元人気タレントの中居正広氏(52)を巡る元女性アナウンサーとのトラブルは、フジテレビに未曽有の危機をもたらした。人権侵害と企業ガバナンス不全が問われ、ほとんどのスポンサーが撤退。

社長と会長が辞任するという前代未聞のスキャンダルに発展した。2024年度決算では、前年度36億円の黒字から一転、328億円の巨額赤字を計上。この「中居スキャンダル」によるCM差し止めが、その主な原因だった。先月25日の株主総会後には、「検証 フジテレビ問題~反省と再生・改革~」を放送(今月6日)。その内容にはさまざまな評価があるが、かつてテレビ界を牽引した同局は果たして復活を遂げられるのか。日本テレビ編成部を経て、現在、大和大学社会学部教授の岡田五知信氏が解説する。


■優良コンテンツと配信分野での躍進


「フジテレビは復活するか」


 その答えは、ずばり「イエス」である。懸念されていたスポンサー撤退問題だが、取材によれば、この秋には9割方のスポンサーが復帰する見込みだ。すでに大和ハウス工業、サントリーホールディングス、ロッテが7月からのCM出稿を再開している。これは、フジテレビだけにCMを出稿しないことが、かえって商品のPR効果を低下させるという判断が働いているためだ。


 また、フジテレビを下支えしているのは、ドラマ、映画、バラエティーといった優良IP(知的財産)の豊富さだ。実際に、中居問題以降も同局の株価は急落するどころか、高止まりしている。

投資家は、フジテレビが持つ豊富なコンテンツの価値に注目したと言える。


 具体的なコンテンツとしては、実写邦画興行収入歴代1位を記録した映画「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」をはじめ、「HERO」「翔んで埼玉」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」などが挙げられる。ドラマも、「やまとなでしこ」「東京ラブストーリー」「ひとつ屋根の下」「ガリレオ」「古畑任三郎」といった名作が並ぶ。バラエティー番組も、「千鳥の鬼レンチャン」「さんまのお笑い向上委員会」「新しいカギ」など、幅広いコンテンツを抱えている。



「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却

 さらに注目すべきは、2024年7月にTVer・FODのAVOD(広告付き無料配信)が、民放局初となる月間「1億」再生を突破したことだ。これは、現在の地上波視聴率こそ苦戦しているものの、フジテレビが長年にわたって構築してきた番組制作力とサプライチェーンが健全に機能していることを証明している。多くのスポンサーも、長期的に見れば今回の中居問題によって出稿を止めることは企業にとってマイナスになると、冷静に判断しているのだ。


 こうした中、フジテレビは社是とも言われた「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却を宣言した。編成バラエティー部門を解体し、再編すると発表した。加えて、タレントありきの番組企画採用を見直すことを明言した。「中居問題」の根底には、近すぎるタレントとの距離や癒着があることは明白だからだ。他局からすれば「今さら感」もある話かもしれないが、2012年から番組制作体制が旧態依然のままで、馴れ合い状態が続いていた同局にしてみれば、これこそが「身を切る」宣言であることはうかがえる。

これを現実のものにできるかが今後の復活の条件となるだろう。


 フジテレビは、再び視聴者の信頼を取り戻すことができるのか。過去の過ちを真摯に受け止め、強みであるコンテンツ力を最大限に生かして復活に懸けるフジテレビの動向に注目が集まる。


▽岡田五知信(おかだ・さちのぶ) 大和大学社会学部社会学科教授。日本テレビ放送網㈱コンテンツ戦略本部コンテンツ戦略局総合編成センター戦略Div.番組プロデューサーを経て現職。専門はコンテンツビジネス、メディア産業、放送ジャーナリズム、韓国コンテンツなど。


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