千葉介常胤(演:岡本信人)「側女(そばめ)にうつつを抜かし、舅にも愛想を尽かされるようでは、坂東武者の主とは言えん!」源頼朝(演:大泉洋)の浮気が発端で舅の北条時政(演:坂東彌十郎)が鎌倉を去り、御家人たちも愛想を尽かしつつある中、江間義時(演:小栗旬)の気苦労は絶えません。
頼朝「勝手なことばかり抜かしおって!」頼朝に国単位の所領をせびろうとして追い出された源行家(演:杉本哲太)は信濃にいる木曽義仲(演:青木崇高)を頼り、その義仲を陥れるべく甲斐の武田信義(演:八嶋智人)が密告。
義時は源範頼(演:迫田孝也)と三浦義村(演:山本耕史)の3人で義仲への使者に立ち、敵対の意思がない証拠に人質を求めたところ、義仲は嫡男の木曽義高(演:市川染五郎)を鎌倉へ送り出すのでした。
拒絶される頼朝(イメージ)
一方、あれだけの事件があっても懲りずに浮気を繰り返す頼朝ですが、亀(演:江口のりこ)の前には正室の政子(演:小池栄子)がいて失敗。今度は旧縁の八重姫(演:新垣結衣)に迫ったものの、既に心は離れていたようです。
頼朝「是非もない。鎌倉へ帰ろう」そこへ一途な義時が相変わらず土産を持参し続け、ついに八重姫はほだされたのでした。めでたしめでたし。
安達盛長(演:野添義弘)「……それがよろしいかと」
……というNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第13回のサブタイトル「幼なじみの絆」とは、義時と八重姫の事だったようです。
今週も展開が目まぐるしく駆け抜けて行きましたが、以下いくつか印象的なエピソードをピックアップして、今回の振り返りといきましょう。
■上総介広常(演:佐藤浩市)の不吉な発言
「お前さんも大変だよな、次から次へと」義時の兄貴分であり、相談役にもなっている広常は、御家人たちの反感に対して弱気な頼朝や義時を叱咤します。
「強気で行こうぜ。武士(もののふ)なんてモンはよ、結局度胸があるやつに従うんだ」
「現に俺は、武衛(頼朝)のそういうとこに惚れたんだ。だろ?あいつはそれができる男なんだよ、武衛は」
「……下手をすると、鎌倉は真っ二つに割れちまうぞ」

鎌倉殿へ仇なす者がいるとしたら、それは誰か(イメージ)
鎌倉が真っ二つに……片方が頼朝として、もう片方は……実に不穏な発言です。
義時「その時、上総介殿はどちらにつかれるおつもりですか」酒を呷ってごまかした広常ですが、内心では「そりゃ当然、武衛だ」と思っていたでしょうか。
広常「さぁ、どうするかな」
それとも「どのみち、俺がついた方が勝ちだ」と確信した上で、武衛を超える将器が現れれば鞍替えするかも知れません。
ここではっきり言わないのは、義時そして武衛の油断を生まない配慮かと思われます。
■比企能員(演:佐藤二朗)&道(演:堀内敬子)夫婦の野望
能員「ん~。世の中、何がどう転ぶか分からんな。時政が鎌倉を離れてしまっては、北条も軽く見られよう」
時政の不在に乗じて源氏一門に取り入ろうとする比企能員(演:佐藤二朗)とその妻・道(演:堀内敬子)。
道「この先は、我が比企の出番でございますね」
能員「まずは万寿(頼朝の嫡男。後の源頼家)様を立派なお子に育て上げねば」
それにしても、いきなり寝転んでの場面転換(登場)には少し面食らいました。能員はともかく、道がそういうポーズをとるイメージがなかったのです。
道「足りませぬ。北条がそうしたように、我らも源氏に取り入るのです」この辺りから、権力への野心が芽生えたのかも知れませんね。
能員「送り込むか、娘たちを」
道「食い込むのです。ぐいぐいと(能員のほっぺたを指先でぐいぐい)」

