【今週グサッときた名言珍言】


「自分じゃない人間になりたいと思った」
 (竹中直人/フジテレビ系「千原ジュニアのヘベレケ」4月5日放送)


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 シリアスからコメディーまで幅広く演じこなす俳優の竹中直人(69)。そんな彼が役者に憧れた理由を語った一言が、今週の言葉だ。


 竹中は「子供の頃から自分がすごく嫌いだったから」とポツリと漏らした。


 子供の頃、引っ込み思案だった竹中が「自分じゃない人間」になるために、まずやったのはモノマネ。有名人をマネすると一躍、クラスの人気者になった。


 高校3年のときに「美大に入りたい」と突然思い立ち、2浪の末、多摩美術大学に進学。最初は絵を描いていたが、映像・演出研究会に入って8ミリ映画を撮っているうちに映画に携わる仕事がしたいと思うようになった。


 ちなみに、そのとき「首振り地蔵の怪」という短編を撮影した。だが、周囲からバカにされてしまう。「(笑いながら)『ふざけんじゃねぇ、コノヤロー』と怒った。そしたら、みんな大爆笑」(オリコン「ORICON NEWS」2018年2月21日)。それが彼の代名詞のひとつである芸「笑いながら怒る人」の起源だという。


 在学中は「ぎんざNOW!」(TBS系)や「TVジョッキー」(日本テレビ系)などの素人参加コーナーに出場し、名を馳せた。大学卒業後、青年座の研究員になるが、その研究費30万円も「3分間で人を笑わせたら賞金30万円」という素人参加型の企画で賄った。


 だが、俳優としてはなかなか芽が出ない。そんな竹中のモノマネ芸が人力舎の玉川善治社長(当時)の目に留まり、「ザ・テレビ演芸」(テレビ朝日系)でプロデビュー。司会の横山やすしから絶賛され、コメディアンとして道が開けていった。けれど、元来シャイな性格。バラエティー番組に素のままで出るのは苦手だった。


「だから、一時期はあるキャラクターつくってないと(出られなかった)。カツラかぶったりすればね。いろんなキャラクターになれて、自分じゃないと思えるから。なんだってできたりするんですよ」(朝日放送「相席食堂」19年9月17日)


 そう、自分じゃない人間になれば、どんなくだらないことでもできる。冒頭の番組でもシリアスばかり評価されがちな現状にあらがい、「ずっとくだらないことをやっていきたい」と言って、「顔は冷静だけど酔っぱらっている人」や「一瞬で老人になる人」をやって笑わせていた。


「くっだらねぇなぁっていうのが、それが僕にとってはすごくステキな響きですね」(NHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史Ⅱ」15年10月16日)


(てれびのスキマ 戸部田誠/ライタ―)


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