♪ふづき たなばた ところてんこの「ふづき(文月)」とは7月の旧称ですが、どうしてこう呼ばれたのでしょうか?
プール帰りは うじきんとき……♪
※やまがたすみこ「くいしんぼうのカレンダー」より
子供のころ、近所のおじさんが「暑中見舞い=文(ふみ)を出すからだよ」と教えてくれたのを真に受けていましたが、よく考えてみれば手紙なんていつでも出すし、年賀状の方がよほどたくさん出されるはずです。
余談はさておき、せっかくなので文月(ふづき、ふみつき)の由来と、他にもたくさんある7月の別名について紹介したいと思います。
■田んぼの稲が穂を含み、七夕で文を書く月
文月の由来をしらべてみると、田んぼの稲が穂を含み(=実をつけ)始める「穂含み月」が縮まったとする説や、7月7日の七夕で願い事を書いた短冊(=乙姫と彦星への文)を笹に結ぶことから文月と呼ばれるようになったという説があるようです。

また、蒸し暑い(旧暦7月は現代の新暦でおよそ8月)ので書物がカビや虫に傷まないよう風を通すことから、文の管理に注意を要する月といった説もあります。
※このバリエーションで文披月(ふみひらきづき。書披月)というのもあります。
他にも7月の別名はたくさんあるので、その中から面白いものを紹介していきましょう。
■女郎花月(おみなえしづき)
女郎花の花が咲くのは8~9月、旧暦で7月に当たるため、このように呼ばれるそうです。

女郎花は『万葉集(まんようしゅう)』でも詠まれるほど古くから親しまれており、前栽(庭園の植え込み)や切り花など多く愛されてきました。また、生薬(根っこの敗醤根、花弁の黄屈花)としても活用されます。
また、花言葉は「やさしさ」「親切」「美人」だそうで、七夕の乙姫様にピッタリですね。
■開秋(かいしゅう)
読んで字の如く「秋が開く」と書いて開秋。旧暦では7~9月を秋としており、まさに秋が開き、始まりを告げる月を意味します。
同じ意味で、首秋(しゅしゅう)、初秋(しょしゅう)、新秋(しんしゅう)、早秋(そうしゅう)、肇秋(ちょしゅう。
■建申月(けんしんげつ)
北斗七星の末端にある星(建)が申(さる)の方角を向くため、そのように呼ばれます。別名を申の月とも。

ちなみに、申の方角とは西南西か、それよりやや南を指すそうで、起点となる真北(子の方角)を指すのは旧暦11月(建子月)となります。
■新涼(しんりょう)
暑い夏がようやく過ぎて、涼しい秋の始まりを告げる月だから新涼。他にも涼月(すずつき、りょうげつ)、賓涼(ひんりょう。賓は貴賓や迎賓など導く意)、涼天(りょうてん)など、様々なバージョンがあります。
現代の新暦感覚だと「まだ蒸し暑い梅雨すら明けていないのに、何が涼しいのか」と思ってしまいますが、気分だけでも涼しくしたいところですね。
■愛逢月(めであいづき。愛合月)
つい「あいあいづき」などと読んでしまいそうになりますが、これは年に一度の逢瀬を許された乙姫様と彦星様を指しているのでしょう。

七夕の当日、天気が悪いと「あーあ、これじゃ(天の川が見えない≒渡れないから)二人は逢えないね」などと言っていましたが、よく考えて見れば天の川は雲のはるか上空ですから、関係なく逢えているはず。
年に一度の逢瀬を存分に楽しんで欲しいところですが、そろそろ同居を許してあげてもいいのではないでしょうか。
■流火(りゅうか)

流れる火とはつまり流れ星のことで、ここでは蠍(さそり)座の心臓に当たる赤い星・アンタレスが徐々に西の水平線へと近づく様子を表わしたようです。
夏の星座である蠍座が徐々に姿を消すと、やがて冬の星座であるオリオン座が姿を現すようになり、寒くなっていく季節を実感できますね。
■終わりに
7月は梅雨から夏に移り変わる時期なので、日付が1ヶ月ずれると、季節感も大きく違ってくるものです。
新暦だと秋の訪れどころかまだ梅雨すら明けていない時期ではありますが、せめて気分だけでも涼しさを感じられるよう、こうした言葉を使ってみるのも趣深いものですね。
※参考文献:
角川書店 編『俳句歳時記 第五版 秋』角川書店、2018年8月
伊宮伶『異名・別名の辞典』新典社、2003年7月
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