【その日その瞬間】


 ルシファー吉岡さん


 R-1グランプリ決勝に史上最多7回出場のルシファー吉岡さんは、大学院からサラリーマンを経てデビューした異色芸人。もっとも印象に残っている決勝の瞬間を聞いた。


  ◇  ◇  ◇


■大学院を出て就職 10カ月で退職し芸人に


 ──ピン芸人になるまでの経緯を改めて教えてください。


 学生時代はお笑いを目指していましたが、東京電機大の大学院を出た後、一度はサラリーマンになりました。でも、10カ月くらいで辞めてしまいました。サラリーマン生活が自分には合わなくて。仕事というより、住んでいた会社近くの寮と会社を行き来する同じサイクルが苦手な性格だったんです。


 それとお笑いをやりたい気持ちがずっと残っていました。そもそも学生時代にお笑いを諦めた理由が、コンビを組む予定だった幼馴染みと結局は組めなくなったこと。僕は「お笑いは2人でやるもの」とずっと思っていたので。


 でも、サラリーマン時代にバカリズムさんや劇団ひとりさんのネタを見た時に「ひとりでもストーリー性がある面白いコントができるんだ!」と衝撃を受けて。「自分もピンで芸人を目指そう」と決めてサラリーマンを辞めました。ターニングポイントとなった瞬間ですかね。


 母親は泣きましたよ。

島根から埼玉に行き、大学に通い始めた頃に「大学生じゃなくて芸人になりたい」と一度は電話で告げていましたから。その時は止められたし、コンビも組めずに断念。


 今度は大学院まで出て就職したのに10カ月後に「会社辞めてやっぱり芸人になる」と伝えたら、その瞬間に泣き出しました。


「あんたなんかがかぶり物して人前に出たって誰も笑ってくれないから」とか延々と叱られたけど、僕は一言もかぶり物したいとか言ってない(笑)。泣きながら止められたけど、僕の気は変わらなかった。その時で27歳くらいで、芸人を目指すにはギリギリの年齢だと思いましたから。


■バカリズムの評価に救われた


 ──ピン芸人としてR-1決勝に2016年から2020年の5年連続、芸歴制限ができた3年間はエントリーできず、制限がなくなった昨年と今年にまた決勝進出しました。一番印象に残っている年は?


 一番を選ぶのは難しいんですが、6回目の去年かもしれません。1本目のファーストステージの段階では1位だったんですが、それまでの5回はウケた手応えがなく、苦手意識ができてずっと引っかかっていた。


 ですが、昨年はしっかりウケた感覚が持てて苦手意識を払拭でき、自分の成長も感じられてうれしかったから、一番印象に残ってます。セカンドステージに1位通過した時は「今年は俺の年か」と(笑)。優勝すると確信しました(※結果は3位)。


 ──今年は「7度目の正直」と言われましたね。


 ネタの手応えが昨年ほどなくて、点数も昨年と比べて伸びなかった。結果は4位なんですけど、自分がサラリーマンを辞めて芸人になろうと決めたきっかけのバカリズムさんの点が一番高くて救われましたし、メチャクチャうれしかった。音も映像も使ってないので派手さはないけど、身一つでコントをやる自分らしい、いいネタができたと思っているんです。



芸人は食えないか、お金持ちになれるか2択の職業ではなかった

 ──2018年にお聞きした際はファミレスでバイトしていたというお話でしたが。


 その頃がバイトしていた最後で、その後は芸人だけで生活できています。たまたまこの前、そのファミレスのある道を通ったら店がなくなっていて駐車場になっていて、時の流れを感じました。


 生活できるようになったことはすごくありがたいんですが、思っていたのとはなんか違うなと感じましたね。お笑いを始める前のイメージだと、芸人は食えない時代はあれど、食えるようになったら月に100万とか稼ぐ売れっ子になれるんだと思っていましたから。


「食えないか、お金持ちになれるか」の2択の職業だと。でも、実際はやっと生活できるところから緩やかに収入が増えるという、サラリーマンのような昇給の仕方でした(笑)。僕がそこまで売れなくて中途半端な位置だからなんですけど「思っていた芸人のイメージとは違うな」と。

意外と現実的な暮らし方。安定しているのはうれしいですよ。


 ──今年の目標はありますか。


 6月に単独ライブを行うんですが、今後は全国でやりたい。まだ東京でしかやったことがないですから。


 それとバラエティーでは寝起きドッキリの仕掛け人をやりたい。昔はスターのドッキリ番組がありましたよね。10年前までは寝起きドッキリコーナーもほそぼそと存在していた気がするんです。僕はイジリー岡田さんがアイドルの泊まっている部屋に行き、アイドルが寝る前に使ったかもしれない歯ブラシに顔を近づけたりとか好きだったんですよ。ああいうバカバカしいことをやってみたい気持ちもあります。時代的にかなり難しいでしょうけど、でも、「ルシファーならやってもいいよね」と言われるようになれたらうれしいです。


 R-1は来年に8回目を目指して頑張りたい。

決勝に行けた時のうれしさが年々減ってきたというか、うれしさより「ああ、よかった」とホッとする気持ちが大部分なんです。周りも驚きがなくなっていますし。喜びというご褒美がなくなってきた分、しんどくなっている。でも、たぶん来年も目指すと思います。


(聞き手=松野大介)


▽本名・吉岡大輔(よしおか・だいすけ) 1979年10月生まれ、島根県出身。東京電機大学大学院修了後、サラリーマンを経て2008年から芸人活動。R-1グランプリに7回出場。バラエティーなどで活躍中。単独ライブ「Re」 6月20日&21日(中目黒キンケロ・シアター)。詳細はマセキ芸能社HP。


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