声優・アーティストの青山なぎさが2025年8月6日にMini Album『Roots』をリリースした。約10ヶ月ぶりとなる本作には、配信シングル「時が止まればいいのに」「ヴィクトリア~勝利への扉~」を含む全7曲が収録されており、まさに"青山なぎさのルーツ"が詰まったミニアルバムとなっている。
幼少期にモーニング娘。へ憧れ、クラシックバレエやバンド活動を経て、時代もジャンルも飛び越えて歩んできた青山。この1年、1st LIVE 『KAIHOU』や前作『解放』のリリースを経て、彼女はどんな原点に立ち返り、どんな「Roots」を形にしたのか。
今回のロングインタビューでは、新作『Roots』の制作舞台裏はもちろん、音楽に目覚めたきっかけからこれから挑戦したい未来の音楽像まで、青山の素顔と"音楽の現在地"を、たっぷりと語ってもらった。
──まずは8月6日にリリースされるMini Album『Roots』について、今回の制作の始まりから伺いたいのですが、前作から半年以上空きましたね。どのくらいの時期から動き始めたのでしょうか?
「前作の『解放』をリリースしてから、ざっくりとした話を12月くらいにしていて、実際に本格的にミーティングを始めたのが1月ですね。年末から年始にかけて、『どんなアルバムにしようか』と話し合って、1月の前半にはもう楽曲の選考会議もやっていたので、けっこう早い段階から動いていました。12月には"どういうラインナップの楽曲にするか"を決めて、1月の初めに選曲に入る、という流れでした」
──『Roots』というアルバムのコンセプトは、最初から決まっていたのでしょうか?
「今回は先にタイトルを決めて、『Roots』というコンセプトに合った楽曲を選んでいきました。1stライブが終わって、あらためて『自分はなんで音楽が好きなんだろう』と遡っていった時に、幼い頃から音楽が好きだったことに気づきました。きっかけを辿ると、モーニング娘。さんだったり、その時々で違うアーティストさんが分岐点になっていたので、そういう自分の"分岐点"を引っ張ったアルバムにしたら面白いんじゃないかと。ファンの皆さんに自分のルーツを知ってもらいたい気持ちもあり、今回は『Roots』というタイトルで、原点や軌跡を意識した一作にしたいと思いました」

──Mini Albumのコンセプトにちなんで、青山さんのルーツも聞かせてください。
「最初はモーニング娘。さんが好きだったらしいんですけど、正直その頃は記憶がないんです。家のホームビデオを見ると、父が撮るのが趣味で、子供の頃の映像がいっぱい残っていて......。当時は『もう撮らなくていいよ』って思ってたんですけど、今となってはすごくありがたくて。2歳の頃に、ちゃぶ台の上でモーニング娘。さんの曲を歌って踊っていたらしくて、それを見た母が『この子は歌って踊るのが好きなんだ』と感じてバレエ教室に連れて行ってくれたんです。そしたらもうハマっちゃって、そのままずっと習い続けることになりました」
――モーニング娘。さんが青山さんの原点なんですね
「そうですね。それから2歳の時からいろんなアイドルさんを見始めて、特にPerfumeさんも大好きで、幼なじみ3人で生地屋さんに行って衣装を手作りして、帰ってからそれを着て振り付けをコピーしたりしていましたね。中学生になると今度は洋楽にハマって、YouTubeやニコニコ動画で偶然出会ったGreen DayやOasis、テイラー・スウィフトさんなど、いろんなジャンルを聴き漁りました。ちょうどその頃にONE OK ROCKさんに影響されてギターを始めて、軽音部にも入部しました。そこからアニメやアニソンも大好きになって、放課後はコピーバンドで対バンをしたり、SCANDALさんの楽曲を演奏したりしてましたね」
──今回取材にあたってMini Albumのインタビューを拝見してきたのですが、尾崎豊さんからも影響を受けていると聞いて意外でした
「はい、めちゃくちゃ好きです! でも、両親も兄もあまりハマらなかったみたいで、唯一、中学3年生の時の友達が付き合ってくれて、ライブビューイングを観に制服のまま映画館に行ったこともありました」
──名前が挙がったアーティストを見てもすごくジャンルが幅広いですよね
「自分でも流行の音楽は全部通ってきたかもと思うほど、常にその時代の音楽を吸収してきた実感があります(笑)。
