサー)


 江口がいまやりたいのは男役だという。「女が女をやるのは当たり前。女が男をやってもいいと思います」と話す。


 やくざの親分? 女を次々に餌食にするジゴロ? 特攻隊兵士の狂気?


 江口の男役、見てみたいなあ。


(コラムニスト・海原かみな)


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