左から酒井りゅうのすけ氏、佐藤倫氏、久保よしや氏
いま、ゲーム業界でもじわじわと話題になっている新しいエンターテインメント「マーダーミステリー」。『ドラゴンクエスト』の堀井雄二氏、『DARK SOULS』の宮崎英高氏、『ニーア:オートマタ』のヨコオタロウ氏など、多くのゲーム業界関係者が楽しまれている姿をSNSで見かけた方も多いかと思います。


▼マーダーミステリーとは?
マーダーミステリーは、アナログゲーム界隈を中心に話題沸騰中の体験型推理ゲームです。殺人などの事件が起きた物語(シナリオ)が用意され、参加者たちは会話をしながら犯人を探し出します。犯人役になったプレイヤーは、自分の正体がバレないようにゲームを進めていきます。

また、それぞれの役柄に対して、事件当日の行動や人物背景などがキャラクターシートとしてまとめられており、参加者はそれを読んでなりきることで、まるで推理小説の世界に入ったような体験が味わえます。なお、各シナリオは一度体験するとすべての真実が明らかになるため、一生に一度しかプレイできないことが特徴です。
今回は、マーダーミステリー界のトップランナー3名に対談を実施。
全3回の連載でお届けします。第1回は、マーダーミステリーの面白さについて、そして話題の公演「ランドルフ・ローレンスの追憶」について掘り下げていきます。

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──それでは、まずは自己紹介をお願いします。

佐藤倫(以下、佐藤)佐藤倫と申します。界隈では「じゃんきち」のハンドルネームで通っているのでそちらの方が有名かもしれません。「ランドルフ・ローレンスの追憶」というマーダーミステリーを制作しました。
他には「パンドラの人狼」などのオリジナルコンテンツも作っていて、福岡にある人狼ヴィレッジというお店の店長を務めています。

酒井りゅうのすけ(以下、酒井)ラビットホールというマーダーミステリーの専門店でオーナーをしている酒井りゅうのすけです。マーダーミステリー「双子島神楽歌-ハルカゲカグラウタ-」などを制作、他にはJELLY JELLY CAFEというボードゲームカフェも運営しています。

久保よしや(以下、久保)私は店舗コンサルタントがメインのお仕事で、マーダーミステリーでは「ヤノハのフタリ」という作品を作りました、久保よしやです。

なぜ、マーダーミステリーに関わろうと思ったのか?
──現在、アナログゲーム界隈で話題になっているマーダーミステリーですが、みなさんが興味を持たれたキッカケを教えてください。

佐藤「約束の場所へ」というマーダーミステリーを昨年遊び、プレイヤーひとりひとりに詳細なシナリオが与えられるゲームをその時初めて体験しました。
ゲームとして制作の難易度は高そうだけど面白さがあるな、と感じたことがマーダーミステリーを作ったキッカケです。

もともと私は、「TRPG人狼」という、TRPGのシステムに正体隠匿の要素を組み合わせて、物語体験をするというコンテンツを制作していました。ただTRPG人狼では、プレイヤーに与えられる情報はマーダーミステリーほど多くなかったんです。

そうしたなかマーダーミステリーを遊んだことで、プレイヤーにもっと詳細なシナリオを与えたほうが面白いなと気づき「ランドルフ・ローレンスの追憶」を制作しました。まとめると、自分が作っていたTRPG人狼というコンテンツに、マーダーミステリーの詳細なキャラクターシナリオという要素をもらって作ったという感じですね。

酒井僕はUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)でアトラクションのクリエイティブや、街を使ったARG(Alternate Reality Game=代替現実ゲーム)という遊びを作りながら、演劇のプロデュースをしていました。
アトラクションも演劇も、物語の中にプレイヤーが入って追体験できることに惹かれたんですね。そのため、どうにか舞台上と客席を地続きにできないかという試みをしてきました。

そうした折、去年の4月にマーダーミステリーをやって、まさに自分が物語の中に入っている、ゲームをやりにいったつもりなのに物語を1本体験したんだなと感じました。これは自分たちがやりたいことを実現する手法のひとつだと思い、取り組むことを決めました。

当時からボードゲームカフェを経営していたのですが、そこでイベントとしてマーダーミステリーを行うことも検討しました。しかし、周りではボードゲームをプレイしている訳で、物語への没入感が弱くなると思い、専門の施設としてラビットホールを作りました。


──未知のコンテンツだったマーダーミステリーに対して、プレイできる専用のスペースを作るという決断は大きなものだと思いますが、それをされた理由はなんですか?

