春ドラマは恋愛ものがずらりそろって、「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系)などは高く評価されているけれど、出色なのはNHK連続テレビ小説「あんぱん」じゃないか。漫画家・やなせたかしと暢の夫婦をモデルにした物語だが、もどかしい初恋、片思いの切なさ、失恋、死別、すれ違い、会えぬつらさ、甘美と、恋愛ドラマのお約束をてんこ盛りにした王道である。
「ヒロインの朝田のぶ(今田美桜)は意地っ張りで、柳井嵩(北村匠海)に『好きだ』と言い出せないまま別の男性と結婚してしまったり、妹の蘭子(河合優実)の下駄の鼻緒が切れたら、石工の原豪(細田佳央太)が肩につかまらせて、自分の腰手ぬぐいをピッと裂いて直してやったりとか、“これぞ恋!”というエピソードが次々と描かれ、朝からうれしくなったり、泣けたり……。『あんぱん』がヒットしているのは、実は恋愛ドラマでもあるからでしょうね」(放送作家)
鼻緒・手ぬぐいシーンは、いまなら波打ち際の追いかけっこや転校初日に廊下で衝突などと同様、「この2人、恋人同士になるんだな」と予感させるメッセージで、昔からチャンバラや「三四郎」などの映画・ドラマにしばしば登場してきた胸キュンの定番だ。このあたり、年配の朝ドラファンも喜ばせようという仕掛けは憎い。
で、「あんぱん」のそれぞれの恋愛模様はこれからどうなるのだろう。のぶは嵩と再婚するわけだから、再び恋が始まるのだが、いまはまだ大型貨物船の船員・若松次郎(中島歩)の妻なので、出征した嵩とは音信や交流はないはず。はたしてどこでどう再会するのか。そして、2人は空白の年月を埋めることができるのか。おそらく嵩は相変わらず優柔不断で煮え切らないのだろう。ああ、イライラする。
「嵩の親友の辛島健太郎(高橋文哉)に召集令状が来て、別れの時にひしと抱き合ったりして、『ええ、ボーイズラブもあるの』って驚きでした。中園ミホさんの脚本、お見事というほかないですね」(放送作家)
しばらくは「戦争編」なので、色恋はなしになりそうだが、気になるのは蘭子だ。豪の戦死から立ち直って、髪も短くして郵便局ではつらつと働いている。
(コラムニスト・海原かみな)