RPGは今も根強い支持を集めており、数多くの人気シリーズが時代に合わせて登場し、この令和でも活躍を続けています。そんな人気シリーズの中でも、勧善懲悪に寄らない物語や、悪魔を“仲魔”とし、時には合成でより強い悪魔を生み出すなど、際立った独自性で注目を集める『真・女神転生』シリーズは、特に印象深い唯一無二の作品です。


更なる原点はファミコン時代に遡りますが、『真・女神転生』の名を冠したシリーズが始まったのは、1992年10月30日。スーパーファミコンに登場した1作目を皮切りに、悪魔と天使、そして人間たちのドラマが幕を開けました。

本シリーズはナンバリングや派生作を経て、2021年に最新作『真・女神転生V』をリリース。そして、昨年10月に記念すべき30周年を迎え、現在は記念すべきアニバーサリーイヤーの真っ最中です。

この節目を祝うリアルイベント「真・女神転生 30周年感謝祭 in KT Zepp Yokohama」が2023年5月上旬に行われ、開発資料の展示や人気沸騰のグッズ販売、バンドライブによる圧巻の演奏など、濃密な時間を多くのファンに提供しました。

筆者は初日(5月5日)に足を運び、本イベントを堪能させていただきましたが、会場の催しとは別に、その目を奪う存在と出会いました。
それは、かつて一時代を築いた携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」(以下、3DS)です。

■多彩なヒット作に彩られた名機「3DS」
ゲーム歴の長いユーザーにとって、3DSは説明不要なほどよく知られている存在です。しかし、最初の3DSが発売された2011年2月から数えると、すでに12年の歳月が過ぎました。若いゲームユーザーからすれば、「直接触れたことのない、前時代のゲーム機」といった認識でもおかしくありません。

前機の「ニンテンドーDS」のソフトもプレイ可能で、裸眼立体視による手軽な3D体験が味わえた3DS。出だしこそ苦戦したものの、値下げ後から一気に存在感を放ち、通算で7,594万台の普及を達成しました(2023年3月末時点)。


世界的にヒットしたソフトも多く、1,898万本を売り上げた『マリオカート7』をはじめ、『ポケットモンスター X・Y』(1,668万本)、『New スーパーマリオブラザーズ2』(1,341万本)、『とびだせ どうぶつの森』(1,304万本)、『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS』(964万本)など、数多くの代表作が3DSから飛び出しました。

3DSは長きにわたって活躍を続けましたが、2020年9月に全バリエーションの生産を終了。そして2023年3月28日には、ニンテンドーeショップでの新規ダウンロードゲームの購入も出来なくなりました。

人気タイトルが世界中を席巻し、通勤や通学、外出の際に持ち歩く人も多かった3DSは、しかし時代の流れと共に活躍の場が減っていき、出先で見かける機会もすっかり乏しくなりました。

無論、自宅に3DSがあり、今も現役で遊んでいるユーザーは少なくありません。ですが、携帯して外でも頻繁にプレイしているかといえば、あまり多くないのが現状です。
例えば電車内で手にするデジタルデバイスは、今やほぼスマートフォン一択でしょう。

すっかり時代が移り変わった……と思っていた2023年5月に、まさか横浜にある「KT Zepp Yokohama会」で、誰かが持っている3DSと出会うとは。予想していなかった光景に、筆者の足が反射的に止まりました。

■この2023年に、3DSを持ち歩く理由
会場内で3DSを持っていたのは、2人組の来場者。それぞれ白と赤の3DSを手にしており、しかも起動させて互いに画面を眺めています。

こうした光景は、3DSの絶頂期には決して珍しくはありませんでした。
しかし、令和に入って早5年目を迎えた今現在となると、話は大きく変わります。筆者の経験談になりますが、ここ数年はまったく見かけることがなかった姿です。

お恥ずかしながら、筆者も3DSを持ち歩かなくなって数年。家以外で触る機会もめっきりなくなりました。ですがこの令和の時代に、都会の真ん中で、誰かが持っている3DSを見かける日が再び巡ってくるとは。不意をつかれ、驚きが隠せません。


