頭脳派×直感派、秩序×混沌。正反対の二人がタッグを組んで事件に挑むバディものは、もはや刑事ドラマの王道設定だ。

だが、フランス発のミステリードラマ「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」は、その枠に収まりきらない。事件解決の爽快感と共に、深い人間ドラマと"多様性"という現代的なテーマを内包した、観る者の心にじわりと沁みてくる作品だ。

注目すべきは、4月23日(水)からミステリーチャンネルで始まるシーズン1~5の一挙放送。特にこれから初めて作品に触れる人にとっては、すべての始まりが描かれたシーズン1こそ絶好の入り口だ。

本作の軸となるのは、犯罪資料局で働くアストリッド・ニールセン。分析のプロで、記録と知識にかけては右に出る者はいない――。彼女は自閉スペクトラム症の特性を持ち、人付き合いや予期せぬ変化が苦手。ルーティンを重んじ、比喩は通じず、音や光に敏感でイヤーマフを手放せない。だが、アストリッドの記憶力と論理的思考は、どんな優秀な刑事よりも事件の核心に迫る。過去の未解決事件と現在のケースを瞬時に結びつけ、誰もが見落とした細部に真実を見出す。彼女が動き出すと、世界がスッと整っていくような、そんな快感がある。

アストリッドをサラ・モーテンセンが熱演!猪突猛進な警視ラファエルと挑む、心揺さぶるフランス発バディ捜査ドラマ「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」

© FRANCE TÉLÉVISIONS - JLA PRODUCTIONS - Be-FILMS - RTBF (Télévision belge) - 2019

そのアストリッドを演じるサラ・モーテンセンの演技は圧巻だ。

彼女が息を吹き込むアストリッドは、単なる"頭脳派キャラ"ではない。自閉スペクトラム症という特性を抱えながら、驚異的な能力を発揮し、人間的な成長を遂げていく複雑な人物像を、モーテンセンは繊細かつリアルに体現している。視線の動き、指先の仕草、立ち居振る舞いなど、すべてが計算され、観る者の心を打つ。アストリッドの真価は、その捜査能力にある。膨大な事件記録を記憶し、関連性を見抜くその力は、彼女にしか持ち得ない"武器"だ。サラは、アストリッドが論理的に思考を組み立てていく過程を、静かながらも強い存在感で演じている。

対するラファエル・コストは、まさに"嵐"のような警視。直感で動き、情に厚く、容疑者にも被害者にも迷わず踏み込んでいくタイプ。時に規則を無視してでも真実を追う彼女は、捜査の現場で誰よりも熱く、そして誰よりも優しい。幽霊が苦手という意外な一面も含めて、人間味にあふれている。そんなラファエルが、たまたま訪れた資料局で出会ったのがアストリッド。彼女の分析に一瞬で目を見張り、捜査への協力を依頼する。

ここから、真逆の二人が"バディ"になっていくプロセスが始まるのだ。

印象的なのは、ラファエルがアストリッドに無理に歩み寄るのではなく、理解しようと努力する姿勢だ。比喩をやめて具体的に話し、アストリッドのペースに合わせる。事件の捜査を通じて、お互いの"違い"を受け入れ、強みとして補い合っていく。たとえば、アストリッドが遺体の傷や資料から"恐怖死"を見抜くシーン。ラファエルがその意見を即座に採用して捜査を軌道修正する。この"信頼"の積み重ねこそが、この作品の一番の見どころだ。

アストリッドをサラ・モーテンセンが熱演!猪突猛進な警視ラファエルと挑む、心揺さぶるフランス発バディ捜査ドラマ「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」

© FRANCE TÉLÉVISIONS - JLA PRODUCTIONS - Be-FILMS - RTBF (Télévision belge) - 2019

シーズン1では、二人の関係が"職務上の協力"から"友情"へとゆっくり変化していく。ラファエルの誕生日に、アストリッドが勇気を出してパーティーに参加しようとしたり、ラファエルがアストリッドの感覚過敏にさりげなく配慮したり......。誰かと心を通わせるということが、どれだけ大変で、どれだけ尊いか。このドラマは、それを事件と共に描いていく。最終話では、アストリッドが連続殺人犯に誘拐されるという衝撃的な展開も。

その時、彼女が残した"ラファエルにしか解けないメッセージ"が、二人の絆の深さを証明してくれる。

「アストリッドとラファエル」が他のミステリードラマと違うのは、単に"謎を解く"だけでなく、"世界の見え方"に多様性があることを教えてくれる点だ。アストリッドのような視点も、ラファエルのような感覚も、どちらも必要不可欠。誰かと違うからといって、社会から外れるわけではない。違うままに、ちゃんと共に生きていける――その希望が、このドラマの根底にある。しかもそれを説教臭くなく、サスペンスと人間ドラマで自然に見せてくれるのだから、見終わったあとにじわっとくる余韻が残るのだ。

アストリッドをサラ・モーテンセンが熱演!猪突猛進な警視ラファエルと挑む、心揺さぶるフランス発バディ捜査ドラマ「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」

© FRANCE TÉLÉVISIONS - JLA PRODUCTIONS - Be-FILMS - RTBF (Télévision belge) - 2019

そしてこの作品が特別である最大の理由は、"多様性"というテーマを、サラの演技を通して見事に描いていることだ。アストリッドの特性は"個性"として描かれ、それを理解しようとする人たちとの関係が、社会の理想像を静かに提示する。異なる視点を持つ者同士が協力し合うことの大切さを、この作品は声高ではなく、自然な物語として伝えてくれる。

「アストリッドとラファエル」は、シーズン1から観てこそ真価がわかる作品だ。二人が出会い、信頼し合い、パートナーになっていく物語。ラストで描かれる"自立"と"決別"の一歩まで含めて、この作品の土台がすべて詰まっている。

いま観れば、シーズン2以降の進化がもっと楽しめるはずだ。アクションでも恋愛でもない、だけどしっかり心が動くバディドラマ。あなたも、きっと彼女たちの"相棒"になりたくなるはずだ。

文=川崎龍也

放送情報【スカパー!】

「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」(シーズン1~5・全41話)
字幕版:2025年4月23日(水)よりスタート 毎日11:00~
チャンネル:ミステリーチャンネル

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