【増田俊也 口述クロニクル】#35


 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇ 


増田「先鋭的な写真というと、例えば先ほどの日本刀の写真もそうですよね」


加納「そうだね。あの切っ先の鋭さは恐怖なんだよ。その恐怖をどうやって表現するか。やっぱり視覚的にも感覚的にも『なんだこれ!』というようなものが欲しい。例えば、俺のヌード写真なんかページ開いて『やばいこれ』ってすぐページを閉じちゃうよな」


増田「まわりを意識して閉じてしまうような」


加納「うん。蒼白になって閉じてしまうような。それくらいの写真を撮ろうと、意識してガンガンいった。お上品な綺麗なヌード撮る気はさらさらなかった。その時その時の社会との関係の中で、1枚のスチール写真のメッセージ力で時代に挑戦していきたかった。とにかく俺は言い訳が大嫌いなんだ」


増田「言い訳というと、先ほども仰っていた映画や小説のごとくということですね。つまりグダグダグダグダと、酔っ払いの戯れ言に聞こえる感じですか?」


加納「まさに酔っ払いだ。

いい加減にしろと思う」


増田「スチール写真で思いきり斬りつけたいと」


加納「映画や小説はさ、恋愛のありようとか、親子関係であるとか、社会状況であるとか、組織の問題であるとか、いろんな問題意識を提示するんだけども『そんなこと俺は知ってるよ』とか『そんな風に俺は判断しないよ』とか、なんて言うのか、とにかくかったるい。スチール写真1枚の方がシャープだし、斬れ味が違う。自分を表現するのに、自分の鋭利な部分、それをやっぱり感じてほしいし、判断してほしいし」


増田「日本刀でバサッと一発で袈裟斬りにしちゃうような感じですか」


加納「袈裟切りでも円月殺法でもなんでもいいんだけど、やっぱり日本刀で一刀のもとに、一閃するというのかな。目にもとまらない、なんか光が走ったなというぐらいの感じが俺は好きだ。だから動画でアクションやったりチャンバラでやりあったり、恋のトークやったり、そういうのがかったるい。繰り返すけど、俺、表現っていうのは説明はするべきじゃないと思うわけ」


増田「現在取り組んでおられる絵はどうなんでしょうか。Photoshopも使ったデジタルアートの」


加納「絵に関していえば、あれは1番古典的なやり方だ。写真で俺がやってきた鋭さというか、斬れ度というか、そういうものを絵の方にどう持ち込んだらいいかっていうのを、色々考えてる」


増田「それは概ねできてきたんですか」



完成というものを信じない

加納「できたとも言えるし、まだまだともいえる。俺はずっと成長していきたいから完成というのを信じない」


増田「今でもバリバリの現役の表現者ですね。83歳になった今でそんな感じなわけですから、ニューヨークから戻ってきた27歳のときにはもっと凄かったわけですよね。上昇欲もありますし」


加納「もちろん。だからブレイクした高揚感もあったけど、この高波に負けない実力を培い続ける努力が必要だと、内心では決意新たにした」


増田「努力を続けたわけですね」


加納「人に言えないくらい」


増田「感性も磨き続けたと」


加納「そうだね」


増田「追う側から追われる側になるわけですからね」


加納「アクセル踏みっぱなしになった」


増田「忙しすぎて疲れてしまうようなことは?」


加納「いや。

それより俺はもっときついことになっちまってね」


増田「きついこと?」


加納「ニューヨークに戻りたいのに忙しすぎて戻れないっていうジレンマに焦りはじめた」


(第36回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。

現在、拓殖大学客員教授。


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