ある事件を、それに関わった登場人物それぞれの視点から見ていくことで、事件の謎がパズルのピースをはめ込むように明かされていく。堀江慶監督による痛快なサスペンス、「フェイクアウト!」が6月20日から公開中だ。
主人公は借金を返済するために、IT企業の機密データを100万円で持ち出すことを請け負った高島誠人。彼は持ち出したデータが、超高精度のAI株価予想プログラムだと気づいて、報酬を吊り上げる。彼に仕事を依頼した桝井は、激怒して誠人の妹・由衣を誘拐。さらに誠人の恋人・清美もこの件に絡んできて、誠人を中心にデータを巡るだまし合いが始まるというもの。
はじめは誠人の視点でストーリーが進行するが桝井とのデータの取引現場でアクシデントが勃発。ここで誠人がデータを取得する前に時間が戻り、別の人物の目から同じ状況を見つめていく展開になる。大きくは3つの視点から出来事が描かれるクライム・エンターテインメントだが、誠人の視点から見ると巻き込まれ型のサスペンス、別の人物から見れば詐欺師まがいのコンゲーム、ある人物から見れば復讐が絡んだ狙撃アクションと、視点が変わるたびに作品そのものの見え方が変化していくのが面白い。
また1人の視点から描くと見ていて引っかかる謎が、視点が変わると全体像が分かってきて、解明されていくのも楽しい。企画・脚本の片山直樹は、構想期間に4年を費やしオリジナル脚本を書き上げたというが、計算された時間軸の流れと人物配置が見事にはまっている。
“どんでん返し”の名手とうたわれた内田けんじ監督
こういう複数の視点から描くサスペンスは、自ら脚本も書いた「運命じゃない人」(05年)、「アフタースクール」(08年)、「鍵泥棒のメソッド」(12年)などの、内田けんじ監督が得意としていた。彼の監督作は国内外で高い評価を得て、その映画は韓国や中国でリメークもされている。ほんの脇役と思っていた人物が、視点が変わるとキーパーソンになるなど、緻密に構成された脚本によって、彼は“どんでん返し”の名手とうたわれた。
純朴で恋人に一途な誠人を演じるのは、これが映画初主演、プロサッカー選手の三浦知良と設楽りさ子の長男の三浦獠太(27)。そして作品の中盤までヒロインと思えないゴスロリファッションのキャラを演じているのが浅川梨奈(26)とニューカマー的存在。しかし浅川と絡む裏社会に通じた男を個性派俳優・矢柴俊博が飄々と演じていい味を出しているし、誠人に付きまとう冷酷な借金取りをNON STYLEの石田明がクールに演じ、脇のキャストはバラエティーに富んでいる。
20日の公開当初は、関東5館、関西2館で上映予定だったが、現在は関東圏で20館のほか、全国42館に拡大。「カメラを止めるな!」「侍タイムスリッパー」に続く“大化け”作品になりつつある。「侍──」は全国140館以上、インディーズ作品にして興行収入2億円超え。同作も観客の反響が気になる一本である。
(金澤誠/映画ライター)