東京オリンピックに向けて準備が進むなか、世間はそれほど関心をもっていない……。
■思ってもみない突然のスカウト
吹浦さんが組織委員会に加わることになったのは、東京オリンピックの2年前でした。当時早稲田大学の学生だった吹浦さんは、大会組織委員会から急に呼び出されたのだとか。元タクシー運転手で聖火リレー踏査隊としてシルクロードを渡った森西栄一から、「オリンピックの国旗を任せたいから面接を受けてほしい」と言われます。
面接では田畑政治総長と対面し、ユニオンジャックが使われている国旗についての質問などを受けて合格したのだそうです。ユニオンジャックといえばオーストラリア、ニュージーランドなどメジャーどころを答えるのが普通なのかもしれませんが、吹浦さんは香港やバミューダ、バハマなど、日本ではほとんど知られていないようなアジアの国旗を次々と挙げていきました。
質問を出した方も本当か間違いかわからないような国名を次々挙げていったため、きっと面食らったことでしょう。
ドラマ内でも語られた通り、第3回アジア競技大会で中華民国の国旗「青天白日満地紅旗」を天地さかさまに掲揚してしまうというミスをおかしており、とにかく国旗を正しく揚げることができる人物を探していたのです。
こうして吹浦さんはオリンピックの国旗を担当することになりました。
■日の丸の色を決定した人物
国旗担当として苦労したのは、各国の国旗の色や、使用する旗の生地などでした。
多くの国では赤、青、黄など、ぱっと見で判断できる色が使用されていますが、よく見れば同じ赤、青といっても色は微妙に異なります。
また、一番苦労したのは日の丸(日章旗)だといいます。いまでこそ旗のサイズに対する○の大きさや色は決まっていますが、当時はまだ明確に定められてはいませんでした。法律では「白と紅」とされていますが、「紅」色といっても全国で使用されている日の丸の赤は結構バラバラ……。
全国の日の丸をかき集め、分析して色見本表を作り、平均値を求めて決定しました。吹浦さん自身、自分が日の丸の色を決定するなんて恐ろしくて、官房長官のところまで持っていったそうなのですが、官房長官でさえ「勘弁してくれ、そんなことはうちでは決められない」と言ったそう。
だから、日の丸の色を定めたのは吹浦さんなのです。
■「いだてん」の国旗考証を務める
東京オリンピックで国旗担当を務めて以来、長野オリンピックでは式典担当顧問を務めた吹浦忠正さん。旗章学者として、「いだてん」では国旗考証を担当しています。
参考:笹川スポーツ財団(SSF)
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