酒井なければ(マーダーミステリーを)やれない、と思ったのが入り口ですね。プレイしたその日に、弊社の副代表である白坂に「これもうやばいんで店作りたいんです」という話をしました。マーダーミステリーが流行るか否かという可能性より、「やりたい!」が先行したためですね。

──ラビットホールは昨年8月に運営を開始されていますが、どのような方が来店されていますか?

酒井ボードゲームをやっていた人、人狼ゲームをやっていた人、TRPGをやっていた人、謎解き・脱出ゲームをやっていた人など、いろいろな方に来ていただいている印象です。何かをやっていた繋がりで来店されている方は多くいる一方、まったくどれにも属していない人たちに対してはまだ伝えられていないと思います。

──久保さんがマーダーミステリーに関わった経緯を教えてください。


久保私は10年前ぐらいから人狼関係の店舗の立ち上げや集客・プロモーションをやっていて、合わせてボードゲームカフェやリアル脱出ゲームの施設「inSPYre」を作ったりしてきました。そのなかで、最初にマーダーミステリーをやった時に流行るのではと思い、イニシアチブを取るために「ヤノハのフタリ」を作りましたね。

マーダーミステリーの面白さとは何か?
──いきなり本題になりますが、マーダーミステリーの面白さは何だと思いますか?

久保マーダーミステリーの面白さは分析しづらいですね。私もこれまで98作品遊んでいますが、いまだに面白さの根幹が明確に定義づけられない遊びだと思っています。逆にそれは自由度の高さでもあり、ユーザーそれぞれのマーダーミステリーに対する楽しみ方のベクトルが違うのも面白いですよね。

──魅力が言語化しづらいというお話がありましたが、2人はいかがですか?

佐藤マーダーミステリーの面白さは、下記の3点だと私は分析しています。「人間同士の会話・コミュニケーションであること」。人と人の会話は最大の娯楽、と言われています。ただの日常会話ではなく、会話に目的を与えてくれるツールがマーダーミステリーなんです。

「この人は嘘をついているかもしれない、という非日常体験」。日常生活で嘘をつくと人から嫌われてしまいますが、ゲーム中であれば問題ありません。また「誰かが嘘をついているかも知れない」という前提のもと話し合いをすることで、日常会話とは比べ物にならない「深み」が会話に生まれます。

「主観的な物語体験」。映画を観て登場人物に感情移入することはできても、登場人物として主観的な物語は体験できません。マーダーミステリーであればそれが可能で、全く違う視点を持つ別のプレイヤーから聞く話によって動く物語の面白さは、ぜひ体験して感じてみて欲しいですね。

また、一度きりの体験であることも重要かなと。これが繰り返し遊べるものになると、競技性が生まれてしまうんですよね。それはいい面もありますが、初心者と経験者の差を生むことにもつながってしまうので。

──酒井さんはいかがですか?

酒井マーダーミステリーの魅力を定義づけるのは難しいと思います。その難しさというのは、僕個人が面白いと感じている部分と、他のプレイヤーさんがそう感じている部分が違うと理解しているからです。ただ、僕が認識しているマーダーミステリーとは、新しい物語を伝える手法です。小説・映画・ドラマ・アニメ・ボードゲーム──それらとは違う手法ではありつつも、同様にストーリーこそが根幹にあるコンテンツだと感じています。

合わせて、佐藤さんが言った通りコミュニケーションをしたいという欲求も満たせます。普段は仲が良くても物語上で仲が悪くなった時、いつもとは違う次元の会話が楽しめますよね。そうした経験は今までのコンテンツの様な「鑑賞」ではなく、「体験」を通して物語が伝えられるので深く刺さり、心のなかにダイレクトに感覚が伝わるのがマーダーミステリーの面白さだと思います。

──久保さんはマーダーミステリーの監修も多くされていますが、面白さを作るポイントなどはありますか?

久保私が繰り返し伝えているのが「体験感・没入感・納得感(気づき)」です。体験感と没入感は2人の言っている通り。気づきについては、マーダーミステリーをやる上で当たり前と認識していたことが、実はくるっと変わって人に対して驚きを与えることです。

映画でも「実は娘だった」とか、伏線が回収されると「あーあの時のね!」という気づきがありますが、それにより物語が深くなり、人間関係も複雑化させる能力があると思っています。ということで、2人に付け加えるのであれば、気づきがマーダーミステリーにおいてすごく大事な要素ですね。

話題のマーダーミステリー「ランドルフ・ローレンスの追憶」ついて深堀りします!

