【桧山珠美 あれもこれも言わせて】


 春ドラマもそろそろ終盤に。3日、最終回を迎えたのがTBS系火曜ドラマ「対岸の家事~これが、私の生きる道!」。


 いろんな立場から子育てママの悩みを描き、若い視聴者の共感も多い作品だったが、最終回で目を引いたのは主人公・詩穂(多部未華子)の父を演じた緒形直人(57)。


 仕事人間で家のことはすべて妻に任せきり。娘が中学の時に妻を亡くすが、それ以降も家事はすべて娘に丸投げ。それがいかに大変なことか理解しようともせず、娘に見限られ、絶縁状態になっている父。


 最終回では娘が家出した後、後悔と反省の中、自分で家事をやってみてその大変さに初めて気づいた父が家族の思い出の料理、手作りコロッケを振る舞い、わだかまりが氷解していくシーンに涙があふれた。


 緒形は朝ドラ「おむすび」で妻に先立たれ、震災で一人娘を亡くし、心に傷を抱えた偏屈な靴職人を演じ、“浅ドラ”と揶揄もされた、見どころの少ないドラマの中で異彩を放っていた。


 昨年、TBS系「アンチヒーロー」では冤罪で死刑判決を受け、長年、獄中で過ごしている男の絶望を見事に体現した。


 若い頃から演技力には定評があり、1992年にNHK大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」で主人公の信長を務めた。親子2代にわたって大河の主役を務めたのは緒形拳・直人親子だけだ。年齢を重ね、父に似てきたとの声もよく聞かれる。偶然にも、どれも幸薄い役どころがぴったりハマった。


「対岸の家事」でも緒形の芝居に何度も泣かされた。

見る人の感情を揺さぶることにかけてピカイチなのは父・緒形拳のDNAか。



中井貴一は唯一無二の存在

 名優のDNAを受け継いだ俳優には「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系)の中井貴一(63)もいる。父・佐田啓二は戦後日本の映画界を代表する名優であり、松竹映画の黄金期を支えた銀幕の大スター。37歳の若さで自動車事故で亡くなり、その時貴一はわずか2歳半。シリアスな演技派も飄々としたコミカルな役柄もお手のもの。唯一無二の存在感で視聴者を魅了する。


 佐藤浩市(64)もいる。最近、エラく老けていて驚いた。中井と同年代なのにあまりにも老け過ぎでなにかの役作りか。父の三国連太郎は役への執念は凄まじく、映画「異母兄弟」では上下の歯を10本抜いたという逸話があるほど。


 後年は「釣りバカ」のスーさんとして親しみある役も演じたが、私が子供の頃、百恵ちゃんのドラマで怖い父親を演じていて、その迫力で見るのをやめたほど。


 ちなみに孫の寛一郎は大河「べらぼう」で富本節の2代目太夫、富本豊志太夫を演じ、評判がよかった。

三国、佐藤と受け継がれたDNAのたまものかも。


 大物の息子がしっかりDNAを受け継いで物語を面白くしてくれているのはありがたい。


(桧山珠美/コラムニスト)


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