【ラサール石井 東憤西笑】#250
昨日16日から始まった劇団「ラッパ屋」40周年記念にして第50回公演「はなしづか」にゲスト出演している。
ほかには「面白落語の巨匠」春風亭昇太、「聞かせる落語の巨匠」柳家喬太郎という、独演会のチケット即完の2大師匠を迎え、それこそ昭和初期から太平洋戦争の間、実際にあった「禁演落語」を題材に、当時の落語家たちの悲喜劇を、現役の落語家がストレートに演じる芝居になっている。
そもそもの企画は、若くして亡くなった劇作家中島淳彦氏と昇太さんが、いつかは描きたいと約束していた芝居だったが、中島氏の死によって立ち消えとなっていた。それをラッパ屋主宰の鈴木聡氏に昇太さんが話したところ、私に書かせてくれということになり今回の公演が実現した。
劇団ラッパ屋は40年前、早稲田の演劇サークル「てあとろ50'」を前身に立ち上がった「サラリーマン新劇喇叭屋」から始まった。作演出家の鈴木聡氏は、博報堂でCMを作りながらの劇作という二足のわらじでやってきた。代表作にはNHK朝ドラ「あすか」や、木の実ナナさんのミュージカル「阿国」などがある。ジャズと落語をこよなく愛する劇作家だ。私とは以前から「その男」「阿呆浪士」などの作品を演出させていただいた仲だ。
「喇叭屋」はのちに「ラッパ屋」となり、主に市井の人々のささやかな人生に光をあてた(町工場の社員たちが、ただ「ももクロ」を完コピして踊ることだけに人生を懸ける「おじクロ」など)それこそ落語的人情芝居を数多く世に送り出してきた。劇団員も顔を見れば、「ああ、あのドラマ、あのCMで見たことある」という手だれのバイプレーヤー揃いだ。
私はこんなすてきな芝居に呼んでいただき至福、感動の嵐なのだが、SSのお2人と、なんと同期の落語家の役をやらなければいけないのは、いやもう冷や汗もののちょいとした地獄でもある。いきなり冒頭で、おのおの落語のネタを繰るシーンから始まるのだから震える。さらに「時そば」の蕎麦っ食いの所作まで披露する。
しかし、鈴木さんの絶妙な当て書きのおかげと、そしてお2人の師匠の素晴らしい演技のたまもので、なんとかよい芝居になったと自負している。
禁演落語とは戦時中に時節に合わない「居残り佐平次」などの廓の話や艶っぽい話など53種を、禁演として現在も浅草本法寺にある「はなしづか」に葬ったもの。その後終戦で、無事に掘り起こされ、また演じられるようになった。
当然そこには言論弾圧や焚書などのテーマがあり、ひいては反戦の心がその下に通奏低音として響いている。それを笑いとともに軽妙に見せる、ここがまさにラッパ屋であり、見事に40周年にふさわしい芝居となった。
23日まで。当日券も若干枚出るようだ。ぜひ目撃していただきたい。
(ラサール石井/タレント)