話題のマーダーミステリー「ランドルフ・ローレンスの追憶」について

──それでは、マーダーミステリー界で話題になっている佐藤さん作の「ランドルフ・ローレンスの追憶」について、率直な感想をお願いします。

久保「ランドルフ・ローレンスの追憶」は、まだヒット作ではないと思っています。なぜなら体験人数が少ないから。逆に言うと、少ない体験人数でこんなに口コミになっているのはすさまじいと思っています。プロモーション的な感覚としては、これは伝説的な何かにしたいし、何かになるなと。

作品としてはとても計算されていると思います。みなさんの多くは佐藤さんのことを天才と言いますが、実はめちゃくちゃ努力家で秀才なんです!感情や人々の気持ちを計算して設定されているので、プレイをした時に感動はもちろんしたのですが、「佐藤さんって努力家なんだな」という風に見えましたね。これから本作をプレイされる方も多いので具体的なことは言えないのですが、私が先ほど伝えた「体験感・没入感・納得感」がしっかり盛り込まれている作品ですよ。

一方で、マーダーミステリーなのかというと、すごくふわふわした立ち位置だと思います。なぜかというと、TRPGの感覚に近いと思ったので。物語体験であり、没入もでき納得感もあるけれど、いろんなジャンルを超えた新しいところにいる作品だなという感覚です。

私はよく、「マーダーミステリーのなかでどれが面白かったか」と聞かれることがあるのですが、その時に1位は「双子島神楽歌-ハルカゲカグラウタ-」で、マーダーミステリーが好きな人たちが絶対ハマるであろう新ジャンルとして「ランドルフ・ローレンスの追憶」は面白いですよとお伝えしています(笑)。

──「ランドルフ・ローレンスの追憶」がここまで話題になっていることについて、佐藤さんとしてはいかがでしたか?

佐藤最初に盛り上がりが始まったのは、2019年11月に東京の人狼倶楽部さんで3公演だけ行った時です。参加された方が「めちゃくちゃ面白かった!」と凄い勢いで拡散してくれたんですよ。また久保さんや、マーダーミステリーGM(ゲームマスター)の江波さんなど影響力の強い方々が拡散に協力をしてくれたのも大きいですね。

そして参加者がたくさん口コミを広げてくれた理由については、「ランドルフ・ローレンスの追憶」の物語において、一番盛り上がるタイミングがエンディングになるように設計されているのは大きいと思います。参加して「面白かった!楽しかった!」という感情が最大になっているタイミングで帰るから、感想をつぶやきやすいんじゃないでしょうか。

久保前半でキャラクターとプレイヤーの紐付けが上手いのもあるかなと。マーダーミステリーって、プレイヤーがキャラクターの台本(キャラクターシート)をインストールしてスタートするのですが、そのすり合わせをしていくのが上手です。だから、後半の盛り上がりのための前半が肝になっているのかなと。

佐藤畑を耕す作業ですね(笑)。

久保そうそう!きちんと「私が耕してる!」という実感があるので、「私は農家!」って理解できるみたいな(笑)。

──酒井さんはいかがですか?

酒井佐藤さんは「約束の場所へ」だけをやって作られたという話がありましたが、「こういうものだったら僕が作ってきたものにこんな形で応用できるよね」と、ご自身の今までの経験値をフル活用されて作っている。だから東京で僕らが作ってきたマーダーミステリーとはアプローチの仕方が違うんですよね。それが良い方にすごく触れた形で、オリジナルのジャンルを作り上げたと僕は見ています。

僕は「ランドルフ・ローレンスの追憶」をプレイした段階では40~50作品のマーダーミステリーをやっていましたが、その時の僕の気持ちを言葉にすると、「ずっとカニを大好きだと思って食べ続けていたけれど、本作はタラバガニ(ヤドカリ科)だった!でもカニで大好き!」みたいな感覚です。

久保分かりづらいよー(笑)。

酒井それぐらいある種同じもので、でも違うものという感じだったんです(笑)。東京のマーダーミステリーの流れの中にいなかったからこそ、自分の作ってきたコンテンツを下地に「ドン!」と前にいけたのかなと。これはどのマーダーミステリークリエイターもそうだと思うのですが、僕だったらお化け屋敷や街遊び、そして演劇を作ってきた感覚があったから「双子島神楽歌-ハルカゲカグラウタ-」を作れたみたいな。

佐藤自分が作ってきたコンテンツにマーダーミステリーの要素を突っ込んでいるので、形が違うとは思いますね。

酒井マーダーミステリーを使って「なにか」を作ろうとした感じですよね。

──「ランドルフ・ローレンスの追憶」はGMの役割が大きい作品だと思います。これまでは佐藤さんがGMを行い、自身でゲームをコントロールされてきましたが、2020年2月からはラビットホールで公演がスタートしました。その点について佐藤さんはどう感じられていますか?

