【碓井広義 テレビ 見るべきものは!!】


 14日にNHK-BSで放送されたのが、生田絵梨花主演「天城越え」だ。


 昭和31年、望月次郎(萩原聖人)は小さな印刷会社を営んでいた。

ある日、老年の田島刑事(岸谷五朗)から過去の捜査資料の印刷を頼まれる。


 事件が起きたのは大正15年。天城峠で男の死体が発見される。名前も不明の流れ者だった。当時、現場付近には遊女のハナ(生田)と14歳の少年がいた。田島たちはハナの犯行を疑い……。


 原作は松本清張。これまで何度か映像化されてきた。ドラマでヒロインを演じたのが大谷直子、田中美佐子。映画は田中裕子だ。


 生真面目な表情が印象的な大谷のハナ。明るさが切なさを生んだ田中美佐子のハナ。

そして田中裕子は可憐さと妖艶さを併せ持つハナを見事に具現化していた。


 そんな諸先輩に挑んだという意味で今回の生田は大健闘だろう。ハナの持つ心根の優しさも、運命を受け入れようとする諦念も見る側に伝わってきた。現在の生田が全力を出し切っていた。


 本作で残念だったのは設定を大正15年の3月としていたことだ。スケジュールの問題かもしれないが、原作も他の映像作品も6月末である。ハナが峠を「裸足」で越える姿も、少年が一夜を過ごす「氷室」も、初夏だからこそ生きてくる。


 清張の原作は短編だ。読む側には想像する余地があり、映像化も制作陣の腕が試される。


(碓井広義/メディア文化評論家)


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