いきなりですが、日本語って面白いですよね。

「さっき、JR鎌倉駅前のスターバックスでcoffeeを飲んだ」

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この何てこともない文章ですが、この中には「ひらがな、カタカナ、漢字、Alphabet」が含まれており、こんなごちゃ混ぜ状態であっても意味がキチンと通じる「懐の深さ」柔軟性を感じます。


しかし、柔軟性が高いということは、裏を返せば「使いこなすのが難しい」ということでもあり、日本語を学ぶ方からは、不評の声が上がることも。

「一つの文字でいくつも読み方があるのも、ややこしい!」

日本ひとつとっても「にほん」「にっぽん」「ひのもと」……漢字の存在が日本語の柔軟性と難易度を高めており、中には「漢字を廃止すべし」という意見も江戸時代・幕末期からあったそうです。

漢字文化が日本を滅ぼす?明治時代に「まいにちひらがなしんぶんし」を発行した前島密の危機感


郵便の父・前島密翁。その偉大な功績については、また改めて。

そんな一人に「日本郵便の父」として有名な前島密(まえじま ひそか)がおり、ひらがな文化を普及させるために新聞を発行。その名も「まいにちひらがなしんぶんし(毎日平仮名新聞紙)」。

一体どんな新聞だったのでしょうか。

■すべて ひらがな と かんすうじ で ひょうき

前島密はかねがね日本語、とくに漢字の複雑さについて憂慮しており、慶応2年(1866年)には江戸幕府の第15代将軍・徳川慶喜(とくがわ よしのぶ)に対して「漢字御廃止之議(かんじおんはいしのぎ)」という建白書を奉上するほど熱心な漢字廃止論者でした。

漢字文化が日本を滅ぼす?明治時代に「まいにちひらがなしんぶんし」を発行した前島密の危機感


阿片戦争で清国が敗れたのは漢字が原因!?

曰く「アメリカ人ウィリアム某の申すところによれば、清国がアヘン戦争に敗れるなど文化が衰退しているのは、難解な漢字を使用してきたためであり、同じく漢字を用いている日本も遠からず同じ末路をたどる……との事で、今後欧米列強と渡り合っていくためにも日本語表記を仮名文字に統一して情報処理や国民教育の合理化を図るべし(大意)」との事で、主張の是非はともかく、緊迫した国際情勢が感じられます。

結局この建白書が採用されることはなかったものの、日本の危機をどうにかしようと前島密は明治6年(1873年)に啓蒙社から「まいにち ひらかな 志んぶん志」を発行。

その紙面は平仮名と漢数字だけで構成され、これで誰でも読むことが出来る……筈だったのですが、これが逆に読みにくくて仕方ありません。

漢字なら「鎌倉駅」と書いてあれば一目で「かまくらえき」と認識できますが、平仮名で「かまくらえき」と書いてあると、一文字ずつ読んで行かないと、意味がわからない場面が出てきます。


また「鮭」や「酒」などのように同じ「さけ」の仮名表記でも、まったく意味が違う言葉についても読み違いのリスクが高まるなど、漢字に慣れ親しんだ者にしてみれば、不便なことこの上ありません。

漢字文化が日本を滅ぼす?明治時代に「まいにちひらがなしんぶんし」を発行した前島密の危機感


明治新聞雑誌文庫蔵「まいにちひらがなしんぶんし」第三三三号

結局、ひらがな統一の試みは失敗に終わり、「まいにちひらがなしんぶんし」は明治7年(1874年)に廃刊となったのでした。

■おわりに

昔から日本人は舶来ものを有難がる一方で、せっかく自分たちの培ってきた伝統文化を軽んじがちな島国根性があります。

しかしそれまで不動の存在と信じてきた清国がアヘン戦争でイギリスに敗れ、またアメリカの黒船が砲艦外交をしかけてきたショックが日本人の危機感を高め、こうした試行錯誤を生み出した事情は察するに余りあるもの。

漢字文化が日本を滅ぼす?明治時代に「まいにちひらがなしんぶんし」を発行した前島密の危機感


泰平の眠りを覚まされ、日本人の危機感が高まった(イメージ)

後世の私たちからすれば「そんなこと、試さなくても分かりそうなものだ」と思ってしまうかも知れませんが、その知恵は先人たちの失敗なくして得られるものではなかったはずです。

「まいにちひらがなしんぶんし」を(あるいはすべて平仮名表記にしてみた文章を)読んでみると、先人たちの苦労、そして様々な文字を織り込めてこそ発揮される日本語の豊かさを実感できることでしょう。

※参考文献:
文化庁 編『国語施策百年史』ぎょうせい、2006年1月
佐竹秀雄ら『日本語を知る・磨く ことばの表記の教科書』ベレ出版、2005年4月

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