子を持つ親としては子どもには元気に育って欲しいと思うでしょう。
時には元気すぎてケガをしたり、迷惑をかけたり、たまには友人と喧嘩をするなんてこともあります。
その場で仲直りして済めば良いのですが、骨を折ってしまったり、傷跡が残ったりするなどの怪我をした場合はそうもいきません。そのような場合、その親に責任をとってもらおうと考えるのは自然なことです。
しかし、子供の年齢によっては、親に責任を追及できないことがあります。
子供がケガをしたとき、負わせたとき、「親が取るべき行動」まと...の画像はこちら >>

●親の責任はどこから?
子供は、小学校を卒業するかしないかくらいの年齢までは、法的に責任能力がないとされ、民事の損害賠償責任を負いません(民法712条)。自分の行為が法的に責任を問われることを理解できる能力がないとされるからです。この場合、法定の監督義務を負う親が子供に代わって責任を負わなければなりません(民法714条1項本文)。

親は、子供に対する必要な監督を怠らなかったこと、監督を尽くしても被害の発生は避けられなかったことを証明すれば責任を免れますが(民法714条1項但書)、単に、「人に迷惑をかけてはいけない」、「他人に暴力をふるってはいけない」、「お友達をいじめてはいけない」などと言い聞かせていただけでは監督義務を果たしたことにはならず、多くの場合、親は責任を免れることはできません。
他方、中学生になると、子供自身に法的な責任能力が認められるようになりますので、他人に怪我を負わせたら子供自身が責任を負わなければなりません(民法709条)。
もちろん、親も、子供を監督し、教育すべき義務を負いますので、日頃から子供が喧嘩や粗暴な行為などで問題を起こしていたのに放置していたとすれば、親自身が被害児童に損害を賠償しなければなりません(民法709条)。

●過去の例は?
1.中学生同士のいじめや暴力で怪我を負った事件で、親が加害児童の日頃の喫煙、ピアスの着用、粗暴な行為、不良グループの結成等の問題行動を放置し、あるいは気づいていなかったことに監督義務違反を認め、400万円の損害賠償責任を認めた事例(さいたま地裁平成15年6月27日判決)がある一方で、
2.中学校の教室で、カーテンフックを直そうと机上に椅子を置き足場として作業中の女子児童が、男子児童から椅子を足蹴りされたため転落死した事故で、加害児童がおとなしく真面目であったこと、事故前に他人に暴力を振るったり、暴力を振るうかのような言動があったとは認められないこと、親が加害児童の問題性に気づかず、これを放置した事情も見当たらないとして親の責任を否定した事例もあります(富山地裁判決平成14年11月27日)。
ただ、仮に親の責任が否定される場合でも、わが子に責任を負わせたまま、被害児童の救済に目を向けない親もいないでしょうから、被害児童側としては、加害児童の親を相手に損害の補償を求めていくことになります。

●被害に遭った場合どうすればよいのか
1.なによりもまず、被害の発生状況、子供の関与の有無・程度について、子供、学校、友人からできるだけ早く、正確な情報を集めることです。

時間が経てば隠ぺいや責任回避の動きが出るのが常ですから、できればその日のうちに対処すべきです。学校内や学校の登下校での事故の場合は、学校に強く働きかけて、当事者意識を持たせ、事実関係の調査、事件解決について主体的な関与と協力を求めることが事実関係の解明に役立ちます。また、必要があれば警察に被害届を出すことも考えなければなりません。
2.治療費をどうすればよいかも気になるところです。
(1)治療は、健康保険を利用できますので当面の負担を減らすためにも健康保険を利用してください。喧嘩であれば被害児童にも落ち度のあるのが通常ですから、健康保険を受けるメリットは大きいです。

