「国益を損ねることはない」──。日米関税交渉を巡り、そう繰り返してきた石破首相。

カナダ西部のカナナスキスで開かれるG7サミット(現地時間16、17日)に出席するため、15日夜、政府専用機で飛び立った。サミットに合わせて開催予定の日米首脳会談が焦点のひとつだが、トランプ米大統領への直談判は早くも「敗色濃厚」だ。


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 石破首相が全幅の信頼を寄せる交渉担当の赤沢経済再生相は13日の日米両首脳の電話協議後、米ワシントンで4週連続、通算6回目の閣僚級協議を実施。ラトニック商務長官と約70分間、ベッセント財務長官とは約45分間会談し、終了後は記者団に「非常に突っ込んだやりとりを行い、合意の可能性を探った」と胸を張った。


 一方、G7での日米首脳会談で合意に至るかどうかについては「予断を持って話すことは控える」とけむに巻き、トランプ関税の全廃要求に関しては「強く申し入れた」という従来の主張から一転、明言を避けた。10日の閣議後会見で語っていた「(合意の)道筋は五里霧中」との認識から何らかの進展があった様子はうかがえず、「撤廃」よりもむしろ「引き下げ」を求める戦略に転換した可能性がある。


 赤沢氏は交渉の詳細を明らかにしないが、自身のXでは〈ハワード・ラトニック商務長官とはお互いを「ハワード」、「リオ」と呼び合う仲に!〉と大ハシャギ。交渉相手との親密アピールにいそしんでいるようでは、最大の争点である自動車関税の先行きも思いやられる。


 日本側は「自動車の市場開放」を求めるトランプ大統領に対し、輸入車への審査を簡素化する「自動車特別取扱制度」(PHP)の対象台数の引き上げや米国産の日本車の逆輸入などを提案してきた。しかし、米国側の食いつきはイマイチ。赤沢氏がガキの使いよろしく“アメリカ詣で”を重ねてきたのに、トランプ大統領は自動車関税について「近い将来、(25%から)引き上げるかもしれない」とまで言い出した。



専門家も相次ぎ悲観的に見方

 関税交渉の行く末に、専門家も悲観的だ。


 15日のNHK「日曜討論」で、同志社大教授の三牧聖子氏(米政治・外交)は「撤廃は正直難しいのではないか」「じりじりと(撤廃の)可能性が閉ざされていっているような状況」と指摘。元駐米大使の藤崎一郎氏も「ウィンウィンはなかなか難しい」「(交渉結果に)あまり大きな期待を持ってはいけないのではないか」との見解を示した。


 もはや首脳同士の直接交渉の前から“勝負あった”の雰囲気が漂っている。


「交渉を経ても恐らく自動車関税は25%のままでしょう。トランプ氏が見直すとすれば、米国内の自動車価格が上がるなど、実害が生じてからではないか。例えば米フォードは定価から値下げして販売していますが、日本車が値上がりすれば、値下げする必要はなくなる。そうなるとトランプ信者も騒ぎ始めるでしょうし、支持者から突き上げをくらえばトランプ氏も関税見直しに舵を切らざるを得なくなると考えられます。いずれにせよ、交渉自体にあまり期待はできません」(経済ジャーナリスト・井上学氏)


 安倍政権時代の日米貿易協定で約束した日本車への「関税ゼロ」はどこへやら。理不尽なトランプ大統領に、石破首相たちは右往左往させられているだけだ。


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 日本の「交渉役」に抜擢された、石破首相の腹心、赤沢亮正経済再生担当大臣はどんな人物なのか。●関連記事【もっと読む】『トランプ関税「交渉役」に大抜擢…石破首相の腹心こと赤沢亮正経済再生相の“ホントの実力”』で詳しく報じている。


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