――誰か特定のアーティストがきっかけというわけではなくて、いろんな方から影響を受けてきた感じなんですね
「そうですね。例えば、CMのタイアップソングで偶然耳にしていいなと思った曲を自分で調べて、そのままハマってしまうこともありますし。最近だとInstagramのリールで流れてきた音楽をきっかけに『このバンド、すごくいいじゃん』と思って、そこから聴くようになったり。常にアンテナを張って、最新の音楽情報を集めることが習慣になっています」
──青山さんの作品は前作もそうですが、すごくジャンルの幅が広いなと感じていたので、ルーツをあらためて聞いてすごくしっくりきました。ではアルバムの収録曲について1曲ずつ詳しくお聞きできればと思います。まずはリード曲の「夏の夢」ですが、前作にはなかったとても爽やかで印象的な一曲ですね
「この曲はもうすぐにリード曲にしようと決めていました。リリースが8月ということで、夏フェスや野外イベントで盛り上がれる曲を作りたい、というのが最初にありました。歌詞は高校時代、バレーボール部で過ごした青春を思い出しながら書いています。〈今日がダメでもいい 明日はきっと〉というメッセージは、努力しても必ず報われるとは限らない現実を知った上で、それでも前を向きたい、明日は自分の日かもしれないというポジティブな気持ちを込めました。リリースイベントで披露した時にファンのみなさんが〈Wow wow wow〉のコールを返してくれて、本当に嬉しかったです(笑)。みんなで盛り上がる一曲になりました」

――ちなみに、前作は全曲コンペで選ばれたとのことでしたが今作も?
「今回もコンペで選ばせていただきました。『モントレゾール』という楽曲については、今回"クラシック音楽のサンプリングを取り入れたい"というアイデアを自分から提案させていただきました。
──そんな「モントレゾール」についても聞かせてください
「分かりやすく言うと、サウンド面では3拍子など、バレエでよく使われるリズムや雰囲気を取り入れて、私の過去を音楽で再現できたらと思っていました。具体的には、フリッツ・クライスラーという作曲家の『愛の喜び』というクラシック音楽があるんですが、それを『モントレゾール』の最初の部分でサンプリングとして取り入れています。これは、私がクラシックバレエのレッスンを受けていた時によく使われていた楽曲です」
――「モントレゾール」の日本語訳は「私の宝物」です。このタイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか?
「この曲で"宝物"というテーマにしたのは、私自身が自分のことを書いているというよりも、宝物だったものたち――つまりオルゴールやぬいぐるみ、子供の頃に大事にしていたものたちの気持ちをイメージして歌詞を書いたからなんです。サビの〈私だけひとり取り残されて〉とか〈どこにいても探してる あなたの姿を〉といったフレーズも、幼少期にずっと大切にして遊んでいた宝物が、大人になるにつれて新しいものに目を向けるようになって、だんだん忘れられてしまう。その寂しさや切なさを、"宝物側"の視点から描きたいと思いました」
──「ヴィクトリア~勝利への扉~」はMini Albumに先駆けてリリースされた楽曲です。青山さんの力強い歌声が印象的な一曲ですね
「この曲は前作の制作時に出会って、『絶対に出したい』って温めていた1曲です。王道アニソンへの憧れが強くて、誰が聴いてもアニソンだと思えるような曲にしたいと思っていました。実際に歌ってみると普段の自分とは違う"力強さ"が必要で、歌声も新しい表現を意識しました。すごく特別な曲になっています」

──「OAO」を聴いて、青山さんが本当に多彩な音楽性に果敢に挑戦していることが伝わってきました。これまでの作品と比較しても、今回のアルバムでは特にジャンルや表現の幅が大きく広がっていると感じたのですが、ご自身ではこの楽曲にどのような手応えや意図を持っていますか?
「この楽曲では、初めて作詞のコライト(共作)に挑戦させていただきました。今回、作詞は3人で手がけていて、それ以外の曲はすべて私一人で書いているのですが、この『OAO』だけは、3人で一緒に歌詞を考えていくという新しい方法を取り入れました。
――実際に共同で作業をしてみて、新たに得た発見や学びはありましたか?
