遠藤舞さんインタビュー(前編)

「もし断っていなかったら私も献上されてた……」


遠藤さんが知人の体験談を告発した経緯を明かす


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《昔例の会に誘われた事があり、もし断ってなかったら私も例の人に献上されてたという事》


 2023年12月28日、Xの投稿が話題を呼んだのが、フジテレビ発のアイドルユニット「アイドリング!!!」元メンバーで、現在、ボイストレーナーとして活動する遠藤舞さん。


 一昨年の年末といえば、大物芸能人の性加害疑惑が週刊誌で報じられた頃。

冒頭のコメントは、その報道を受けて発信したものと思われる。


 あれから1年以上が経った今、遠藤さんに改めて話を聞いた。


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 そもそも、遠藤さんはなぜ"例の会"に誘われるに至ったのか――。きっかけは、容姿端麗で仕事熱心な友人からの誘いだったという。


「今から8年以上前のことですが、当時、私をよく飲み会に誘ってくれる友人がいました。彼女はビジネスの人脈づくりのため、日頃からいろいろな飲み会に顔を出していて"シゴデキ"な雰囲気のある女性でした。私はお酒が飲めないのと夜出歩くのが好きじゃないので、彼女からの誘いはほとんど断っていたのですが、その中の一つに"例の会"があったらしいのです。のちに友人と会ったとき、その会がかなり酷いものだったと聞いて驚きました」


 遠藤さんの友人は、例の飲み会に女性を集めていたとされる男性芸人と昔から仲が良く、お互いに知人を誘い合って何度も飲み会を開いていたという。彼に対して全幅の信頼を寄せていたその女性は、例の会の日も二つ返事で彼の誘いに乗った。


「ただ、その日はいつも通り飲み会に行ったら『VIPが来るからちょっと場所が変わるけど大丈夫?』と言われ、急に行き先を変更されたそうなんです。でも、今までの信頼の積み重ねがあったので、特に疑うこともなくついて行ってしまったようで。そこから先は、すでに出ている報道と大体同じような流れで、男性陣がホテルのスイートルームのリビングや寝室などに散らばり、女性がローテーションするという……。

彼女は必死に抵抗したそうですが、おそろしい話だと思いました」


 友人の告白に衝撃を受けつつも、当時の遠藤さんはこの件をそこまで重く受け止めていなかったという。


■週刊誌報道が出て、友人の話がよぎり勇気をもって発信


「話を聞いたときは『本当にそういうことがあるんだ。闇深いな』と思うと同時に『いろんな飲み会に行っていると、まれにそういう目に遭ってしまうこともあるのかな。やっぱり飲み会って怖いな』くらいにしか思っていませんでした。恥ずかしながら、当時の自分はまだ性加害というものへの意識が低かったのだと思います」


 それから8年以上の歳月が流れ、遠藤さんはタレントからボイストレーナーに転身。若手女性アイドルを指導する立場となり、性加害・性被害に対する意識が変化していく。


「守るべき対象ができたことは大きいと思います。自分の生徒をはじめとする若い女の子たちに嫌な思いをさせたくないという気持ちから、色んな考えが徐々にアップデートされていきました。


 そんな中、週刊誌報道が出て、昔聞いた友人の話が頭をよぎりました。彼女とは疎遠になってしまい、あの件についてもしばらく思い出すことはなかったけれど、改めて考えたら本当に卑劣な行為だなと思いました。今の自分だったら、もっと親身になって彼女の話を聞いて、『警察に行ったほうがいい』と伝えられたのにと悔しくもなり。これは実際に話を聞いた人間として、可能な範囲で発信しなくてはならないと思い、勇気を出してSNSに投稿しました」


 しかし、予想以上に批判的な意見が多く集まり、中には人格を否定するような誹謗中傷や、脅迫めいたコメントもあったという。


「被害者側に立つことで、まさかあそこまで叩かれるとは思いませんでした。私が運営するボイトレスタジオの公式サイトの問い合わせフォームにも罵詈雑言が届いたり……。そういうのは論外としても、批判的な声の中で気になったのが、『(被害者とされる女性は)どうせ金儲けをする目的で週刊誌にネタを売ったんだろう』というもの。これについては少し思うところがあって……」



■『どうしてすぐに警察に行かなかったんだ』と誹謗中傷が…

 遠藤さんは、週刊誌に対する世間のイメージと実体との乖離について指摘する。


「まず、メディアに関わる仕事をしている人ならわかると思うのですが、メディアにタレコミをしたところで、もらえるお金は数千円から多くても数万円ほど。大きなお金を手にできると思っている人が多いけれど、まったくそんなことはありません。


 また『どうしてすぐに警察に行かなかったんだ』という声も多く見かけましたが、被害に遭ったときにどんな行動を取れるかは個人差があって当然だと思います。実際、性被害を"被害"として受け入れるまでにかなりの時間を要するとも言われています。でも、時間が経ってしまったら、警察が取り合ってくれない場合も多い。なぜ被害者とされる女性が週刊誌への告発を選択しなければならなかったのか、性暴力事件の特殊性を踏まえた上でもう少し考えてもらえたらと思います」


 法務省のデータによると、性被害に遭った人の8割が警察に被害届を出していないという。背景にはさまざまな事情があるものの、性被害者にとって警察に被害を届け出ることへのハードルは想像以上に高い。


 遠藤さんは、自身の経験を振り返りながら次のように語る。


「何かしらの被害を受けたときに驚きすぎて何もできず、あとで『これは警察が取り合ってくれたかも』と思うことは、私自身も過去に何度かありました。警察に行くべきというのは大前提なのですが、性被害者は警察にすぐに駆け込むことが難しい場合もあるというのを、もっと多くの人に知ってもらいたいです。


 一方で、警察に被害を訴えてもまともに対応してもらえなかったという話を周囲の女性たちから聞いたことがあります。被害を言い出しやすい環境を整備してほしいですし、きちんと対処してもらいたいです。そうすれば、結果として冤罪を生まないことにも繋がっていくと思います」


【後編】では、遠藤さんが体験したり、目の当たりにしたハラスメントや、芸能界で"上納"が起こりやすい背景などを語る。


(取材・文=渡辺ありさ)


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