(2)学校内や登下校中の喧嘩の場合は、計画性がなければ、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度を利用できますので、申請の手続をしてください。
(3)自身で加入する傷害保険(共済)、傷害特約による保険金(共済金)の請求も忘れずに行ってください。
(4)加害児童側が加入する個人賠償責任保険は、喧嘩の場合、免責になることが多いですが、念のために加害児童側を通じて保険会社に保険金が支払われるかどうかを確認してもらうようにしてください。
(5)以上の方法がダメなら、加害児童の親に対して、当面の治療費だけでも内金として支払ってもらうよう交渉してください。
3.示談交渉は、治療が全て終わった段階で始めますが、加害児童の親との直接の交渉では話が進まないこともありますので、学校に間に入ってもらうことも考えてください。特に、学校が加害児童の指導において責任が問われるケースでは、学校自身の責任の問題として介入を強く申し入れるべきでしょう。

4.話し合いが行き詰ったときは、弁護士に依頼をして示談交渉を進めるのが効果的です。このほか、弁護士会の紛争解決センターでの示談あっせん、簡易裁判所の民事調停などの制度を利用することも検討してよいでしょう。
5.話し合いによる解決が困難であれば、裁判所に訴えるしかありません。この場合でも、審理の過程で早期に和解で解決できることもありますので、ここぞというときは利用したほうがよいと思います。

●怪我をさせてしまったときはどうすれば良いのか
1.子供が相手にけがをさせた場合には、とにかく直ぐに謝罪と見舞いに訪れ、最低限の誠意を見せることが大切です。時間が経てば経つほど、被害感情は高まり、紛争解決にとってマイナスとなりますので、できればその日のうちに訪れるべきです。
一旦被害者から不信感を持たれると、その後の紛争解決に悪影響を与えることになりますので注意が必要です。
2.被害発生状況について、子供、学校、友人、可能であれば被害児童側からも情報を集め、学校など関係者とも密に連絡をとって事実関係の早期把握に努めてください。
3.加入する賠償責任保険の適用がないかどうか、日本スポーツ振興センターの利用手続を調べて被害児童側に情報提供することも忘れないでください。法的な責任の有無や程度は、事実関係が明らかになった時点で専門家に相談して考えればよいことですから、被害者側にも落ち度があるからといって放置しないでください。
4. その後も、被害児童の親には、定期的に連絡をとり、必要に応じて見舞いと謝罪を続けたほうがよいでしょう。
5.被害者側からの治療費等の請求に対しては、被害発生状況を把握したうえで、その都度弁護士のアドバイス、保険(共済)の担当者と協議しながら、対応してください。
治療の途中で治療費を支払っても、示談の段階で自己の責任割合に応じた負担額が確定した時点で、既に支払った分を「既払金」として精算すればよいですので、明らかに責任の範囲を超えるような金額でなければ、柔軟に対応したほうがよいでしょう。なお、支払の際は、領収書をもらい、あるいは銀行送金等により記録が残るようにし、保険(共済)利用の場合は、保険会社(共済)にも連絡をして了解をとるようにしてください。
6.誓約書などの提出を求められた場合でも、事実関係がはっきりして最終的な責任の所在と割合が決まるまでは応じないほうがよいでしょう。要求に対しては、誠意をもって対応させていただきます、と言って一旦持ち帰る。弁護士に相談するようにしてください。
7.被害者とはコミュニケーションをとれる状況を保つことが大切です。関係が決裂となれば、あとは法的な責任追及の場でしか解決ができなくなりますので、双方にとって不幸です。
8.人任せにはしないことが大切です。学校、保険会社の担当者等に協力を仰ぐことは必要ですが、とにかく自分で動くことが、被害児童の親との信頼関係を維持し続けるためにも必要です。事故後の対応の悪さにより、被害者に二次被害を与え、紛争が泥沼化してしまうと不幸です。
子供同士の喧嘩だからと言って侮らず、特に怪我をした場合は、被害児童へ配慮しながら、円満な解決に向けて双方が努力することが必要です。

*著者:弁護士 好川久治(ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務・コンプライアンスまで幅広く業務をこなす。)