セクハラについての範囲が以前よりも大きく拡大されつつある昨今、その拡大に大きく資しているのが「当事者がセクハラだと思えば、セクハラ」という風潮です。セクハラ被害をできるだけ少なくするのに効果的ではありますが、この主張について思えば、痴漢の冤罪の際によく発せられる内容ではないでしょうか。
「視線を感じたから痴漢」「眠ってもたれかかってきたから痴漢」と言われると、おちおち電車にも乗っていられません。そこで自分が痴漢の冤罪に遭わないために、同時に痴漢の冤罪にしてしまわないように、痴漢か否かの線引きについて、電車内でのトラブルにつきものなお酒との関連も併せて中島宏樹弁護士に話を聞いてみました。

「お前みたいなブス、痴漢するか!」ーーする気があってもなくて...の画像はこちら >>

■やっぱり女性がどう感じるかがポイント

『いわゆる痴漢行為は、都道府県単位で制定されている条例によって処罰されています。
例えば、東京都の場合には、【何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為・・・人公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること・・・をしてはならない】と規定されており、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が課せられます』

なるほど、当初の疑問のように「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる」という「女性側」がどう感じるかが痴漢成立の鍵になっているのようです。しかしこれでは、男性側にとっては「する気がなかった」という言い訳は法律上あってもなくても変わらないように思えてきます。

今度は逆に男性側にする気があったのか、なかったのかということが本当に痴漢の成立に影響しないのでしょうか。


■男性にその気がなくても痴漢は成立

『満員電車で、何度注意しても直らず、寄りかかられたことにより、股間を押し付けられるなど必要以上に密着した状態となっている場合には、たとえ胸等を触られていなかったとしても、痴漢行為に該当します。

相手が、目をつぶっていようが、目を開いていようが、犯罪の成立には関係がありません。

満員電車で、避けたくても避けられない状況を利用しての犯行であれば、極めて悪質な犯行と言えます。被害者が声を上げることには困難が伴いますので、まわりの乗客にも毅然とした態度が求められるところです』

こうして見てみると、「痴漢の嫌疑は一発アウト」のようです。ましてや通勤通学の車中など他人のとの接触に関していちいち気を使ってられない状況です。サラリーマンの方々が両手を挙げて電車に乗る注意深さの原因がわかったような気がします。


では最後に、週末の飲み会や季節の節目の歓送迎会の後など、千鳥足になるくらいに泥酔したまま電車に乗った時、自分は酔っていて記憶がないのに知らぬ間に痴漢の疑いをかけられていた、などという状況においてここでも痴漢は成立するのでしょうか。

■泥酔状態となると、故意が認められず不成立

『人が酔っ払い状態であった場合には別の注意が必要です。

犯罪が成立するためには、行為者に、故意が認められること、すなわち、「罪を犯す意思」(刑法38条1項)があることが必要です。

酔っ払いの程度にもよりますが、いわゆる泥酔状態である場合には、罪を犯す意思が無いものとして、故意が認められず、犯罪は成立しません』

今月9日、さいたま地裁が、電車内で女性に痴漢をしたとして、迷惑行為防止条例違反に問われた会社員の男性に無罪を言い渡しました。これは女性の「勘違い」であったという男性側の主張が認められたことによります。壮絶な通勤ラッシュですが、そもそも疑いをかけられないような工夫が必要のようですね。