こんにちは。いまトピアート部のyamasanです。


千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館では、かつて「幻の王国」と呼ばれていた加耶の実像に迫る国際企画展示「加耶-古代東アジアを生きた、ある王国の歴史-」が開催されています。

文献資料が少なく、長らくヴェールに包まれていた加耶の成長から滅亡までの歴史を、古墳から出土された副葬品などを手がかりに明らかにしていくという、聞いただけでもワクワクしてくる展覧会ですので、さっそく行ってきました。

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高霊池山洞古墳群の近景 5、6世紀が中心の時期 大韓民国国立中央博物館写真提供


「幻の王国」加耶とは?


日本列島の古墳時代とほぼ同じころ、3~6世紀にかけて朝鮮半島南部には新羅や百済に属さずに成長した国々が分立していました。

その総称が加耶と呼ばれる王国群。

【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

会場内の解説パネル

今回の展覧会では、考古学的に認識が可能な金官加耶、阿羅加耶、小加耶、大加耶という4つの王国の実像に迫る展示とあわせて、加耶が当時の倭にとって最も緊密に交流した「海外」でもあったことを示す出土品も展示されています。


加耶はなぜ成長したのか?


加耶の成長を支えたのは鉄の生産でした。


それを物語るのが、製鉄や鉄器製造のための鍛冶道具。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

鍛冶の道具 金海退来里所業遺跡 4世紀末~5世紀前半 大韓民国国立中央博物館写真提供

【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

「豊かな鉄」展示風景

高温で赤くなった鉄の熱気、打ち下ろされる鉄鎚の音。
当時の鍛冶工房の活気が伝わってくるようです。

そして、鍛冶工房で作られたのが武器や武具。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

短甲 伝 金海退来里出土 4世紀  大韓民国国立中央博物館蔵

加耶は、新羅や百済をはじめとした強国のはざまの中、自分たちを守るためには常に戦いに備えなくてはならなかったのです。

【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

「武の装い」展示風景

武器・武具だけでなく、加耶は高度な文化をもっていました。

加耶の大きな魅力の一つは華麗なプロポーションの土器。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

「加耶土器の美」展示風景

櫛描(くしが)きの文様や透孔(すかしあな)の配置が絶妙で、職人技が光っています。

そして、驚いたのがこちら。
最初に見た時は「アンティークなコーヒーミルだ!」と思ったほどオシャレな土器。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

車輪飾土器 伝慶尚道 5世紀後半 大韓民国国立中央博物館蔵

手で押したら車輪が回って動きそうなほどリアルなつくりです。


朝鮮半島南部は紀元前から倭との交流の窓口だった


朝鮮半島南部は、加耶が成立するはるか前、紀元前3~1世紀から倭やほかの東アジアの社会との交流が行われ、朝鮮半島の南の島、勒島は沿岸航路の要衝で、鉄を求めて渡海する倭の人々も居住していました。


倭との交流の証しとなるのが、弥生系土器や倭でつくられた銅鏡や広形銅矛。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

「海を介した東アジアとの交流」展示風景

そして、4世紀の金官加耶の古墳群からは、手裏剣のような形をした巴形銅器や銅鏃など、倭政権とつながりが想定される副葬品が出土され、朝鮮半島の南海岸の各地では、王権どうしだけでなくそれぞれの社会に属する集団や個人同士の交易が盛んであったことを示す倭系の土器(土師器系土器)が出土されています。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

「加耶人は北へ南へ-倭との交流」展示風景

玄界灘に浮かぶ沖ノ島では、4世紀後半に航海安全を祈念する祭祀が本格化しましたが、それは、倭王権と金官加耶の交易がさかんに行われた時期でした。

沖ノ島の祭祀の様子は「総合展示 第1展示室 副室 沖ノ島」で展示されているのでこちらもぜひご覧ください。

加耶の栄華と滅亡


西暦400年ころの高句麗の進攻によって打撃を受けた金官加耶にかわって勢力を広げたのが大加耶でした。

洋の東西を問わず王国の栄華を語るのに欠かせないのは、やはり黄金色の王冠。

大加耶の権威を象徴する王冠が燦然と輝いています。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

「大加耶の飛躍」展示風景
上 大韓民国指定宝物 金銅冠 高霊池山洞32号墳 5世紀中葉 大韓民国国立大邱博物館蔵

大加耶の対外戦略の基調は、北の強国・高句麗に対抗するため百済や新羅との協調外交で、中国に使者を派遣して、対外的にも国力の飛躍をアピールしました。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

南斉書 巻58夷蛮伝 高松宮家禁裏伝来本 16世紀 国立歴史民俗博物館蔵

479年には、大加耶の王「荷知」が、独自に中国南斉に使者を送り、「輔国将軍本国王」に叙せられたことが『南斉書』に記されています(加耶は「加羅」と表記されています)。
残された記録のかぎりでは加耶諸の中で中国に遣使して官爵号を受けたのは、この荷知王が唯一とのことです。

※南斉(479-502)は中国・南北朝時代(439-589)に建康(現在の南京)を都とした4つの南朝の王朝の一つ。

大加耶の対外的に友好関係を築こうとした努力は、墳墓から出土された名品からもうかがうことができます。


中国南朝で製作された青磁の鶏首壺。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

青磁鶏首壺 南原月山里M5号墳 5世紀後半に副葬 大韓民国国立全州博物館蔵

新羅経由で入ったとされるガラス容器
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

ガラス容器 陝川玉田M1号墳 5世紀後半 大韓民国国立晋州博物館蔵

巧みな外交努力を続けた加耶ですが、6世紀に入ると重要な交通路と港だった蟾津江流域を百済に押さえられ、522年に大加耶が新羅と結んだ結婚同盟もわずか7年で破棄され、その後、532年に金官加耶、562年に大加耶が新羅に降伏しました。
他の加耶諸国も同じ道をたどったと考えられ、ここで加耶の歴史は終焉を迎えたのでした。


一見すると、緑豊かな小高い丘が連なり、あたりには畑が広がるのどかな光景ですが、実はこれは加耶の古墳群。

【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」

咸安末伊山古墳群の遠景 5、6世紀が中心の時期 大韓民国国立中央博物館写真提供

今回の展覧会を見て、いにしえの栄華に思いをはせながらいつかは散策してみたいという気分になってきました。

展覧会開催概要

展覧会名 国際企画展示「加耶-古代東アジアを生きた、ある王国の歴史-」
開催期間 2022年10月4日(火)~12月11日(日)
会 場 国立歴史民俗博物館 企画展示室A
料 金 一般 1000円 大学生 500円
    ※総合展示も合わせてご覧になれます。

    ※高校生以下は入館料無料です。
    ※高校生及び大学生は学生証等を提示してください。(専門学校生など
     高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
    ※障がい者手帳等保持者は手帳等提示により、介助者と共に入館料無料
      です。
    ※半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。また、
     植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
開館時間 9時30分~16時30分(入館は16時00分まで)
休館日  毎週月曜日(月曜日が休日の場合は開館し、翌日休館)
備 考  今回の企画展示は、個人的利用目的に限り撮影が可能です。
     ※フラッシュ・三脚等の使用はご遠慮ください。

展示作品のカラー図版や、詳しい解説やコラムが掲載された展示図録もミュージアムショップで好評発売中です(税込1,200円)。
【「幻の王国」の謎に迫る】国際企画展示「加耶」




総合展示第1展示室(先史・古代)リニューアル後の展示の様子は以前のコラムで紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。
【ナウマンゾウからゴジラまで】古代の日本列島にタイムスリップしてきた!
https://ima.goo.ne.jp/column/article/9683.html