終生の伴侶となる義経と里(イメージ)
果たして送り込んだ娘の常(演:渡邉梨香子)と里(演:三浦透子)の内、里の方が源義経(演:菅田将暉)の心をとらえました(常をあてがうつもりだった範頼は、その誘いをキッパリ拒否)。
彼女が後の郷御前(さとごぜん)、義経の正室として終世添い遂げることになります。武蔵国の豪族・河越重頼(かわごえ しげより)の娘で、母方の祖母が比企尼(演:草笛光子)となります。
義経が比企に取り込まれつつある状況をどのように描くのか、楽しみですね。
■敷かれたレールは行きたくない?三浦義村の憂鬱
「楽しいだろ、生きていて……何が起こるか分からない人生、うらやましいわ。」日々目の前のことに追われる義時をうらやむ盟友・義村は、木曽にやって来ても、巴御前(演:秋元才加)に言い寄ります。まったく次から次へとよく飽きませんね。
「俺は当たり前のように家督を継いで、三浦の一族を率いていく。後はたまに女をからかって遊ぶぐらいが関の山だ」
「おめかしすれば、相当いい女子(おなご)だな」まぁ、ひとふた昔前に流行った「敷かれたレールを行くような人生は嫌だ」「でも、踏み出す勇気はないから女遊びで気晴らししているんだ」というキャラクター設定のようですね。
義村「(巴御前の喉元に竹ひごを当てて)初恋の相手か」
巴御前「(竹ひごを払い、短刀を突きつける)斬り捨てられたいか」
義時「(義村が)申し訳ない。こいつは女を見るとちょっかいを出したくなるんです」

木曽義仲と巴御前。歌川芳員筆
しかし平六(義村)殿。ただ総領の嫡男だからと言う理由で家督を継いで、あの三浦一族を率いていくのは並大抵の苦労ではありません。
また令和現代の視聴者にしても「レールを敷かれていることが、どれほどありがたいか」骨身に沁みている方は決して少なくないでしょう。
たとえレールから外れるにしても、その資産は間違いなく人生におけるアドバンテージとなります(活かすか否かは当人次第ですが)。
巴御前の「斬り捨てられたいか」ではありませんが、三浦の犬(一族)に食い殺されぬよう、ゆめゆめご油断遊ばされますな……と感じました。
■まさに名言の宝庫!木曽義仲の堂々たる振る舞い
「源氏が一つになり平家を滅ぼす。これが俺の望みだ」遠路はるばる信濃へやってきた義時たちを快活に出迎える義仲。酒を酌み交わし、釣ってきた魚を焼きながら談笑します。
「噂とは、流す者に都合よくできている。惑わされてはならん」平家と通じていない証として人質を求めた義時は、行家を出すよう提案しますが……。
「叔父上は渡せん」第1回「大いなる小競り合い」で時政が頼朝を守り通すと決めた時に通じる東国武士の気概が感じられます。
「どんな男かは関わりない。俺は自分を頼ってきた者を追い出すようなまねはできぬということだ」
では、誰を人質にするか……義仲は「息子でいい」と事もなげに言い出しました。
「男には、守らねばならぬものがある。義高でいい」今は源氏同士が力を合わせるべき時。その大義のためであれば、大切に育て上げた息子の命さえ惜しまない。なかなか言えることではありません。

義仲の嫡男・清水義高。歌川国貞筆
流石に何か交換条件を要求してくるかと思った義時たちに一言。
「何もいらん。これが、俺の誠(まこと)だ」そんな父に応える嫡男の義高。人質になるという意味を百も承知で、迷いなく答えました。寸毫たりとも父を疑わぬその双眸が、実に美しく輝いています。
「父上のためなら、どんな苦労もいといませぬ」親子とは言え、わずか十年ほどの間にここまでの絆を培い上げた義仲。田舎者らしい粗野な振る舞いは見られるものの、大将の器(今後の伸びしろ)を充分に期待させてくれますね。
「父を信じろ」「はい」
■次週・第14回放送「都の義仲」
他にも何だかんだ絆の篤い北条ファミリーや、カムバック?した文覚(演:市川猿之助)と阿野全成(演:新納慎也)&実衣(演:宮澤エマ)夫婦の祈祷合戦。亀が政子に放った身を引き際の一矢、駄々をこねる義経などなど、今週も見どころだらけで拾い切れませんでしたね。
次週・4月10日(日)に放送予定の第14回は「都の義仲」。当初は平家討伐の時期を慎重に見計らっていた義仲でしたが、「獅子身中の虫」行家の口車に乗せられたのか、一気に上洛を果たすようです。

上洛を果たした木曽義仲と巴御前。歌川芳虎筆
それに焦りを隠せない頼朝ですが、前に広常がほのめかした通り、上洛どころか鎌倉そのものが崩壊しかねない状態に。
梶原景時「……本日、三浦館に集まった者の名は、ここに控えておりまする」御家人たちにくすぶる不満、それを頼朝と義時はどう対処して行くのか……来週も目が離せませんね!
千葉介常胤、土肥次郎実平(演:阿南健治)、岡崎四郎義実(演:たかお鷹)、三浦介義澄(演:佐藤B作)、同平六義村、和田小太郎義盛、畠山次郎重忠(演:中川大志)、江間小四郎義時
頼朝「相変わらず、手回しが早いな」
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 前編』NHK出版、2022年1月
- 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 完全読本』産経新聞出版、2022年1月
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