「ものすごくありましたね。本当にお二人ともプロの作詞家さんなので、いわゆる"音はめ"が本当に巧みで、聞いていて心地よい言葉や響きを集めるセンスが抜群なんです。この曲は、特にサウンドとして"さらっと聴ける"ことを大事にしていて、歌詞の意味を深く考えずに夜のドライブや掃除をしている時など、ふとした瞬間に流してもらえたら嬉しいなと思っています」
──「時が止まればいいのに」は、一聴すると純愛ソングのようにも響きますが、作品全体を見た時にすごく異質な歌詞だなと感じていて。この楽曲にはどんな意図や物語が込められているのでしょうか?
「デジタル配信としてはすでにリリースしていた曲なんですけど、今回アルバムとして7曲続けて聴いた時に、また違った印象で受け取ってもらえたらいいなと思っていました。この曲はかなり前に書いていたものなのですが、実はアルバムの最後に収録した『余韻』という楽曲と繋がりがあるんです。『時が止まればいいのに』と『余韻』は、もともとMVとセットで完結させることも考えていたんですが、今回はシングルではなくアルバムだからこそ、似た系統や雰囲気の楽曲を"連作"のように続けて収録してみるのも面白いかなと思ったんです。そこで、『時が止まればいいのに』の延長線上にある物語として『余韻』という新たな曲を書いて、2曲の関連性を持たせてみました」
──2作には繋がりがあるんですね
「『余韻』は『時が止まればいいのに』のカップルが別れた後の話を描いています。2番の〈改札前 見えなくなるまで手を振った〉が『余韻』では〈駅の改札前 微かに漂う 君の香り〉とつながっていて、細かなリンクを入れました。一見失恋ソングですが、共依存からの別れや喪失感、新しい一歩への葛藤も込めています。曲順もこの流れで聴くことで、ストーリーがより立体的になるように意識したので、ぜひセットで聴いてもらえると嬉しいですね」
――青山さんは前作でも曲順への強いこだわりが印象的でしたが、曲同士のストーリーの繋がりをあえて強調しなかったのは、理由があるのでしょうか?
「物語として曲を続けていない理由は、今回は『歌詞の中に私のルーツが色濃く出ている曲』と、『サウンド面で自分のルーツを表現している曲』がバラバラに混ざっているからなんです。例えば、『OAO』は、歌詞そのものにはあまり私の過去や経験が反映されていなくて、どちらかというとサウンドや雰囲気――私が中学生や小学生の頃に韓国アイドルに夢中だった時期の空気感をイメージしています。
──「MISSION」は、耳に残る独特の疾走感があって、聴けば聴くほどクセになる一曲だと感じました
「これはどちらかというと大学生の頃の自分をイメージして書いた楽曲なんです。大学に入ってから、私はミュージカルサークルとアカペラサークルの両方に所属していて、アカペラサークルでは、リードボーカルとして主旋律を担当しながら、編曲もしていたんです。既存の楽曲をパソコンでアカペラ用にアレンジし直す作業をずっとやっていて、その時に生まれたコーラスパートのフレーズや表現を、この曲でも歌詞の中に活かしたいと思って作った楽曲ですね」
――歌詞の中に登場する〈どぅわりたらら〉というフレーズも、とても印象的でした
「そうですよね(笑)。日本語ではない不思議な言葉をあえて歌詞に入れてみたんです。こういったフレーズは、実際のアップテンポなアカペラ曲のコーラスではよく使われるものなのですが、譜面を書く時は"どぅ"なら"du"や"do"、"わ"なら"wa"とアルファベットで書くんですね。それを日本語の歌詞にそのまま入れてみたら、意外と面白い響きになることに自分でもびっくりして。そんな遊び心や、サークル時代の思い出を詰め込んだ一曲です」
──では最後に、気が早いですが今回の『Roots』を経て、青山さんの中で次に挑戦してみたい音楽や、今後取り組んでみたいテーマなど、すでに思い描いていることがあれば教えてください
「最近もずっと新しい音楽を探していて、常に何か新しいものに触れていたい気持ちがあります。例えば、作家さんと1から直接やり取りをして音楽を作るということもやっていきたいな、と思っています」

取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
リリース情報
青山なぎさ Mini Album『Roots』
発売中