満島ひかり、綾野剛、小林薫という実力派俳優たちの共演で、瀬戸内寂聴の小説を映画化したのが2013年公開の「夏の終り」だ。
物語の舞台は昭和30年代。
■三者三様の演技で表現される、男女の心の機微

(C)2012年 映画「夏の終り」製作委員会
満島が演じるのは、2人の男の間で揺れ動く知子。物語序盤の彼女は、よく食べ、酒を飲み、煙草を吸う、奔放な女性に映る。慎吾が病気の知子を置いて彼女の家を後にした日には、電話で涼太を呼び出して家に招き、その後、慎吾に会った時に「いいことしてやった。涼太くんに会ってやった。だってつまんなかったんだもん」と、いたずらっぽく笑う。2人の男に挟まれた状況を楽しんでいるかのようにも見える。そんな知子を演じる満島は色気を滲ませながらも、同時に彼女の持ち味であるチャーミングさも溢れており、知子という女性を魅力たっぷりに映し出している。
そして、物語が進むにつれて、慎吾が家を空けた時に寂し気な表情を見せたり、慎吾の妻に嫉妬する姿を見せたり、かと思えば涼太に心を動かされる瞬間もあったり...と、知子が恋心に翻弄され、余裕がなくなっていくさまも繊細に表現。
そして、知子が恋に落ちた2人の男性を演じる綾野と小林の演技も素晴らしい。

(C)2012年 映画「夏の終り」製作委員会
綾野が演じる涼太には、"年下の男"だからこその真っすぐな恋心と、若さ故の激情がある。知子に呼び出されて彼女の家に急いで足を運び、再会を果たした時の微笑みは健気さを感じさせる。知子に向ける真っすぐな好意や笑顔が魅力的だ。しかし、知子と慎吾の関係に嫉妬心を抱くようになった時には、激しい感情を表に出す。自身の怒りや虚しさを知子にぶつけるように語り、どっちつかずな彼女のことを責める。そうかと思えば、酒に酔い、電話口で泣きつくように知子に縋ったりと、自己中心的ともいえる愛情表現を見せる一面も。感情を前面に出した綾野の表現から、涼太が抱く"報われない恋心"への焦燥感や苛立ちが伝わってくる。
そんな涼太と対照的に映るのが、"年上の男"の落ち着きを感じさせる慎吾だ。知子の不在中に涼太が彼女を訪ねてきた時も、慎吾は笑い話のように「木下くんが来たよ」と知子に教える。
三角関係に苦悩する女性の姿を軸に、彼女の波乱万丈な過去や、人生が動き出そうとする瞬間も描く本作。満島、綾野、小林が三者三様に感情の揺れ動きを映し出した芝居が印象的な、大人の恋愛ドラマに仕上がっている。
文=HOMINIS編集部
放送情報【スカパー!】
夏の終り
放送日時:2025年7月21日(月)5:30~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます