【芸能界クロスロード】
歌舞伎の世界を描いた映画「国宝」が異例のロングヒットを続けている。
さまざまな要因はあるが、口コミの効果をまざまざと見せつけた映画である。
公開前の「国宝」は「歌舞伎の世界の話」と決して反応はよくなかった。伝統芸能とはいえ、いまだに歌舞伎の敷居は高い。多くの人には馴染みの薄い世界。映画館に足を運ぶか懸念されていたが、蓋を開ければ、瞬く間に「面白い」と評判は広がった。見た人から伝言のように今も伝わり続けている。
ヒットした映画には必ず口コミ効果がある。顕著な例が2018年公開の「カメラを止めるな!」。「低予算・無名俳優・単館上映」、おまけに宣伝もなし。ヒットする要素もなかったが、口コミだけで空前のヒットになった。2年前の「ゴジラ-1.0」も宣伝以上に効果的だったのが「面白い」という口コミだった。
同じ口コミでも「国宝」は伝える言葉が「面白い」以外に「絶対見たほうがいい。
「歌舞伎の舞台を見たことなくても、歌舞伎の世界がわかり知るチャンス。本物の舞台を見たくなる」というような話が伝わり、関心を高めた。
実力派俳優による歌舞伎界の舞台裏の迫力あるシーンの連続に観客は、3時間の長編を忘れ、スクリーンにクギ付けになった。
見終わった人は、打ちのめされたようにしばし放心状態のように見えた。
表があれば裏がある──。裏舞台をテーマにした作品は関心を呼ぶことを実証した作品でもあった。
■まさに「芸は身を助ける」
皮肉にも「国宝」に主演した吉沢亮(写真)も表と裏で話題を集めた俳優。昨年12月、酒に酔い自身のマンションで隣の部屋に侵入。警視庁から任意で事情を聴かれたが、隣人との間で示談が成立。不起訴になったが、CMの終了、主演映画「ババンババンバンバンパイア」の公開は延期になった(現在上映中)。
「国宝級イケメン俳優」と呼ばれた吉沢の裏の顔はダメージとなり、仕事への影響も心配されていたが、3カ月の謹慎を経て復帰。
1年半近く取り組んだ撮影。女形の歌舞伎役者になり切った演技は「凄い役者」と絶賛されている。
「芸は身を助ける」とは言うが、泥酔騒動などすべてを吹き飛ばし俳優としての評価を上げた。これが大河俳優の底力かもしれない。
吉沢はライダー出身俳優。朝ドラ「なつぞら」でヒロインの幼馴染み役で注目を浴びた。その後も映画「キングダム」など話題作に出演。2021年の大河「青天を衝け」で渋沢栄一を演じた。
「1年近く取り組む大河は俳優として確実に成長させる。映画監督も大河の演技は必ず参考にする。
吉沢とライバル関係になる同じ女形歌舞伎俳優を演じたのも、放送中の大河「べらぼう」で蔦屋重三郎を務める横浜流星。新旧の大河俳優の共演もヒットの一因だろう。
映画の素晴らしさを改めて教えてくれた作品になった。
(二田一比古/ジャーナリスト)