〈制度より 働き方は 風土から〉──。2018年の第31回「第一生命サラリーマン川柳コンクール」のベスト100にランクインした一句だ。

「働き方改革」は制度整備か企業風土の改善か、どちらが先かは議論の余地はあれど、改めて味わい深い。「女性初の総理」となる公算が大きい自民党の高市新総裁が、働かせ放題の風土をつくろうとしているからだ。


 高市氏は新総裁に選ばれた4日、自民党本部で開かれた両院議員総会で所属議員を前に「全員に馬車馬のように働いてもらう」と言い放ち、「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てる。働いて働いて働いて働いて、働いてまいります」と強調した。あまりに時代錯誤な発言は今も波紋を広げている。


 高市発言を巡り、過労死遺族や労働法制の整備に取り組む法曹団体から批判が続出。


 日本労働弁護団は6日、〈ワークライフバランスの必要性及び重要性を前提とした政治を求める談話〉を発表し、こう指弾した。


〈長時間労働の是正、過労死・過労自死の撲滅、仕事と育児・介護の両立支援の促進といった、国民にとっての喫緊の課題を全く考慮せず、むしろ、その実現を阻む影響を生ぜしめる〉


 一方、SNS上は〈リーダーとしての決意と覚悟の言葉〉〈国民に強いている訳ではない〉など肯定的な意見も飛び交う。石破首相も「国家国民のために、次の時代のために(という)決意の表れだと思っております」と擁護した。しかし、個人的な決意表明にとどまるかは大いに疑問だ。


 実際、高市氏は総裁選公約に〈労働時間規制につき、心身の健康維持と従業者の選択を前提に緩和します〉と明確に掲げている。留保付きとはいえ、これまで国が「働き方改革」として推進してきた残業時間の上限規制とは真逆の考えがにじむ。

現行は月45時間、年360時間以内が時間外・休日労働の上限だが、厚労省の労働政策審議会では、規制強化を求める労働者側と慎重派の使用者側の綱引きが続いている。



残業地獄へまっしぐら

 使用者側の主張は、高市氏の訴える緩和とほぼ同じ。〈労働者の健康確保〉を前提にしつつ、より働きたい、より稼ぎたいといった労働者のニーズもあるとして、〈シンプルで分かりやすく柔軟な労働時間法制を検討することが必要〉と訴えている。日本労働弁護団幹事長の佐々木亮弁護士が言う。


「労働者の健康への配慮は当然として、規制緩和や撤廃の方向に進む懸念が拭えません。労政審では労使同意を前提として、労働基準法の運用見直しが議論されており、使用者側からすれば規制の適用除外を進めたい。高市さんも使用者側の思惑を分かった上で、わざわざ『ワークライフバランスを捨てる』と発言したのではないか。経営者の方を中心に高市さんの発言に賛同する人もいますが、『自分はこれだけ頑張った』との主張は、長時間労働でも大丈夫だったという生存者バイアスに過ぎません」


 高市新政権になれば、危険な「働かせ改革」で残業地獄へ一直線。高市氏は「未来への不安をなんとか希望と夢に変えていきたい」と意気込むが、いや、絶望しかない。


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 高市政権には早くも不穏な雰囲気が漂う。【もっと読む】【さらに読む】で詳報している。


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