岡山県の総社市槁という山深い場所に、「魔法神社」という名前の神社があるのをご存じですか?

日本と魔法ってなんだかミスマッチですよね。ドラクエやハリポタなど西洋をイメージする人が多いのではないでしょうか。


この魔法神社、ただしくは「魔法宮火雷神社(まほうぐうほのいかずちじんじゃ)」といい、ご利益は家畜の牛馬を守ってくれるとのことで、絵馬ならぬ絵牛が奉納されていたりします。

また、岡山県の吉備中央町には魔法と名のつく神社が点在しているのです。一体どんな神が祀られているのか…?と気になりますよね。

なんと、そこで祀られているのは「狸」なのです! 

ますます混乱してきました。

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南蛮渡来の化け狸の伝説

狸の名は「キュウモウ」といい、なんと宣教師達が日本に来たときに、船に混じって渡来してきた狸だといいます。そのキュウモウの物語は『備前加茂日本一狸由来記』(1849年)に残されています。

岡山県にある謎の「魔法神社」祀られているのは南蛮渡来の化け狸?!実はユダヤ人だった可能性も…

その物語をかいつまんで紹介します。

>>室町末期(1573年ごろ?)、南蛮の「合甚尾大王」が悪事をたくらみ、宣教師を日本に差し向けた。キュウモウはその船に紛れ込み渡来。日本全国をめぐって見物する日々をおくり、ある日「住吉大社」に参拝すると、ちょうど天変地異がおきます。その怪異は朝廷に報告され、「南蛮による危機が迫っているとのお告げかもしれない!」とのことで、急きょ天皇陛下が伊勢神宮などへ巡幸することがきまります。

キュウモウもこれは珍しいことと行幸の様子を見学。
しかし行列の牛車をひく牛が座り込んで動かなくなります。その様子を見ていたキュウモウは、その牛が背負う柳行李の間に入り込み、牛に揺られて備中国砦部村(現在の岡山県)へたどりつきます。そしてそのまま、大きな岩窟に住む事にしました。しかしそこには牝狸がいなかったので、仕方なく現地の狢(むじな)と交わり、子供を成します。

そして元文六年(1741年)の頃に、加茂の黒杭に銅山が開かれ、人夫が大勢集まり大変な賑わいとなります。キュウモウも金の虜になり茶屋遊びをして遊女に狂い、やがて気もおかしくなりましたが、銅山の賑わいが終わると、その穴にこもって何年も暮らしました。
明和九年(1772年)のある夜、キュウモウは牛につける農具を打ち叩き「サニヤンサニヤン(サンヤンサンヤン)」と言いながら山の峰で遊ぶようになりました。

キュウモウたびたび人に化けては、悪い噂を立てて人を惑わしたり、木の葉を金に変えて買物をしたりといたずらはするものの、村人は黙認していました。キュウモウは人に化けて稲作を手伝うこともあったからです。

しかしある日、キュウモウの団扇を盗んだ者の家を放火して、人を殺してしまいました。村人たちはさすがに成敗しようと山に出かけると、キュウモウは謝り、自分は大陸で知った知恵があり病気も飢餓もしないため、「これからは村の牛馬の難儀を助けて、火難・盗難から救います」といって姿を消してしまいました。後にはたくさんの注連縄が残されており、ぞっとした村人たちは「魔法様」として奉る事にしたのだといいます。


■なぜ魔法という?

え、ちょっとまって。キュウモウの話、謎だらけですね!
・合甚尾大王は一体誰?
・怪異とキュウモウの因果関係は?
・キュウモウの団扇ってどんなもの?
・残された注連縄ってなに?
・魔法様とまつることにしたのは何故?

なぜ「魔法」と呼ぶのかは、いくつか説があります。一つはもともと摩利支天の社が建っていた場所にキュウモウを祀ったから。摩利支天の「摩」と(キュウモウの)法力の「法」で魔法と呼ぶようになった、という説。

もう一つは、既に室町時代には「魔法」という言葉が登場しており「道を外れた邪悪な教えや術を指す」という意味から、キュウモウもその類として「魔法様」と呼ぶようになったという説。

確かに天狗のことも「外法様」と呼びますね。人智を超えた知恵を持つもの、という類語と考えれば納得です。

■魔法様はユダヤ人か宣教師?多くの謎が残る

ここからは筆者の推理も交じります。

注目するのはキュウモウが踊りながら口にしたという「サニヤン(サンヤン)」という言葉。この言葉の意味は書かれていません。

しかしわざわざ物語に書かれたということは何か特別の意味があり、キュウモウが頻繁に使っていたものの、日本人が理解できなかった言葉のはずです。

これはユダヤ人が言語とするヘブライ語の「協力者(サヤン)」を意味する単語に似ています。
キュウモウは日本人に向けて「私は協力します」、または「協力者です(害はないです)」と言っていたのではないでしょうか。

キュウモウが化けた人間は「口髭が濃く、顎が細い」特徴があったとのこと。髭をたくわえるユダヤ人や宣教師の特徴にもあてはまります。

また、ヘブライ語の「ソーラン」は「歌い手、リーダー、船頭」という意味ですが、「サンヤン」に似ていると思いませんか? ちなみに「ヤーレン、ソーラン」は「私は一人でも神に喜び歌う」というような意味だそうです。村人が聴いたサンヤンサンヤンはヤーレン、ソーランだったかもしれません。外国人キュウモウが、異国の地で歌う言葉にぴったりのような気がします。

荒唐無稽のようですが、「日本書紀」で登場する秦氏はユダヤ人だったという説もありますので、ユダヤ人が渡航してきた可能性は全くなくもありません。

また、火雷神社は雷の神ですが、その名の通り、キュウモウは火薬を調合したり操る知恵に長けていたのではないでしょうか。その知恵があったため、鉱山で働いていたとも考えられますね。ただ室町時代にきて、江戸時代まで生きたのは実際には整合性がとれませんので、どこかで存在が「伝説」に変化してしまったのでしょう。

ムジナと交わったというので、もしかしたら日本に子孫が残されたのかもしれません。それを示すようにキュウモウの子孫をまつる「久保田神社」も存在します。


また、前述した「由来記」には、キュウモウを慕って岡山県まで訪れた雌狸の話も唐突に挿入されています。その雌狸は人に化けて休憩していたところ、猟犬にかまれて死んでしまったとか。もしかしたらキュウモウを訪ねてきたのは、同じ船に乗った外国人か昔の恋人だったのかもしれません。

考えれば考えるほど謎は深まるばかりです…!
以前投稿した「吉備にまつわる鬼」の話にもあるように、岡山県には外国人のことと思われる土地や伝承があり、興味深いです。

謎に包まれた山城「吉備鬼ノ城」伝説の鬼、温羅の正体は?桃太郎伝説に迫る!

※参考サイト
http://digioka.libnet.pref.okayama.jp/mmhp/kyodo/waso/0002119527/pageframe.htm
http://hexagon.inri.client.jp/floorA1F/a1f1501.html
https://muplus.jp/n/n12c071c24e25
https://www.historyjp.com/dictionary/

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