郵便法第17条は、「現金又は郵便約款の定める貴金属、宝石その他の貴重品を郵便物として差し出すときは、書留(括弧内省略)の郵便物としなければならない。」と定めており、現金を普通郵便で送付することを禁じています。
現金を普通郵便で送ることができれば書留で発送するよりも利便性が向上するように思うかもしれません。
しかしなぜ法律では禁止されているのでしょうか?
この法律が定められた背景について紹介したいと思います。
なぜ普通郵便で現金を送ることが禁止されたのか?の画像はこちら >>

●なぜ禁止された?
近年、レターパックを利用して現金を送付させ、これをだまし取る詐欺事件が急増しており、総務省や各都道府県警が注意を呼び掛けています。
そもそもレターパックを利用して現金を送付すること自体、郵便法17条に違反する行為ですので、郵便局では、引受時の検査を徹底し、必要に応じてX線検査装置も使用して確認しているようです。
もしも、現金を普通郵便で自由に送れるようにすると、このような詐欺被害が多発する可能性もあるため、郵便法17条は、詐欺被害を未然に食い止める役割を果たしているということもできます。
しかしながら、郵便法17条の内容そのものは、古い時代から存在していたもので、もともとが詐欺防止を目的にしていたものではなく、普通郵便の送料を低額に抑えることを主眼としていたようです。
つまり、現金を普通郵便で自由に送れるようにすると、悪事を企む人間が闇雲に普通郵便物を狙うようになりかねず、そうなると、普通郵便全体について、このような被害から守るための余計なコストがかかってしまいます。
そこで、現金や貴金属等については、それを送付しようとする者だけに特別の料金を課すことで、普通郵便については低額の料金で利用できるようにしたわけです。

●違反の罰則は?
普通郵便で現金を送る行為は、郵便法17条違反となりますが、それ自体に特に罰則が定められてはいません。
しかしながら、郵便法84条1項は、「不法に郵便に関する料金を免れ、又は他人にこれを免れさせた者は、30万円以下の罰金に処する。」と定めておりますので、禁止されていることを知らずに現金を普通郵便で送ってしまった場合ならいざ知らず、恒常的にこれを行っていて、郵便料金を免れる意図があったものと疑われる場合には、罰金刑に処せられる可能性があります。
郵便法17条に違反する行為は罰せられないなどと思っていると、思わぬしっぺ返しをくらいますので、注意が必要です。

*著者:弁護士 田沢 剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所。8年間の裁判官勤務を経たのち、弁護士へ転身。
「司法のチカラを皆様のチカラに」をモットーに、身近に感じてもらえる事務所を目指している。)