佐藤よく公演したいと言ってくださったなと思いました。まず、逆の立場だったら、私は「ランドルフ・ローレンスの追憶」のGMをやりたくないです(笑)。GMのアドリブが多い作品なのですが、私は制作者なので、どこまで良くてどこからだめなのかを100%把握しています。だから制作者以外がGMをやるのはハードルが高いと思っています。

そのため、やると決断してくださったことに本当に感謝しています。また、酒井さんが日本でも十指に入る「ランドルフ・ローレンスの追憶」好き、というのもGMをお願いできた理由ですね。愛がなければ、この作品のGMは絶対に務まらないと思います。

──酒井さんがやると決断された意図、そして公演となると膨大な時間的なコストがかかると思ったのですが、それについてどうお考えだったか伺えますか?

酒井ビジネス的に考えたら、1公演に5時間近くかかり8人しか参加できないので、どうやってもコストとリターンが噛み合わないんですよね(笑)。そうした視点から考えるとやるべきではないのかもしれません。一方で、佐藤さんは常に東京にいる方ではないので、「ランドルフ・ローレンスの追憶」というコンテンツを東京でやれる機会を、定期的に作り続けるためにやるべきだと思いました。

ラビットホールでやる場合は、佐藤さんがアドリブでGMを行われている部分を全部書きだして、台本を仕上げて日々追記を入れています。そうすることでやっと僕のなかに世界が落ちてきてくれるんですね。そうしたコストをかけても、ランドルフのGMをやった経験は自分が今後作る作品に踏襲できますし、GMをやると見えてくるものもあります。次のフェーズとしては、このGMとしてのスキルを他の店長に引き渡しができるようにして、ラビットホール全店でノウハウを共有することですね。

久保でも儲かるかって言ったら……?

酒井それは無理です(笑)。

久保以前3人で話していた時に、酒井さんがランドルフを持っていきたいと言い出したんですね。私は「持ってくるのはいい。ただ、アニメーションを描けるといっても宮崎駿さんみたいにできるわけではなくて、ランドルフのGMも佐藤さんの頭の中にしかない。やり方は覚えられるけれどもベストかどうかわからないが、それでもやるか?」と聞いたら、酒井さんはやりたいと。

だから、「佐藤さんの作品をやるのであれば、本気でトレースして本気でハッタリをかまし続けないと、ユーザーは満足しませんよ」とアドバイスをしました。そこで、佐藤さんの公演予定を全部もらい、公演場所を提供している江波さんにも協力してもらいながら見学ができる回を確認して、酒井さんとラビットホール新宿店の店長の中島咲紀さんがめちゃくちゃ勉強しました。

でも、正直それにメリットがあるかといったら、GMのノウハウの蓄積はあるけれどもランドルフでなくてもいい。ランドルフは最高難度なので、そこに行き着くまでに力をつけられちゃうんですよ。だからいろいろ言っているけれど、本人(酒井さん)がやりたいだけだと思うんだよね(笑)。

──そうしたコストをかけてでも、動かしたいという熱量があったのですね。

久保私が思っていることは、「ランドルフ・ローレンスの追憶」の公演を月に30回うっても30回満員になる。ただ、ランドルフはキラーコンテンツになるしブランドとしてすごく優秀です。そのため、コンテンツとして安くならないように、特別な体験感であるべきと考えていたので、毎週5回公演をするみたいなのはやめてくださいとは言いました。せめて月に2回か、3回ぐらい(笑)。

酒井売れば売るほど売上が落ちていくんですよね(笑)。

久保悪魔のコンテンツじゃん(笑)。

酒井なのにGMはやればやるほど疲弊していくんですよ(笑)。でも、「ラビットホールって面白いコンテツがいっぱいあるんだな」を作るうえでは、面白いものがあってもらわないと困るので。参加できないけどなんかすごいやつあるらしいも大事だと思うんですよね。

──ありがとうございました。

以上、マーダーミステリーのトップランナーたちによる対談の第1回をお届けしました。

第2回は、マーダーミステリーのクリエイターに向けた作り方のアドバイス、初心者におすすめの作品などついて伺いました。3月9日(月)に公開を予定していますので、お楽しみに!

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また、3月11日(水)には、「マダミ談義」という、マーダーミステリーに関するトークイベントも実施予定。こちらは「マーダーミステリーの光と闇」と題し、作品・店舗・GM(ゲームマスター)などについて大激論が行われるとのことです。気になる方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。