松本清張の小説「十万分の一の偶然」は、1980年に週刊文春に連載され、翌81年に刊行された。1枚の報道写真を巡り、その陰に潜む恐ろしい犯罪を鮮やかに描き出した傑作である。

⒞東映
主演は田村正和が務め、約1年9カ月ぶりの俳優復帰となったが、田村自身が本作の企画を大いに気に入って出演を決めたという。男手一つで育てた最愛の娘を高速道路の玉突き事故で亡くした父親・山内正平(田村正和)が、事故の瞬間を偶然写した報道写真から事故の原因に疑念を抱き、執念で真相を突き止めていくストーリーだ。警察官でも裁判官でもなく、被害者遺族である主人公が事件を追うところがポイント。ちなみに、原作小説では主人公は事故死した山内明子の恋人という設定だが、本作は田村が主演ということで父親に変更。明子の婚約者・塚本暁(小泉孝太郎)や正平の妹・山内恵子(岸本加世子)という原作にないキャラクターを登場させている。
■最愛の娘が事故死した現場の報道写真に秘められた謎とは...

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物語は、モンゴルで取材中のルポライター・山内正平(田村)に、一人娘・明子(中谷美紀)の婚約者・塚本暁(小泉孝太郎)から明子が事故死したという悲報が届く場面で幕を開ける。明子は入院中の叔母・恵子(岸本加世子)を見舞うために沼津へ向かう途中、東名高速道路の玉突き事故に巻き込まれて死亡したという。
帰国の途に就いた正平は、機内で隣席の男性から、娘の事故現場を撮影した写真が掲載された雑誌を見せられる。大炎上する凄惨な現場を写したその1枚には、「激突」というタイトルが付けられていた。山鹿恭一(高嶋政伸(※「高」は正しくは「はしご高」)は~)というアマチュアカメラマンが撮影したもので、「ニュース写真年間最優秀賞」を受賞したという。
■田村の迫真の演技により重厚な人間ドラマに仕上がった

本作における田村の演技は、まさにプロフェッショナルそのもの。田村ありきの企画であり、原作の設定を変更したのも田村に合わせたものだと思われるが、結果的にそれが功を奏したと言える。娘への溢れる愛情と真相を追求する信念が滲み出る演技は、抑制しているだけに却って迫力が凄まじい。当時の田村は「この作品は単なる謎解きドラマではなく、亡くなった娘の供養になると信じて"真相"を突き止めていく"父親の執念"を描いている人間ドラマ。オファーをもらい、その徹底した人物描写と物語の構成に面白さを感じた」とコメントしている。
その言葉の通り、田村は「父の執念」を圧巻の演技で表現。
松本清張らしい重厚な社会派ミステリーにして、深い人間ドラマとしても見応えのある1作。そんな完成度抜群のドラマ「十万分の一の偶然」。私生活を決して感じさせず、生涯を"プロフェッショナル俳優"として生き抜いた、田村正和の演技の凄みをぜひかみしめてほしい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
ドラマスペシャル 十万分の一の偶然
放送日時:2025年6月14日(土)19:00~
放送チャンネル:テレ朝チャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合があります