とはいえ、筆者も3DSに長く触れてきましたし、ここが『真・女神転生』のリアルイベント会場と考えれば、3DSを持参した理由も思い当たります。少しお話よろしいでしょうか……と断りを入れ、許可をいただいた後に、早速話を切り出しました。「3DSを持ってきたのは、すれちがい通信のためですか?」と。

“すれちがい通信”とは、3DSに搭載されている機能のひとつで、対応しているゲームを登録したユーザー同士の3DSが一定範囲に入ることで、情報を自動的にやり取りする仕組みです。友人同士でももちろん可能ですが、名前も知らないユーザーと知らない間に交流できるこの機能は、その手軽さやメリットから好評を博しました。

当時、外出中に3DSを持ち歩いた理由のひとつは、この“すれちがい通信”が目当て。
ゲームにもよりますが、お得なアイテムや強いモンスターなどをもらえたりと、コミュニケーションのみならず攻略面でも助けになる嬉しい機能です。

ですが、“すれちがい通信”を活用するには、すれ違う相手の存在が不可欠。自分だけがいくら持ち歩いたところで、3DSを所持した人とすれ違わない限り、“すれちがい通信”の恩恵は受けられません。誰もいないオンラインサーバーに接続してもマルチプレイができない──そんな状況と似ているかもしれません。

今や、誰かとのすれ違いがかなり期待しにくくなった3DS。ですが筆者の質問に、来場者の2人は快く答えてくれました。「はい。すれちがい通信のために、3DSを持ってきました」

■『真・女神転生』の愛と「3DS」の魅力が、2023年の横浜で交差する
『真・女神転生』シリーズは、時代と共に活躍の場を変えてきました。スーパーファミコンから始まり、PS2からニンテンドースイッチまで、ナンバリングだけでも複数のプラットフォームを渡り歩いています。

その中でも、ナンバリングでは4作目にあたる『真・女神転生IV』と『真・女神転生IV FINAL』の2本が、3DS向けにリリースされました。もちろん“すれちがい通信”に対応しており、登録した“仲魔”がパワーアップしたり、アイテムが手に入ったりと、嬉しい結果が得られます。

こうした“すれちがい通信”を目当てに3DSを持参した2人。詳しく話を訊くと、『真・女神転生IV』だけでも20人以上、『真・女神転生IV FINAL』では30人近くとすれ違ったとのこと。場所が限定されている点を踏まえると、最盛期と比べても遜色のなさそうな頻度の高さです。

あまりの盛況ぶりに筆者が驚いていると、その理由の一端を明かしてくれました。このリアルイベント「真・女神転生 30周年感謝祭 in KT Zepp Yokohama」の開催に合わせ、会場に3DSを持参して“すれちがい通信”をしよう──といった呼びかけがTwitterで行われ、反響が大きかったとのこと。そうした活動の結果が、この盛り上がりに繋がったのでしょう。

しかし、事前の呼びかけがあったとはいえ、3DSはすでに生産が終了したゲーム機。最前線から身を引いて、それなりの時間が経過しています。また、コアなファンであれば、どちらの作品もすでにクリア済み。今さら“すれちがい通信”による戦力補強を求める方は、むしろ珍しいと思われます。

ですが現実は、筆者の浅はかな予想とは真逆。バンドドライブの開演まで30分以上あるこの時点で、盛況を極めるすれ違いぶり。人間の目には見えないだけで、この会場には3DS同士の通信が始終飛び交っていました。

現在進行形で該当作を攻略している人は少ないかもしれませんが、愛し続けるファンだからこそ、『真・女神転生』作品を通して交流できるこの機会を見逃せなかったのかもしれません。すれ違ったデータの中には「30TH!!!」と銘打たれたものもあり、好きなシリーズを祝福する声が3DS越しに聞こえてきます。

遊ぶゲームも、人気のあるハードも、時代と共に移り変わります。ですが、令和5年の5月5日、今この場所で最も熱いゲーム専用機は、なんと「3DS」でした。30年間愛され続けた『真・女神転生』を祝う場で、3DSの健在ぶりを知る。ひとつの奇跡に立ち会えたような、非常に貴重なひとときです。

本体の生産がなくなりダウンロード販売が終了しても、遊び続ける人がいる限り、3DSはいつまでも“現役”のゲームハードに他なりません。